39歳・長友佑都はなぜ選ばれ続けるのか——中堅・ベテランが学びたい「役割を変える」という技術について

39歳の日本人サッカー選手

若手の吸収の早さに、ふと気圧されることがある。新しいツールをすぐ使いこなす姿を見て、「自分はもう伸びにくい年齢かもしれない」と感じる。40代が近づくと、そんな瞬間は誰にでも訪れます。

しかし、年齢を重ねた人の強みは、若さと同じ土俵で勝つことだけではないはずです。サッカー日本代表の長友佑都選手は、30代後半になってもなお代表に選ばれ、ピッチ内外で存在感を示し続けています。

注目したいのは、単なる体力や精神力ではありません。長く第一線に残る人は、自分の武器を固定せず、チームや状況に合わせて「役割」を更新しているように見えます。

長友選手のキャリアをヒントに、年齢や経験を「古さ」ではなく「使える価値」に変える考え方を整理します。「自分は何ができるか」ではなく、「いま周囲から何を求められているか」を捉え直してみませんか。

長友佑都に学ぶ、選ばれ続ける人の「武器の変え方」

その長友選手は、1986年生まれ。2026年のFIFAワールドカップ北中米大会に、FC東京所属のDFとして選出されました。日本代表として史上初、単独最多となる5大会連続のメンバー入りです。*1

若い頃の長友選手といえば、170cmの小柄な体で左サイドを駆け上がる、豊富な運動量とスピードが武器でした。

けれど、いまの代表での役割は、当時とは大きく変わっています。

象徴的なのが、長友選手自身が口にする「空気清浄機」という言葉です。*2

大会中はベンチから誰よりも大きな声で仲間を鼓舞し、過去4大会で得た教訓を若手に伝える。ムードメーカーの域を超えた存在として、チームに欠かせないピースになっています。

この振る舞いは、その場のノリではありません。2024年に代表へ復帰してから今大会まで、長友選手は出番のないまま20試合ほどを、ベンチやスタンドからの鼓舞に費やしてきました。

本人も、「出ている選手に勇気を与えたい」という思いで声を出し続けたと語っています。*3

その姿は、まわりにも届いています。あるチームメートは、長友選手を「ベンチでも一番声を出している」と評し、だからこそ彼がそこにいるのだと認めました。*4

ピッチ外から応援しているサッカー選手

森保一監督も、過去4大会で培った経験と、コミュニケーション面でチームに与える影響力を、選出の理由に挙げています。*1

しかも長友選手は、“盛り上げ役”だけの存在ではありません。スウェーデン戦では後半30分に「戦力」として送り出され、5大会連続出場を果たしました。*3

役割の重心を移しながら、ピッチに立てば守備でも貢献できる。その両方を、いまの自分の形で示しています。

これは、仕事にも重なります。若い頃は「自分が一番動く人」だった人が、ある時期から「周囲を動きやすくする人」になる。

長友選手が走力を“チームを動かす力”に置き換えたように、選ばれ続ける人は、過去の武器を捨てているのではなく、いまの場面で使える形に変えているのです問題は「若さがなくなったこと」ではなく、「若い頃と同じ勝ち方をしようとしていること」なのかもしれません。

能力より先に、「求められている役割」を見る

ポイントは、能力を増やすより先に「いま何を求められているか」を見ることです。

仕事で評価されにくくなると、「もっと勉強しなければ」「もっと成果を出さなければ」と考えがちです。もちろん努力は大切でしょう。ただし、努力の方向がずれていると、頑張っているのに空回りしてしまいます。

たとえば、会議で若手が資料作成に迷っているとします。ここで経験者が「自分ならこう作る」と全部直してしまうと、たしかに資料は整うかもしれません。

でも、若手は次も自分で判断できないままです。

一方で、「この資料は、最初に読み手の不安を消すと通りやすいよ」「この数字だけ先に確認しておくと安心だよ」と、判断の軸をひとつ渡す。すると相手は自分で動きやすくなります。

経験は、語るより「使える形で差し出す」ほうが、チームの力になりやすいのです。

ベテランが若手に指導する姿

学習心理学者のZimmermanは、成果につながる学びには、自分の行動を振り返り、目標に合わせて調整するプロセスが関わると説明しています。

仕事でも、「自分は何ができるか」だけでなく、「この場面では何を求められているか」を見て行動を調整することが、成長を支える可能性があります。*5

能力を増やす前に、役割の置き場所を変える。それだけで、同じ経験がまったく違う価値を持ち始めます

今日の仕事で使える「役割更新メモ」を3行だけ書く

では、どうすれば自分の役割を更新できるのか。大きな転職や学び直しから始める必要はありません。

まずは、今日の仕事のなかで「自分の経験をどこに置くか」を、次の3行だけ書いてみましょう。

✍️ 役割更新メモ(所要1分)

1

今日、周囲が困っていそうなこと

例|新人が確認ポイントを見落としそう/会議が脱線しそう/判断基準がそろっていない

2

自分の経験で助けられそうなこと

例|過去に似たミスを見た/資料の型を知っている/関係者が気にする点がわかる

3

今日ひとつだけできる貢献

「全部直す」ではなく「確認ポイントをひとつ渡す」。出しゃばりすぎないのがコツ

小さな成功体験は、「自分にもできそう」という感覚を支える要素のひとつとされています。自己効力感の研究でも、実際にできた経験は、その後の行動への自信に関わると説明されています。*6

だからこそ、最初から大きく変わろうとしなくて大丈夫です。

今日の自分が、誰のどんな詰まりを少し軽くできるか。まずはそれをひとつ見つけるだけで十分です

若さに戻るより、「いまの自分の使い方」を変えよう

年齢を重ねると、若手と比べて落ち込む瞬間はあります。新しいものへの反応速度、体力、勢い。

比べれば、足りないものが見えてしまう日もあるでしょう。

でも、経験を重ねた人には、経験を重ねた人にしか見えないものがあります。うまくいかない流れ。会議がこじれる前兆。新人がつまずきそうなポイント。上司が気にする判断材料。

そうしたものは、若さではなく、積み重ねてきた時間が見せてくれます。

長友選手の姿から学べるのは、「年齢に負けるな」という根性論だけではありません。

むしろ、年齢とともに変わる自分を受け入れ、そのときどきで価値の出し方を変えていく姿勢です。

いまの自分を、いまの場所でどう使うか。それを見直すことが、キャリア後半の伸びしろになります

***

まずは今日、仕事の前か終わりに1分だけ、こう書いてみてください。

「今日の自分は、誰のどんな詰まりを軽くできるか?」

その1行が、あなたの経験を「昔の武器」ではなく「いま使える力」に変える、最初の一歩になります。

光に向かっている男性

よくある質問(FAQ)

Q. 年齢を重ねると、本当に成長は止まってしまうのでしょうか?
A. 体力や反応速度など若さに依存する面は変化しますが、成長そのものが止まるわけではありません。経験を重ねた人には、トラブルの兆候を察知する力や、判断材料を整理して渡す力など、時間をかけて培われる強みがあります。問題は「伸びなくなること」ではなく、「若い頃と同じ勝ち方を続けようとすること」にある場合が多いといえます。

Q. 「役割を更新する」とは、具体的に何をすればいいのですか?
A. まずは「自分は何ができるか」ではなく「いま周囲から何を求められているか」を書き出すことから始めます。「役割更新メモ」のように、①周囲が困っていそうなこと、②自分の経験で助けられそうなこと、③今日ひとつだけできる貢献、の3行を書くだけでも、経験の置き場所が見えやすくなります。

Q. 経験を活かそうとすると、つい口を出しすぎてしまいます。どうすればよいですか?
A. 「全部直す」のではなく「確認ポイントをひとつ渡す」ことを意識すると、出しゃばりすぎを防げます。相手が自分で判断できる余地を残したまま、判断の軸をひとつだけ差し出すイメージです。経験は語るよりも、相手が使いやすい形で差し出すほうが、チームの力になりやすいといえます。

Q. 長友佑都選手の例から、ビジネスパーソンが学べることは何ですか?
A. 「39歳でも若い頃と同じように動けばいい」という話ではなく、「年齢や状況に合わせて価値の出し方を変え続ける姿勢」です。長友選手は、若い頃の運動量やスピードといった武器を、経験を伝える力やチームを鼓舞する力へと、いまの場面で使える形に置き換えています。その置き換えは意図的で、出番のないベンチでも「勇気を与えたい」と役割を全うし続けた点が、仕事にも重なります。

【ライタープロフィール】
橋本麻理香

大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。