
ひとりのプレーヤーからマネージャーになると、チームの目標設定や各メンバーへの業務の割り振り、進捗管理、部下の育成や評価など、やるべきことが一気に増えます。だからこそ、「『やめること』を考えないといけない」というのは、延べ17万3000人のビジネスパーソンの行動分析を行なってきた、株式会社クロスリバー代表取締役の越川慎司さん。実績を残しているマネージャーは、いったいなにをやめたのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
越川慎司(こしかわ・しんじ)
1971年9月21日、山梨県生まれ。株式会社クロスリバー代表取締役。国内外の通信会社勤務を経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフト業務執行役員としてPowerPoint、Excel、Microsoft Teamsなどの事業責任者を歴任する。2017年に働き方改革を支援する株式会社クロスリバーを設立。世界各地に分散したメンバーが週休3日・リモートワーク・複業(専業禁止)を実践しながら、800社以上の業務改善、会議改革、事業開発を支援。オンライン講演・講座は年間300件以上、受講者満足度は平均96%。『仕事ができる人がやっている小さな習慣』(アスコム)、『世界の一流は「休日」に何をしているのか』(クロスメディア・パブリッシング)、『トップ5%社員の読書術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
デキるマネージャーは、プレーヤーとして動かない
私の会社(株式会社クロスリバー)では、企業や公共機関など815団体で働く約17万3000人の行動をAIにより分析しています。そのなかには、945人の「成果を出しているマネージャー」も含まれます。すると、彼ら彼女らと、逆に成果を出せないマネージャーとの違いが見えてきました。その違いとは、「なにをするか」よりもむしろ「なにをしないか」にあったのです。
日本企業では一般的に優秀なプレーヤーがマネージャーに抜擢されるため、多くのマネージャーが「部下に仕事をさせるよりも自分でやったほうが早い」と考えます。すると、マネージャーがプレーヤーとして最前線で働くこととなり、部下の育成といったマネージャーの重要な責務に注力できなくなるケースがよく見られるのです。
しかし、優秀なマネージャーは、「プレーヤーとして動くこと」を極力減らすことを意識します。昇進後、自分自身でやるプレーヤーとしての仕事を、なんと37%も減らしていることが分析から判明しました。
そして、その減らした37%の時間や労力を別のことに投下しています。ひとつは、「部下に方向性を示す」こと。仕事を登山にたとえるなら、組織として成果を出すためには、メンバー全員が同じ山の頂上を目指している必要があります。目指す山やルートの認識がずれてしまえば、個々がどれだけ頑張っても成果は分散してしまうでしょう。そのため優秀なマネージャーは、細かなやり方を管理するよりも、全員が向かうべき方向を明確にしてゴールを共有することを重視しているのです。
また、優秀なマネージャーは、先にも少し触れた「部下の育成」にも尽力しています。組織の目標、あるいは組織を率いるマネージャーの目標は、一時的に成果を出すのではなく、成果を出し続けることにあります。マネージャーひとりの力だけで成果を出し続けるには限界がありますから、部下の力を伸ばすことで持続的な成果を目指しているのです。

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無駄な会議に出席することをやめる
部下をしっかり育成し、部下に方向性を示すためにも、まずは「すべての会議に出席すること」「部下の仕事を引き取ること」をやめましょう。狙いのひとつは、マネージャー業務に注力するための時間をつくることです。
「日本企業には無駄な会議が多い」とよく言われますが、実際、私たちの調査では、労働時間のじつに39%が社内会議に費やされていることがわかりました。管理職の場合には50%を超えているというケースも見られるほどです。しかも、約40%の社内会議にはアジェンダすら設定されていませんでした。みなさん自身も、「集まること」が目的になっているような会議にうんざりした経験があるのではないでしょうか。
もちろん、勝手に「もう出席しない」とはできませんから、マネージャーは部長など上長の信頼を得たうえで、自分にとって意味がない会議には出席しないことを交渉しなければなりません。
また、「部下の仕事を引き取ること」をやめる背景には、時間をつくることのほかにも理由があります。「大変そうだから」とひとりの部下の仕事を引き取ると、ほかの部下からも「それだったら自分の仕事も引き取ってほしい」と思われかねません。一度引き取るときりがありませんし、なによりも仕事を引き取ることが部下の育成を阻害することにもつながります。

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「優しくて面倒見がいい上司」は要注意
そういう意味では、自分のことを「優しくて面倒見がいい上司」と思っているような人ほど注意が必要です。なにをもって優しさとするのかにもよりますが、部下が困っているとすぐに助けたり、質問をされるたびに正解を示したりすることを優しさと考えているのであれば、それはマネージャーがもつべき優しさとは言えません。なぜなら、そうした関わりは、部下の成長機会を奪う行為だからです。
ビジネスパーソンに限った話ではありませんが、人間は自分にとって困難な状況のなかで自ら考えたり、試行錯誤したり、失敗してそこから立ち直ったりするなかで成長していくものです。「優しい上司」によってそういった機会を失えば、部下が成長しづらくなるということは目に見えていますよね。
また、そうしたマネージャーのスタンスは、部下の育成の停滞以外にもチームにデメリットをもたらします。そのデメリットとは、シンプルに成果を挙げにくくなるということです。
ひとりのマネージャーが「こうするべきだ」と「正解」を示し、部下がそれに従えば成果を挙げられた時代はすでに過去のものとなりました。マネージャーの「正解」が本当に正解であれば問題ないかもしれません。しかし、環境変化のスピードやビジネスの課題の複雑性が増し、過去の経験則が通用しなくなっている現状においては、その可能性は低いでしょう。マネージャーの「正解」が不正解であれば、チーム全体が成果から遠ざかることになるのです。
もちろん、部下の育成はこれまでもマネージャーの重要な役割とされてきました。しかし、マネージャー自身が「正解」を示し続ける前提で組織を動かすことが難しくなった現在、その位置づけは大きく変わりつつあります。
成果を出し続けるためにマネージャーに求められているのは、自分が前に立って答えを与えることではなく、部下が自ら考え、判断し、成長できる環境を整えることです。そこに注力するために、マネージャーには自分が「やること」を増やすのではなく「やらないこと」を選び取る姿勢が、これまで以上に求められているのです。
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
