やる気が出ないのは“あなたのせい”じゃなかった──「先延ばし脳」を切り替える3つの行動術

目覚まし時計に「LATER」と書かれたポストイットが貼られている

「今日中に資料を仕上げようと思ってたのに……」

夜、たいして興味もないSNSを延々と眺めながら、ため息をつく。

「なぜいつも先延ばしをしてしまうのか」

締切直前になって焦る、「やらなきゃ」と思いながらも別のことに時間を費やす、ToDoリストを作っても実行できない——。

こんな「先延ばし癖」に悩むビジネスパーソンは少なくありません。しかし、あなたの生産性を下げている先延ばし行動には、実は脳科学的な理由があります。仕組みさえ理解すれば、先手を打って先延ばしを回避することは可能なのです。

この記事では、先延ばしを生み出す脳のメカニズムと、今日からできる具体的な「先延ばし防止アクション」を、行動科学の知見をもとにやさしく解説します。

なぜ人は「やらなきゃいけないこと」を後回しにしてしまうのか?

「今日こそはやろうと思っていたのに、気づいたら1日が終わっていた」——そんな経験はありませんか? ToDoリストもリマインダーも効果ナシ。やるべきことはわかっているのに、ついつい後回しにしてしまう……。いったいなぜこのようなことが起きるのでしょうか。これには、脳の仕組みが関係しています。

脳のリハビリを専門とする作業療法士の菅原洋平氏は、先延ばしの脳科学的な理由について以下のように説明しています。

脳の先延ばしメカニズム

  • 「脳には『次の出来事を予測して指令を出し、予測通りに進めたがる』という特徴」がある
  • 「全く新しいことを始めたり、経験があることでも予測できない情報が入ってきたりすると、脳はどうしたらいいかわからなくなり、体にうまく指令を出せなく」なり、その結果面倒くさいと感じて先延ばしにつながる *1

たしかに、時間がかかりそうな作業を目の前にすると「面倒だな……」とストレスを感じ、つい先延ばしにしてしまいますよね。そしてなぜか、まったくいまやる必要がないこと——たとえば、部屋の片付けや、興味のない動画をひたすら見続けることなどに時間を費やしてしまうのです。心理学ではこれを「セルフ・ハンディキャッピング」と呼びます。

実験心理学を専門とする静岡産業大学経営学部教授の山田一之氏は、このセルフ・ハンディキャッピング現象について、次のような見解を示しています。

「ヒトには往々にして、将来における大きな報酬よりも、我慢しないですぐに手に入る小さな報酬の方を選んでしまう傾向がある」*2

例:締切に間に合わせる達成感(将来の大きな報酬)より、SNSで「いいね」をもらう小さな喜び(即時の小さな報酬)を選びがち

部屋の片付けやSNSを見ることは、目の前の作業に向き合うよりもずっと簡単に「楽しい!」「すっきりした!」という気持ちを感じることができますよね。このように、脳がストレスを避け、より楽に報酬(気持ちいいこと)を得られる選択をした結果、先延ばしが起こるのです。

 

📌 この章のまとめ

  • 先延ばしは「意志の弱さ」ではなく、脳の基本的なメカニズムが原因
  • 不確実性に直面すると脳は「面倒くさい」と判断して回避行動を取る
  • 脳は即時の小さな報酬を、将来の大きな報酬より優先しがち

であれば、先延ばしの防ぎ方も、この脳の仕組みを利用すればいいわけです。次章では、「先延ばし脳」を簡単に切り替えるための方法を、具体的なアクションを交えて3つ紹介します。

仕事を先延ばしにしている女性

今日からできる「先延ばし脳」を変える3つのアクション

1 「気晴らし」からヒントを得る

こんな人におすすめ:勉強や作業が続かず、つい「気晴らし」に逃げてしまう

「先延ばしをしているときに、代わりに何をしているか」に着目してみましょう。そこには、自分が心地よさ(報酬)を感じる要素が隠されています。

「行動分析学」の専門家である明星大学心理学部教授の竹内康二氏は、「ある行動に後続して生じることで、再びその行動が起きやすくなるような刺激や出来事を『強化子』」と呼ぶと説明しています。*3 

強化子の例

たとえば、動画を観て「おもしろかった」と感じてまた観たくなったなら、 「おもしろい」という刺激が強化子

先延ばしで代わりにしている行動のなかには、強化子が含まれています。それをヒントにして、思わず勉強や作業をしたくなるように工夫してみましょう。

【具体的なアクション例】

もし先延ばしのときにオンラインショッピングをしているなら……

  • 「選択する楽しさ」に惹かれているのかもしれない。
    →プロジェクトの複数の選択肢を比較検討する形式でタスクを組み立てる。

もし先延ばしのときにSNSを見ているなら……

  • 「すぐ刺激が味わえること」が好きなのかもしれない
    →資料作成を15分単位で区切り、1ブロック終わるごとにSNSを1分だけ解禁する

2「いつ・どこで・何を」まで決める

こんな人におすすめ:予定は立てるけど、結局その通りに動けず後悔しがちな人

「今日中にやる」というのは、具体的な締切に見えて、案外漠然としているもの。今日のなかでも「いつ・どこで・何を」するのかを決めておかないと、ほかの予定や誘惑に簡単に押し流されてしまいます。そこで活用したいのが「実行意図(Implementation Intention)」という概念。

実行意図: 心理学者のピーター・ゴルヴィツァー氏が開発した概念で、「いつ・どこで・何をやるか」をあらかじめ明確に決めておくことで、実行率が大きく高まるというもの。*4

実行意図の具体例

「明日、午前中に資料を作る」ではなく、 「明日9時から、会社のデスクで、30分間だけ資料の1章を書く」 と行動を決めておく。

【具体的なアクション例】

  • 週のはじめに「自分との約束」をカレンダーに入れる
    例:火曜18:00〜 退社後カフェで資格の勉強
  • 気がかりなことをひとつだけ選び、「今日のどこで・何時に・何をやるか」を決める
    例:「来週の社内プレゼンの準備が進んでいない……」→「今日の16:00〜16:30、自分のデスクで、プレゼン冒頭の導入スライド3枚をつくる」

3「とりあえず5分」やる

こんな人におすすめ:「やる気が出たらやろう」と考えて、結局やらずに終わってしまう人

「脳は行動を開始してからエンジンがかかる仕組みになっている」という話は、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。

つまり、やる気は待っていてもでてこないのです。やる気を出すためには、まず何かしらの行動を起こすことが必要です。

「とりあえず5分だけやってみる」テクニック

最初の一歩が重く感じるタスクでも、「5分だけ」と思えば始めやすく、いったん手を動かすと、脳は自然と集中モードに入ります。

【具体的なアクション例】

  • 提案書の作成なら「タイトルだけ考える」「骨組みだけメモに書く」
  • 読書なら「最初の1ページだけ読む」勉強なら「用語1個だけ復習する」

***
先延ばしは意志の弱さではなく、脳の仕組みによる自然な反応です。

だからこそ、自分を責めるのではなく、仕組みを理解して具体的な行動を起こすことを心がけてみてください。きっと少しずつ先延ばしをしない自分に変わっていけるはずです。

【ライタープロフィール】
柴田香織

大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。

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