
部下に何度もアドバイスをしているつもり。でも、部下が思うように成長しない。場合によっては反発してくることさえある……。
それは、実は伝え方の裏側にある「経験の差」が邪魔をしているのかもしれません。まず、今のあなたの状況を確認してみましょう。
- □ 部下から相談を受けると、瞬時に「こうすればいい」という答えが浮かぶ
- □ 話を「要するに」とシンプルにまとめるのが得意だ
- □ 会議やミーティングでは、周りより先に結論が見えていることが多い
- □ 経験に基づいた判断に、迷いが少ない
- □ 部下からの相談に、的確なアドバイスを返せている自信がある
- □ チームの意思決定のスピードは、速いほうだと思う
これらはいずれも、経験を重ねた人にあらわれる「判断の速さ」の特徴です。当てはまる項目が多いほど、豊富な経験があなたの判断を支えていると言えるでしょう。ただ、その強みには意外な落とし穴も潜んでいるかもしれません。
なぜあなたは瞬時に答えを出せるのか
部下が「Aという方針でやっていいですか」と確認を求めてきた場面を思い浮かべてください。あなたは「いや、Bにしよう」と即答し、合理的な理由を述べる。部下は「わかりました」と答えるものの、どこか納得していない様子。
こうした場面で瞬時に答えを出せるのは、リーダー自身の豊富な経験と実績に基づく、精度の高い判断ができるからです。
長年の実務のなかで、「このパターンなら、こう動けば、こうなる」という判断のライブラリを蓄積してきたからこそ、部下からの相談に対して的確な答えを返せるのでしょう。これは優秀なリーダーがもつ、大きな強みだと言えます。
ただ、その正しさが部下にそのまま伝わるとは限りません。なぜなら、同じ景色を見ていても、部下にはそれが同じようには映っていないからです。

同じ景色の前で部下は迷っている
部下は、まだあなたほど多くの場数を踏んでいません。同じ状況に直面しても、それがどう映るかには、経験の差がそのまま表れます。
たとえば、若手の部下が「取引先にNoと言えない」と悩んでいるとしましょう。ベテランのリーダーからすれば「はっきり断ればいい」と、答えは明白なはず。
しかし、部下はこんな理由で困っているのかもしれません。
- 相手とは長年の付き合いがあり、関係を壊さない断り方がわからない
- リーダーから「顧客を大切に」と言われており、断ることが顧客の気持ちを軽んじることにならないか気になっている
- 「断る」という選択が、自分のキャリアにどう影響するか読めない
いまの状況は同じです。そして、部下の困っている点は、あなたには困りごとに見えない。それは、あなたなら容易にすべての問題をクリアする方法をすでにもっているからです。
先ほどの「いや、Bにしよう」と即答された場面でも、部下は「自分なりの考えがあってA方針を選ぼうとしていたのに、どうしてBのほうがいいのかわからない」と感じていたのかもしれません。
部下がリーダーと同じように状況を整理できないのは、能力が足りないからではありません。単純に、経験の絶対量がまだ少ないからです。
経験が少ないぶん、どの事情を優先してどこから手をつければいいのかという判断軸がまだ育っていないのです。だから部下は、同じ景色の前で迷ってしまうのです。
この前提があるだけで、部下への伝え方は大きく変わります。
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答えを急がないほうがうまくいく理由
指示が伝わらない、スピードが遅い、自分から動けないなど、もどかしさを感じることもあるでしょう。経験の浅い部下は、指示の意図を正しく汲み取れないまま、思いがけないところでつまずいていることがあるからです。
そんな部下に答えを教えてあげたくなるのは自然なことです。ただそれでは、部下がどこでつまずいているのかを知る機会を逃し、同じつまずきを繰り返させてしまいます。それは、部下の成長機会だけでなく、あなた自身の時間も無駄にすることになります。
また、事情を汲み取らないまま指示や助言を重ねると、部下は「話を聞いてもらえなかった」と感じ、自分の考えを言わなくなってしまいます。そうなれば指示を待つだけの受け身な状態が続き、チームの動きも鈍くなりかねません。*1
では、部下のつまずきを見極めながらスピードも保つには、どうすればよいのでしょうか。

経験差のある部下を助ける3つの実践
経験の差そのものを、部下の側からすぐに埋めるのは構造的に難しいものです。時間をかければできないことではありませんが、成長を待ち続けていては業績に関わります。必要なのは、あなたの教育的な導きで、部下の成長を促すことです。
1. 答えより先に話を聞く
部下の相談に対して解決策が浮かんでも、話を聞き終えるまでは口にしないと決めておきます。
話をよく聞いてみると、思いもよらないつまずきを抱えているかもしれません。そのことで悩んでいるのかもしれません。課題を見つけることは、常に教育的な導きの第一歩です。
2. 「Yes, And話法」で経験を手渡す
部下の相談への返し方には、順番のコツがあります。相手の意見をいったん受け止め(Yes)てから、自分の経験を付け加える(And)。「Yes, And」と呼ばれる話法です。*2
(例)
部下「リソースが厳しく、現場が疲弊しています。もう、どうすればいいのか……」
上司「たしかにそうだよね(Yes)。自分も前に似た状況で、工程を削って乗り切ったことがある(And)。納期を守りつつ、これ以上の疲弊を防ぐために簡略化できる工程はないだろうか」
部下の意見が明らかに間違っていると判断することも、少なくないはずです。そんなとき、直接的な否定は、近道に見えて遠回りになることがあります。
例のように一度Yesで受け止めてから付け加えれば、実際は同じ指摘をしていても、部下の萎縮を防ぐ効果が期待できます。
これは、部下に気を遣おうという話ではありません。部下が考えを口にできる状態を保つことは、結果としてあなたのチームの成果につながります。優しさではなく、コミュニケーションの設計の話です。
3. 判断の理由を言葉にし、考えさせる
「前に似たようなケースで、その方法はうまくいかなかったんだ。そのときの分析では、○○が阻害要因になっていた。だから、その方法でやるなら、そこの解決策を先に考えておかないとね」
結論だけでなく、判断の理由をこうして言葉にすると、部下は判断軸のヒントをつかめます。一見遠回りに見えますが、判断軸が育った部下は自分で判断して動けるようになるため、答えを与え続けるよりも結果的にチームは速くなるのです。
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経験の差は、埋めるべき欠点ではなく、手渡せる財産です。今日から少しずつ、部下に分け与えてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. Yes, But と Yes, And の違いは何ですか?
Yes, Butは相手の意見をいったん認めても「でも」で打ち消してしまい、否定された印象を与えます。Yes, Andは相手の意見を認めたうえで自分の経験や考えを付け加えるため、対話的で建設的です。
Q. 経験差のある部下を助けるには何から始めればよいですか?
まずは解決策を口にする前に部下の話をじっくり聞く習慣から始めるのが有効です。そのうえでYes, And話法や判断理由の共有を組み合わせると、部下は安心して経験を積み重ねられます。
Q. 部下との経験差は、放っておいても自然に埋まるものですか?
経験は時間とともに積み重なっていきますが、待つだけでは差はなかなか縮まりません。話を聞く、経験を手渡す、判断理由を開示するといった関わり方をすることで、経験差の溝を早く埋めやすくなります。
*1: HRコラム|学習性無力感とは?原因・特徴・克服方法をわかりやすく解説
*2: 一般社団法人 日本即興コメディ協会|【2025年版】部下の「エンゲージメント低下」に悩むリーダーへ。心理的安全性を育む「Yes, And」コミュニケーション術
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。