たとえば、面接で「この人は仕事ができそう」と感じたとき──それ、本当にその人物の本質を見ているのでしょうか?
私たちは、スーツの着こなし、口調、学歴、経歴といった 「いかにも優秀そうな特徴」 を見ただけで、「仕事もできるに違いない」と判断してしまう傾向があります。
あるいは、擦り切れたジーンズにロックバンドふうのTシャツを着た「大学教授」の前を通り過ぎ、ジャケットを羽織り眼鏡をかけている「まったく関係ない人」に「〇〇教授ですか?」と尋ねてしまうこともあるでしょう。
これは、「代表性バイアス」と呼ばれる認知のワナ。
「代表性バイアス」は、それっぽさに基づいた直感的な判断の近道――いわゆる代表性ヒューリスティックに頼りすぎて生じる認知の歪みや誤りを指します 。見た目や雰囲気が、その人の本質を語ってくれるわけではないのです。
こうした状況を避けるためには、統計学者のように考えたり、論理的思考を学んだり、ゆっくりと時間をかけて考えたり、誰かに指摘してもらったりすることが役立ちます。
本記事では、この代表性バイアスの正体を探り、それを回避するためのチェックリストを提案します。
代表性バイアスとは何か
私たちは何かを判断するとき、「それっぽさ」に頼ることがあります。
たとえば「内向的でメガネをかけた人=数学者」と直感的に思うのは、頭のなかにある数学者っぽいイメージ(プロトタイプ)と似ているからです。
こうした判断のための思考の近道を「代表性ヒューリスティック」と呼びます。1970年代に、心理学者アモス・トヴェルスキー氏とダニエル・カーネマン氏によって提唱されました。*1 *2
この直感的判断は、時間がないときや情報が不足している場面では便利な手段ですが、「似ている=正しい」と常に思い込んでしまうと、誤った結論を導くことがあります。
そして――
このように、代表性ヒューリスティックに過度に依存することで起きる認知のゆがみを「代表性バイアス」といいます。*1 *2
ビジネスシーンでの代表性バイアス
代表性バイアスは、ビジネスシーンにも多く潜んでいます。以下に例を挙げましょう。
● 営業の現場でのケース
笑顔や相槌=関心がある人の典型パターンととらえ、「これは好感触だ」と判断してしまったのです。
それっぽい反応に引きずられ、ニーズを深掘りしないまま進めてしまったことで、代表性バイアスに陥った典型例といえるでしょう。
● 採用の場でのケース
しかし入社後は、言われた仕事はなんとかこなすものの、自発的に動くことができない。わからないことも聞き返さずにやってしまうので、とにかくあとが大変。結局、半年で会社をやめてしまった……。
ここで起きていたのは、「高学歴=即戦力」という先入観。ステレオタイプに基づいた “それっぽい人物像” が判断を曇らせた、代表性バイアスの典型パターンです。
このように、「それっぽさ」で判断すると、ニーズを見誤ったり、適性のない人を採用してしまったりする可能性があります。
本来得られたはずの成果や機会を逃してしまうリスクが、代表性バイアスには潜んでいるのです。
代表性バイアスを避けるための方法
では、どうすれば代表性バイアスを避けられるのでしょう?
行動経済学をビジネスに応用する専門サイト「InsideBE」と、行動科学に特化したシンクタンクの「The Decision Lab」は、代表性バイアスを回避するための方法として、次の要素を挙げています。*1 *2
BIAS PREVENTION STRATEGIES
すなわち代表性バイアスを避けるためには、「直感」ではなく「統計・論理・対話」による判断を習慣づけることが有効なのです。
代表性バイアスに気づくための「自己チェック」
そこで、前章をふまえながら、代表性バイアスに気づくための「自己チェック」をつくってみました。
✔ 自己チェックリスト
例:「見た目が優秀そう」「話し方が自信ありそう」など。
例:「なんとなくよさそう」と「実際に成果を出している」は別物。
例:「最初の5分の印象」や「1回の経験」で判断していないか。
例:「リーダー経験がある=人を動かせる」「静か=内向的」など。
焦って決めたくなったときほど、バイアスが強く働く。
信頼できる誰かに、自分の判断理由を説明できるか。
一瞬の印象に引っ張られそうになったら、このリストに立ち返りましょう。判断を「止めるクセ」が、思い込みの罠からあなたを守ってくれます。
判断や意思決定の前に、ぜひ自分自身に問いかけてみてください。
「自己チェック」の効果
筆者も実際にこのチェックリストを取り入れてみたところ、大切な判断をする前に、主観や第一印象が事実とかけ離れていることを自覚できました。そのおかげで、謝った判断をせずに済んだと思います。
ただし、とっさの判断が必要な場合には、このチェックリストをすべて網羅することが難しいはずです。そこで、瞬間的な実践の際には、まず以下の問いだけを行なうようおすすめします。
「それっぽい」という印象だけで決めつけていないか?
これだけでも、何もしない場合に比べて大きく違うはず。よろしければ、心に留めておいてみてください。
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いま、ビジネスの現場では、スピードと効率が求められる一方で、それっぽさに引きずられた判断ミスが、思わぬ損失を生む場面も増えています。
代表性バイアスは、誰にでも起こりうる認知のクセ。だからこそ、気づける仕組みと、立ち止まる習慣が大切です。
ほんの数秒の「自己チェック」が、あなたの判断力を一段と磨いてくれるはずです。
*1: InsideBE|Representativeness Heuristic – Everything You Need to Know
*2: The Decision Lab|Why do we use similarity to gauge statistical probability?
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。