
ビジネスパーソンにとっての「印象」は無形資産のひとつともいえますが、「印象に残る人になりたい」と取った行動が、かえって関係性を損ねてしまうケースは少なくありません。『「忘れられないあの人」になる小さな習慣』(かんき出版)の著者であり、23年間にわたり大手生命保険会社でトップセールスとして活躍した山内誠治さんは、「記憶に残るかどうかは、相手の欲求を満たすかで決まる」と語ります。相手の記憶に残る人に共通する思考様式と、その前提となる対人理解の在り方を紐解きます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
山内誠治(やまうち・せいじ)
1968年生まれ、東京都出身。一般財団法人日本プロスピーカー協会顧問/同財団認定エグゼクティブプロスピーカー、演劇ユニット4YOU PROJECT代表、株式会社ファイナンシャルホーム代表取締役、東京シネマ倶楽部企画プロデューサー。旧住友銀行にて法人営業を担当し、年間予算達成率全国1位を記録。その後、転職したプルデンシャル生命保険では、プレミアムエグゼクティブライフプランナーに上り詰め、23年間トップセールスとして活躍し、全国約2500名のなかで最優秀に贈られるドライデンアワード(個人保険部門チャンピオン)を2度受賞する。また、MDRT基準を23年連続で達成(TOT10回、COT12回)するなど、圧倒的な実績を残す。55歳で保険営業を引退し、俳優・モデルに転身。LAファッションウィークで米国デビュー後、舞台『Mother』(新国立劇場)、『G7』(三越劇場)、『ひとくず』(大阪ABCホール)などに出演。初出演した映画『8番出口』(主演:二宮和也)でカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを経験する。さらにプロデューサーとして参画する映画『4アウト』では2026年全国公開を目指すなど、俳優業とプロデューサー業の二刀流で活動中。「夢に賞味期限はない」を信条に、映画・舞台・書籍を通じて、世界平和と人々の幸福度向上に寄与する「永遠に語り継がれる不朽の名作」をつくることを目指している。
記憶に残る人は「相手の欲求」を満たしている
ビジネスでもプライベートでも、「なぜか記憶に残る人」と「すぐに忘れられてしまう人」がいますが、両者の違いはとてもシンプルなものです。「すべての行動は自らの選択である」ととらえる「選択理論心理学」の考え方によれば、人の記憶に残るかどうかは「その人が自分の欲求を満たしてくれる存在かどうか」で決まるといいます。
たとえば、私が大好きな芸能人に「会わせてあげますよ」といってくれる人がいたら、その人のことは間違いなく忘れないでしょう。なぜなら、私の欲求を満たしてくれるからです。こうした体験は、非常に強い印象として記憶に残ります。
ここで重要なのは、行動の内容そのものではなく「相手にとって価値があるかどうか」という点です。同じことをしても、相手の欲求に合っていなければ印象には残りません。逆に、些細なことでも相手にとって意味があれば、十分に記憶に残るのです。
一方、「欲求を阻害する人」も記憶には残ります。嫌な思いをさせる人や、不快な体験を与える人です。ただしそれは、「もう会いたくない存在」として記憶されるに過ぎません。いうまでもなく重要なのは、ただ記憶に残ることではなく、「もう一度会いたい」と思われることでしょう。
だからこそ、自分がどう見られるかではなく、相手がなにを求めているかに目を向ける必要があります。この意識を持てるかどうかが、大きな分かれ目になるのです。

「強い印象を残そう」とするほどズレが生じる
だからこそ、私自身は「相手に強い印象を与えよう」と意識したことはほとんどありません。その発想自体が、相手に目を向けるのではなく、自分の欲求を満たす行動につながりやすいからです。
たしかに、派手な振る舞いやインパクトのある言動は目立ちます。しかし、それが好意的に受け取られるかどうかはあくまでも相手次第。ある人にとっては魅力的に映っても、別の人にとっては過剰だと感じられることもあります。
たとえば、服装や持ち物ひとつとっても評価は分かれます。ブランド品を好む人もいれば、そうでない人もいます。どれだけ工夫しても、「万人に刺さる印象」というものはつくれません。
そのため、自分主導で印象をつくろうとするとただの独りよがりとなり、相手とのあいだにズレが生じやすくなるのです。結果として、意図とは異なる受け取られ方をしてしまう可能性も高まるでしょう。
重要なのは、自分の印象を操作しようとすることではなく、相手を理解することです。相手の話を丁寧に聞き、その人がなにを求めているのかを把握したうえで行動する。その積み重ねが、相手の記憶に残ることにつながるのです。

「傾聴」こそがすべてのスタート
実際、選択理論心理学では、「人間関係をよくするための習慣」として「傾聴する、支援する、励ます、尊敬する、信頼する、受け入れる、意見の違いを交渉する」という7つを挙げていますが、そのなかでも最も重要なのが「傾聴する」ことです。
いうまでもなく、相手の話を聞かないことには、その人の欲求を理解することができないからです。支援する、励ますなど、他の習慣を実践することもできないでしょう。また、一般的に、「相手の話を聞くより自分が話したい」という欲求を持っている人のほうが多数派です。そのため、話を丁寧に聞くだけでも、相手の欲求を少なくともひとつは満たすことができるのです。
この傾聴をまさに実践している人がいます。私がこれまでお会いしたなかでもっとも印象に残っている、GMOインターネットグループの創業者である熊谷正寿さんです。会食の場で、誰かが話しているあいだは食事の手を止め、体ごと相手に向けて話を聞く。そして、話の内容を整理して確認し、的確に応答する。その姿勢が非常に印象的でした。
さらに、参加者ひとりひとりの名前や発言内容を正確に記憶し、「〇〇さんは先ほどこうおっしゃっていましたが……」などと、その後の会話のなかで自然に言及するのです。相手に対する関心の深さが、そのまま信頼や好意につながっていると感じました。
人は、自分の話をしっかり聞いてくれる人、自分を大切に扱ってくれる人を忘れません。特別なことをするのではなく、相手に向き合い続けることが、自分を「忘れられない人」にしてくれるのではないでしょうか。

【山内誠治さん ほかのインタビュー記事はこちら】
- 「正しさ」で人は離れていく。 “自然に味方が増える人”がやらない7つの習慣(※近日公開)
- 努力しているのに結果が出ない人は、「目標」を見ていない。成果を分ける “解像度” の差(※近日公開)
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
