
いきなりですが、クイズです。
友人とのバーベキュー。「また呼びたい」と声がかかりやすいのはどんなタイプでしょう。 パッと思い浮かぶのは、肉を上手に焼く人、火を素早くおこせる人、会話がうまい盛り上げ役、などではないでしょうか。
——でも実は、そうではないのです。惜しいけれど違う。
対話型ワークショップを通じて組織開発を支援している私たち KURUMAZA が、現場のマネージャーと話していて、いつも盛り上がるテーマがあります。それが、この「バーベキューでいちばん人気なのは誰か」という問いです。じつはこの答えのなかに、チームづくりのいちばん大事なヒントが隠れています。
前回の記事では、賞賛と承認の違い、そして本人が気づいていない強みに光を当てる「盲点の窓」についてお伝えしました。今回はその「行動の承認」を、もっとも見落とされやすい場所—— 誰も名前をつけてくれない仕事へと広げていきます。タイワマンと一緒に、まずはバーベキュー場から見ていきましょう。
取材・文/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
KURUMAZA(くるまざ)
KURUMAZAは、車座になって対話する機会を提供し、関係性に変化を起こし課題を解決しながら組織力強化を図る会社です。人間関係によって生じているチーム内の問題を完全オーダーメイド型のワークショップによって解決します。
- バーベキューで、本当に人気なのは誰か
- 「いま手を止めている人」に、どう声をかけるか
- 職場にも、必ず「名のない仕事」がある
- マネージャーが、あえて「日陰の仕事」をやってみる
- 「肉を焼き続けるマネージャー」にならないために
- よくある質問(FAQ)
バーベキューで、本当に人気なのは誰か
バーベキューには、目立つ仕事があります。前述した、火を起こす、肉を焼く、ビールを配る。どれも人気の役割です。でも、「また呼びたい」と思われる人気者は、たいていそこにはいません。
本当に人を惹きつけるのは、こんな人です。コップにひとりひとりの名前を書いて、取り違えが起きないようにする人。焦げてきた網を、誰に言われるでもなくそっと替える人。シートが風で飛ばないように、さりげなく重しを置いておく人。
そして何より、そういう日の当たらない作業をしている人に、「やってくれてるんだね、ありがとう」と声をかけている人です。そういう人のまわりには、自然と人が集まってきます。
逆のタイプもいます。「じゃがいもは水から茹でてよ」「アスパラ、もう切っちゃったの?」と、つい小言を言ってしまう人。悪気はないし、段取りとしては正しい。でも、こういう人は、だんだん呼ばれなくなっていく。
「人気者は、肉を焼く人じゃないんだよ。網をそっと替えて、日陰をつくって、『やってくれてるね』って声をかける人。職場も、まったく同じなんだよね」
「いま手を止めている人」に、どう声をかけるか
声かけが上手な人には、もうひとつ特徴があります。それは、「いま手を止めている人」への付き合い方です。
たとえば、ビールを飲んで休んでいる人がいる。椅子に座って、ぼんやりしている人がいる。こういうとき、つい「サボってないで、ちょっと手伝ってよ」と言葉が口をついて出そうになります。でも、声かけの上手な人は、そうは言いません。
彼らは、こう考えています。「いまは休んでいるけれど、さっきまで何かやってくれていたんじゃないか」。その前提があるから、出てくる言葉が変わります。「疲れてる?」「大丈夫?」—— 責めるのではなく、気づかう言葉が出てくる。
すると不思議なもので、「ああ、大丈夫」と言いながら、休んでいた人は自分から立ち上がって、また動き始めるのです。「手伝って」と言われて動くのではなく、自分の意思で動き出す。その人の「さっきまで」を想像できるかどうかが、チームの空気をつくっていきます。
「いま座ってるその人、サボってるんじゃないかもしれない。さっきまで動いてたのかもしれない。『その前』を想像できる人が、一番強いチームをつくるんだよ」

職場にも、必ず「名のない仕事」がある
このバーベキューの構図は、そっくりそのまま職場に当てはまります。
職場で目立つのは、お客様と渡り合い、交渉し、意思決定していく仕事です。華やかで、格好いい。けれど、その裏側には必ず、目立たない仕事があります。
その商談のために、前日から資料を整えていた人。会議室に、人数分のお茶をそっと並べておいた人。「もしかしたらホワイトボードを使うかも」と、先回りして準備しておいた人。誰かが指を切ったとき、すっと絆創膏を出せる人。こうした気配りや下準備をしている人が、確かにいるのに、誰からも何も言われていない —— そういうことが、どの職場でも起きています。
ところが、その貢献は誰の目にも映りません。営業の側は、自分たちの環境が整ったことの背景に、誰かの働きがあったと気づきにくい。動いた本人も、「言われたことをやっただけ」と、自分の貢献だと思っていない。こうして、確かにチームを支えた仕事が、本人にも周囲にも承認されないまま消えていく。これが、認識のズレです。
どんな職場にも、誰かが必ずやらなければならないのに、名前のついていない仕事があります。
なくてもいい仕事ではなく、欠かせないのに、目立たない仕事です。
こうした日の当たらない仕事を、シャドーワークと呼ぶことがあります。職場のこまごまとした段取りをこなした無数の作業には、名前すらついていないからです。
マネージャーが見るべきは、目立つ成果だけではありません。その陰側に、見えていない貢献が隠れていないか。そこに目を向けられるかどうかで、チームの空気は大きく変わります。
「目立つ成果は、放っておいても誰かが気づく。でも、名前のない仕事は、君が気づかなきゃ誰も気づかない。そこに『見てるよ』って言えるのが、マネージャーの仕事なんだよね」

マネージャーが、あえて「日陰の仕事」をやってみる
では、マネージャーに何ができるのか。ひとつは、前回お伝えした「行動の承認」を、このシャドーワークに向けることです。「あなたにお願いすると、いつも細かいところまで気を配ってくれていて、すごく助かっているよ」——気づいたときに、ひとこと声をかける。それだけで、報われる人がいます。
もうひとつ、もっと踏み込んだやり方があります。それは、マネージャーが、あえてシャドーワークを引き受けてみることです。
たとえば、オフィスの郵便物を取りに行く仕事。会社を回すうえで欠かせないのに、たいてい管理部門の誰かが黙々とこなしています。そこへ、本来ならフロントで稼げる人 —— チームのトッププレイヤーが、「これ、私がやるね」と引き受けてみる。
すると、いつもその仕事を担っていた人が、「自分の仕事は、ちゃんとリスペクトされているんだ」と感じる。一緒にやってもらえたという経験そのものが、自分の仕事への誇りにつながっていきます。
誰かがやらなければならない名のない仕事を、同じ人にずっと押しつけたままにしない。ときにはマネージャーが自ら手を伸ばし、「こういう大変な仕事をしてくれていて、ありがとう」と言葉にする。それだけで、チームの土台は静かに、でも確実に強くなっていきます。
「たまには、君がいちばん地味な仕事をやってみて。『ありがとう』って言われ慣れてない人に、君の背中が、一番のありがとうになるんだよ」
「肉を焼き続けるマネージャー」にならないために
マネージャーになる人は、たいてい現場で成果を出してきた人です。誰よりも上手に肉を焼けるから、チームを任された —— その実力は、まぎれもなくあなた自身が勝ち取ってきたものです。でも、役割が変われば、見るべきものも変わります。
バーベキューでたとえるなら —— 自分が肉を焼くのが得意だからといって、ずっと肉を焼き続けていたら、どうなるでしょう。網を替える人にも、日陰をつくる人にも、目が向かなくなる。「肉を焼き続けるマネージャー」になってしまうと、チームを支えている名のない仕事が、すっぽり視界から抜け落ちてしまうのです。
「肉ばっかり焼いてると、まわりが見えなくなるんだよね。一歩下がって、日の当たってない場所を見渡してみて。そこに、君のチームの一番大事な人が立ってるかもしれないよ」
今回お伝えしたことも、この連載で一貫してお伝えしてきたことと同じです。新しい才能を身につける必要はありません。あなたがこれまで培ってきた観察力、人をよく見る力を、目立つ成果ではなく、陰の貢献のほうへ向け直す。どこに光を当てるかを、選び直すだけです。
連載もこれで6回目です。ここまで読み進めてきたあなたは、対話もマネジメントも「性格の問題」ではなく、「どこを見て、何を言葉にするかの設計」だという視点を、もう確かに手にしているはずです。
タイワマンと一緒に、不器用でも誠実に。あなたの職場が、日の当たらない場所にもちゃんと光の届く、温かいチームになりますように。

よくある質問(FAQ)
Q1. 目立たない仕事をほめると、目立つ成果を出している人が「不公平だ」と感じませんか?
目立つ仕事を否定する必要はありません。両方に光を当てればいいのです。むしろ、目立つ成果はすでに評価されやすいぶん、放っておくと陰の貢献だけが取りこぼされていきます。両方が承認されるチームは、「どんな貢献の仕方をしても見てもらえる」という安心感が生まれ、結果として目立つ仕事をする人のモチベーションも下がりません。
Q2. 全員の見えない貢献を把握するなんて、現実的に無理では?
すべてを把握する必要はありません。バーベキューでも、ひとりひとりの動きを完璧に追っている人が人気者なのではなく、「気づいたときに、ひとこと声をかけている」人が好かれます。職場も同じです。今日、ひとつだけでいい。これまで見えていなかった貢献に気づいたら、その場で言葉にする。その積み重ねが、チームの空気を変えていきます。
Q3. マネージャーがシャドーワークをやると、本来の管理の仕事が回らなくなりませんか?
毎日やる必要はありません。狙いは、その仕事をこなすこと自体ではなく、「あなたの仕事を、ちゃんと見ているよ」というメッセージを届けることです。月に一度でも、ときどき自ら手を伸ばすだけで十分に伝わります。むしろ「肉を焼き続けて、まわりが見えなくなる」ほうが、マネージャー本来の仕事を損なってしまいます。
Q4. 自分が目立つ仕事ばかりやってきたタイプで、陰の仕事に気づく自信がありません。
それは弱点ではなく、これまで成果を出してきた証でもあります。コツは、「この成果は、誰の準備の上に成り立っているんだろう?」と問い直してみること。華やかな商談の裏に、資料を整えた人がいる。スムーズな会議の裏に、段取りをした人がいる。成果から逆算して「その手前」を想像する習慣をつけると、見えていなかった貢献が、少しずつ見えるようになります。
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役。
1977年生まれ、福岡県出身。2010年に株式会社恵学社(現・株式会社イングリッシュカンパニー)を創業。2014年に学習メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ、編集長を通算10年以上務める。
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