深々と頭を下げ、「申し訳ございません」と繰り返し謝罪をしているにもかかわらず、相手の怒りがおさまらない……。
そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。あるいは、逆の立場として、相手が謝れば謝るほど、むしろ不信感が募ったという経験もあるかもしれません。
実は、「謝罪の仕方」には、相手の心理に基づいた効果的なアプローチが存在するのです。
今回は、相手に気持ちが伝わる「ビジネスシーンでの謝罪の方法」についてまとめます。
仕事でのトラブルは誰にでも起きる
仕事をしていると、社内・社外を問わず、予期せぬトラブルはつきものです。
例えば、コミュニケーション不足による誤解が生じて業務に支障をきたしてしまったり、納期の変更や取引先からの急な要望に適切な対応ができず問題になってしまったりして、謝罪が必要になった経験は誰しも一度はあるでしょう。
そのような状況で謝罪をするときでも、相手の感情をくみ取り、誠意をもって接することができれば、謝罪は単なるお詫びを超えて信頼構築のきっかけになります。
「謝るということは、相手の感情に一歩踏み込む行為。誠意ある謝罪はピンチをチャンスに変える可能性も秘めてい」ると話すのは、心理学を取り入れたコミュニケーション研修などを行なう藤田尚弓氏。*1
とはいえ、ただ深々と謝ればいいわけではありません。
ピンチをチャンスに変えるには、誠意ある「行動」と「言葉」が大切なのです。
【行動編】「謝罪はすぐする」がベスト
ピンチをチャンスに変える「行動」とはどのようなものでしょうか。それは、相手の視点を的確に把握してすぐに謝罪することです。
「申し訳ありませんでした」とただ謝るだけでは、なにに対して謝罪しているのか不明確で、誠意が伝わらない可能性があります。
また、すぐに謝らなければトラブルを軽視していると思われかねませんし、電話やメールで済まそうとすれば、無責任で信用できないと拒絶されてしまうかもしれません。
謝罪の内容は具体的に、そしてすぐに直接謝罪に向かう必要があるのです。
高井・岡芹法律事務所の創業者で人事・労務を専門とした故 高井伸夫氏は、「怒りの発火点の核心を掴」み、「トラブルが生じたらアポなど取らなくてよいから、何はさておき相手のもとに駆けつける」のが重要だと述べます。*2
もしすぐに相手のもとに駆けつけて謝罪をすれば、以下のような効果も期待できるでしょう。
- ●問題が起こっても責任をもって対応する会社だと印象づけられる
- ●直接謝罪することで、相手の不安や疑問をその場で解決できる
- ●直接会うことで、問題の影響範囲や相手の要望をより詳細にヒアリングでき、フォローアップの方向性が明確になる
トラブルが起こると、物事が順調に進んでいるときには見えなかったことがあらわになります。しかし、迅速な対応と誠意ある行動が、その後の信頼関係を左右するのです。
では、実際の謝罪の場では、どのような言葉を選ぶべきでしょうか。
そのうえで、的を射た謝罪をするのが肝心。ただひたすら謝り倒すのでは、「自分のしたことが本当にわかっているのか!」と、火に油を注いでしまう可能性があります。
なにについて謝っていて、どうするつもりなのかを明確に伝える必要があるのです。
一般財団法人NHK放送研修センターで企業・自治体向け研修や教育現場向け研修などを行なう合田敏行氏は、謝罪するときに大切なのは「3つのお詫び、1つの約束」だと言います。*3
- 出来事を詫びる
- 原因を詫びる
- 相手の気持ちに対して詫びる
- 「未来」に向けて約束する
たとえば、顧客の業務に深く関わるシステムの納品が遅れる場合で考えてみましょう。
- 出来事を詫びる:この度は、納期に間に合わず多大なご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません。
- 原因を詫びる:開発工程の一部において予想外の技術的課題が発生し、必要な性能や安定性の確保に時間を要したため納期に遅れる事態となってしまいました。
- 相手の気持ちに対して詫びる:今回のシステムは貴社の業務運営において欠かせないものであり、信頼を大きく裏切ってしまったことを心からお詫び申し上げます。
- 「未来」に向けて約束する:納品までの代替案として◯◯を提供いたします。今後の進捗状況については、都度報告させていただきます。少しでも信頼を回復できるよう、引き続き誠意をもって対応してまいります。
忘れてはいけないのが、相手の気持ちに対しての謝罪を盛り込むこと
合田氏も「『相手の気持ち』に対する謝罪」の有無によって「お客様の受ける印象が大きく変わる」と話します。
口だけの謝罪ならされないほうがマシだと思った経験はありませんか? 誠意をもって謝罪して信頼を得るには、相手の気持ちに配慮した、心のこもった謝罪が大切なのです。
【言葉編】謝罪のときに使えるフレーズ
次に、ピンチをチャンスに変える「言葉」を見ていきます。前出の出来事とその原因、未来に向けた約束については、状況をしっかりと把握できれば的確な言葉を選べるでしょう。
しかし、相手の気持ちを配慮する言葉については、ある程度の語彙力が必要です。
伝える力【話す・書く】研究所所長の山口拓朗氏は、「闇雲に『申し訳ございません』を連発しているようでは、相手に誠意が伝わ」らないと語ります。*4
自分の身に置き換えて考えてみても、申し訳ございませんばかり連発されては、ほかに言うことはないのかという気持ちになってしまうと思います。
そこで覚えておきたいのは、謝罪の言葉と反省の言葉を合わせて使うということ。
明治大学教授の齋藤孝氏は、トラブルの原因や今後の対応について話す前の「口火を切る言葉」として、謝罪と反省の言葉を合わせることをすすめています。*5
たとえば、このようなフレーズはどうでしょうか。
- 「この度の対応の不備は、私どもの認識が甘かったためです。深くお詫び申し上げます。」
→ 問題の原因を認めた上で謝罪 - 「ご指摘の件につきまして、私どもの確認が不十分でした。大変申し訳ございません。」
→ 具体的な反省点を示して謝罪 - 「お客様にご心配をおかけする事態となり、担当者として重く受け止めております。」
→ 相手の立場に立った認識を示す - 「このような事態を招いてしまい、私どもの管理体制の甘さを痛感しております。」
→ 組織としての反省を示す
ここで気をつけたいのが、「すみません」というフレーズ。齋藤氏が言うには、汎用性の高い言葉なので軽くとらえられる恐れがあるのだそう。*5
「すみません」というフレーズは、人に声をかけるときにも、恐縮しながらお礼の気持ちを伝えるときにも使えますよね。
トラブルが起きた事態を重く受け止めて反省している気持ちを伝えるなら、上記で挙げたような謝罪でしか使えないフレーズを選ぶのが肝要なのです。
謝罪をチャンスにするには、行動+言動がカギ
ここまで、ピンチをチャンスに変える 「行動」と「言葉」をそれぞれ見てきましたが、その両方ともが大切であることを忘れてはいけません。
すぐに謝罪したとしても、そのときに使ったフレーズが「すみません」ではいけませんし、謝罪のフレーズをどんなに多く知っていたとしても、謝罪の内容が適切でなければ反省が伝わらないでしょう。
「行動」と「言葉」の両輪を意識することが、謝罪をチャンスにするカギなのです。
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謝罪によって信頼を回復できるかどうかは、謝罪のしかたに大きく左右されます。よりよい関係性を築くための参考として本記事をご活用いただければ幸いです。
※引用部分の太字は筆者が施した
*1 All About|謝罪の言葉とNG例文集 ビジネスでの許したくなる謝り方は?
*2 プレジデントオンライン|トラブル発生! 仕事上の「謝罪」6つのアクション
*3 東洋経済オンライン|クレーマーの怒りを「鎮火」させる意外な一言
*4 リクナビNEXTジャーナル|仕事のピンチをチャンスに! 知っておいて損しない“謝罪フレーズ”とは?―山口拓朗の『できる人が使っている大人の語彙力&モノの言い方』
*5 ライブドアニュース|デキる人はやや大げさな「謝罪語」を使う
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。