
「今日中に」と決めた資料が終わらない。上司はまだ席にいる。ようやく帰り着いた家で、疲れきってスマホを眺めているうちに、今日という日が終わる……。多くの人にとって「平日の夜」は、仕事が終わったあとに「残った時間」になりがち。
しかし、800社以上の働き方改革を支援してきた越川慎司さんによれば、世界の一流は平日の夜を「余りの時間」だとは考えていません。彼らは夜を「設計」している。
何のために、どのように設計しているのか。そして、それは日本の職場でも実践できるのか。『世界の一流は「平日」の夜に何をしているのか』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓した越川さんに聞きました(全2回)。
取材・文/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役。国内外の通信会社に勤務した後、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。業務執行役員として事業責任者などを歴任する。2017年に株式会社クロスリバーを設立。世界各地に分散したメンバーが週休3日・リモートワーク・複業(専業禁止)をしながら800社以上の働き方改革を支援。オンライン講演・講座は年間300件以上、受講者満足度は平均96%。Voicy「トップ5%社員の習慣ラジオ」が好評放送中。著書にベストセラー『世界の一流は「休日」に何をしているのか』(クロスメディア・パブリッシング)、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。著書累計35冊。
- 日本人は、平日の夜を「仕事の余り」だと思っている
- 夜を設計するのは、翌日のパフォーマンスのため
- 「切り上げる」と、翌朝の初動が変わる
- 日本の職場でそれができるのか
- 組織は「金曜日だけ」の実験から、個人は「明日の最初の一手」から
日本人は、平日の夜を「仕事の余り」だと思っている
世界の一流と呼ばれる人たちと、日本の多くのビジネスパーソンの夜の過ごし方には、大きな違いがあります。「何をしているか」の違いだと思われるかもしれませんが、それだけではありません。というより、そもそも夜という時間を、どういうものだと考えているのか、その結果が「何をしているか」の違いになっているのです。
多くのビジネスパーソンは、平日の夜を「仕事をしたあとの余りの時間」だと捉えているのではないでしょうか。
仕事が終わったら時間ができる、と考えているので、どれだけ時間があるかはその日の仕事しだい。時間ができたとしても疲れた頭で「さて何をしよう」と考えることになります。
今回、日本のビジネスパーソンに平日の夜の過ごし方を調査してみました。すると、「意識して何かに使っている」と答えた人はごく少数でした。大多数の人はテレビやスマホを眺めて、なんとなく過ごしています。余りの時間ですから、なんとなく過ごすほかないのは当然といえば当然です。
一方、世界の一流は、平日の夜を「余り」だとは考えていません。夜の時間を先に確保し、何に使うかを決め、そこから逆算して一日をデザインしています。夜にすることが「予定」として組み込まれているので、なんとなく過ぎることがありません。本書ではこれを「設計の問題」と書いています。
では、彼らは夜を何のために設計しているのでしょうか。よく言われるような「趣味や家族のため」だと思われるかもしれません。それももちろんあるのですが、それだけではないのです。
夜を設計するのは、翌日のパフォーマンスのため
世界の一流と呼ばれる人たちは、自分の頭を「スマホのバッテリー」のように扱っているという印象があります。バッテリーと同じように、夕方くらいになる頃には残量が10%、20%まで落ちている。スマホならそこで負荷の大きいアプリを回す人はいません。「今は20%だから充電しよう」と考えるはず。彼らにとって平日の夜は、翌日も最大の成果を出し続けるための、充電の時間なのです。
この発想には、成果が出る時間帯についての明確な認識があります。私がマイクロソフトの米国本社で気づいたのは、成果に効いているのが夕方の粘りではなく、朝9時から11時半のあいだの判断力だということでした。
夜の脳は疲れていて、ミスが増え、判断が鈍ります。同じガソリンを使うなら、アクセルを踏んでも進まない夕方ではなく、進む朝に踏んだほうがいい。
夜を大切にする人が成果を出しているのではなく、成果を出すために夜を大切にする設計をしている。だから一流なのです。

「切り上げる」と、翌朝の初動が変わる
では、実際にはどう設計しているのでしょうか。
核になるのは、帰る時刻を先に決めておき、その時刻が来たら仕事が途中でも切り上げて、残りは翌朝に回すという習慣です。
仕事は他人の都合に左右されますから、「終わらせてから帰る」と考えていると、帰る時刻を決めているのは自分ではなく相手(会社やチーム)になります。時刻を先に決めるのは、夜を自分の手元に置いておくためです。
私がこれを最初に見たのは、2005年、マイクロソフトに入ったときの上司でした。
「仕事は終わらせるものではない。切り上げるものだ」と言うのですが、その人は世界中のビジネスを束ねていて、担当地域のどこかで常に太陽が昇っています。本当に帰れるはずがない、かっこいいことを言っているだけではないか。
そう思って、部屋が近かったのを幸いに、夕方17時になると彼の個室を観察しました。すると、アシスタントもチームもまだ働いているなかで、本当に17時台に部屋を出ていくのです。
よく観察を続けてわかったのは、彼が最大化しているのが今日のタスク量ではなく、1週間の成果だということでした。月曜は温存し、火曜と水曜に本気を出し、木曜に振り返る。1週間をひとつの単位として設計しているから、17時に帰ることが最初から計画に組み込まれています。私はそれを見て、現地時間の17時に帰るようになりました。
帰ってみると、最初に変わったのは朝でした。
それまで夜遅くまで働いていたころは、翌朝は疲れが残っていて、9時から100%の力は出ません。10時半ごろにコーヒーが効いてきて、ようやくエンジンがかかる。つまり前の晩に踏み込んだ分だけ、いちばん成果が出る朝の時間を削っていたのです。
17時に帰って睡眠を取ると、9時からフルスピードで頭が動きます。しかも、途中で止めた仕事のほうが翌朝の着手は速い。人は未完了のことをよく記憶しているというツァイガルニク効果があるので、前日に途中まで手をつけた仕事には、朝いちばんにすっと戻れるのです。
1日単位で見れば、夜まで働いたほうが多くこなせます。しかし1週間、1か月の単位で見れば、切り上げたほうが成果は明らかに大きい。これは本で読んだ話ではなく、自分で試して確かめたことです。
日本の職場でそれができるのか
ここまで読んで、それは成果主義の外資だからできるのだ、と思った方も多いでしょう。そのとおりです。日本の職場でそのまま実行するのが簡単でないことは、800社を見てきた私がいちばんよく知っています。
難しさは2つあります。ひとつは評価の前提です。支援先の企業でも、成果主義や定量評価に賛成する人は半分もいません。頑張りそのものを認めてほしいという気持ちは根強く、成果が出なければ解雇される国とは前提が違います。
もうひとつは仕事の構造です。17万人分のデータを見ると、働く時間の87%は他人の協力なしには終わらない仕事です。あなたが帰れば、あなたの返事を待っている誰かの仕事が止まります。「帰らないでくれ」と思う同僚がいるのは、当然のことなのです。
ですから、上司や同僚の意識が変わるのを待っていては、いつまでも帰れません。組織と個人、それぞれの側から始められることをお話しします。

組織は「金曜日だけ」の実験から、個人は「明日の最初の一手」から
組織で有効なのは、「ずっと」を求めないことです。私が支援している8万人規模のメーカーでも、最初は管理職の8割が大反対で、タバコ部屋で1時間説教されました。抵抗する人が本当に嫌がっているのは、やり方を恒久的に変えられることです。これまでのやり方を急に変えるのは誰でも抵抗感があるものです。
そこで私は「今週の金曜日だけやってみましょう。悪影響が出たらやめましょう」と提案します。引き返せるとわかれば、たいていの人は受け入れてくれます。
週1回が週2回になり、3か月、半年とたつうちに「早く帰れて意外とよかった」と言い始めるのは、いちばん反対していた人だったりするものです。意識を変えるより、行動を先に変えるほうが早い。強制ではなく、実験にするのです。
では、個人での実践を見てみましょう。
今夜からできるのは、翌朝の最初の一手を決めてから帰ることです。私自身の例でお話しします。偶然ですが、明日は10月に出る本の再校の締め切りで、12万文字を一字一句読まなければなりません。私は朝7時台に頭がいちばん冴えることを知っていますから、その時間にメールも資料作成もせず、この原稿だけを読みます。ただ、1時間では終わらないので、準備は今日のうちにすべて終えてあります。
重要度の高い5か所に付箋を貼り、PDFにしおりを打ち、ショートカットのボタンひとつで原稿が開くようにしてある。机にはキッチンタイマーを置き、90分で切ると決めました。明日の朝7時に机に着いたとき、迷う要素はひとつもありません。
「どこで」「なにを」「どう」始めるのかすでに決めて用意された状態にしているのです。
仕事は初動で決まります。だから前の日に準備を終えて、やる気には頼らない。
もちろん、7時台がいちばんいいのは私の場合です。世界の一流に200人、300人と聞いてみると、3割は夜型でした。時刻に正解はなく、自分がどの時間にアクセルを踏むと前に進むのかを実験で見つけることが本質です。
平日の夜を「仕事の余りの時間」にしないこと。それは、夜を守るためというより、翌日の成果のためです。次回は、帰宅してから眠るまでの具体的な過ごし方についてお話しします。
【越川慎司さん ほかのインタビュー記事はこちら】
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役。
1977年生まれ、福岡県出身。同志社大学文学部英文学科卒業。2010年に株式会社恵学社(現・株式会社イングリッシュカンパニー)を創業。2014年に学習メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ、編集長を通算10年以上務める。STUDY HACKERは最大で月間500万PV、STUDY HACKERのInstagramは月間700万PV、フォロワー28万人(2026年10月7日時点)。2026年に新恵社を設立し、自社のメディアで読者と直接つながる「広報のD2C」を掲げる。著書に『勉強の戦略』(朝日新聞出版)など。
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