
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
Season7では「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を20社の事例で深掘りしました。
Season8でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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2026年5月、SHIROが「アイスミント ボディローション エクストラクール」を発表した瞬間、SNSは騒然となりました。通常の約1.7倍のメントールを配合した"史上最涼"の限定ジェル——会員向け先行予約「FAST RESERVE」には申し込みが殺到しました。*1
テレビCMを1本も打たず、海外のトップモデルを起用するわけでもない。2025年4月の韓国・ソウル聖水への1号店出店、同年12月の2号店開業、2026年1月30日の「SHIRO REPORT 2025」発行——国内外で独自の経済圏を静かに、しかし確実に拡大し続けるSHIRO(シロ)。*2
なぜこのブランドは、大手の広告予算を持たずに、ラグジュアリーブランドを凌ぐほどの熱狂を生み出せるのでしょうか。
- 「着飾るコスメ」から「自分を愛するエシカル」へ——カテゴリーごと定義を変えた
- 「箱を捨てる自由」がファンを生む——パッケージレスと香りのUGCループ
- 「引き算」が最強のブランディングになる——価値観の鏡としてのブランド
- よくある質問(FAQ)
「着飾るコスメ」から「自分を愛するエシカル」へ——カテゴリーごと定義を変えた
従来のコスメブランドが提供してきた価値は「他者から見た自分をより魅力的に見せること」でした。華やかなモデルのビジュアル、輝くパッケージ、強い香り——すべてが「自分を大きく見せる(他者目線)」のための道具として設計されていました。
SHIROはこの定義を根本から変えました。
「がごめ昆布」や「酒かす」など、日本各地の生産者から直接仕入れた自然の素材を前面に押し出す——これは単なる「天然成分訴求」ではありません。*3 「このブランドは日本の生産者と大地に誠実に向き合っている」という世界観の提示です。
顧客にとってSHIROは「他人に自慢するための化粧品」ではなく、「自分自身の肌と心を労わり、自然体に心地よく生きるためのライフスタイル・サプリメント」として定義されています。サボンやホワイトリリーといった一度嗅いだら忘れられない香りのクオリティが、その世界観を体に直接届けます。*1
| 項目 | 従来の海外高級コスメ | SHIRO |
|---|---|---|
| 提供する価値 | 華やかな憧れ・ステータス・モデルのイメージ | 自然体の心地よさ・日本の素材・エシカルな姿勢 |
| 販促のコア | 巨額のメディア広告・有名人の起用 | 広告費ほぼゼロ。ファンの自発的な「香りのUGC」 |
| パッケージの思想 | 豪華で過剰な箱・袋(高級感の演出) | 全製品パッケージレス(箱なし)が基本 |
| 2026年の価値 | 特別な日に自分を飾るドレス | 持っているだけで自分の生き方が肯定される「お守り」 |

「箱を捨てる自由」がファンを生む——パッケージレスと香りのUGCループ
SHIROは2020年、業界のタブーに踏み込みました。製品の外箱なし(パッケージレス)で購入すると価格を3%割り引く「エシカル割」を開始したのです。*3
反響は想定を超えました。オンラインストアではパッケージレスを選ぶ顧客が8割を超え(2022年3月時点)、*3 同年4月には全製品のパッケージレス化を宣言。箱入り製品の新たな製造を終了し、現在はパッケージレスが基本となっています。
この選択が持つマーケティング上の意味は深い。顧客は「箱なしを選んだ自分」を肯定できます。「私はSHIROのエシカルな姿勢に共感して選んでいる」という自己定義がブランドへの誇り(ロイヤルティ)を高める——これは購買行動がそのままブランドへの帰属意識に変わる仕組みです。
そしてこのロイヤルティが、広告費ほぼゼロを成立させる「香りのUGCループ」を生み出します。「SHIROの新作、今回も香りが神すぎる」「エコだから箱なしで買った」——ファンが自発的にSNSへ投稿し、それが次のファンへの口コミとなる連鎖が、マスメディア広告の代わりを完全に果たしています。*2

「引き算」が最強のブランディングになる——価値観の鏡としてのブランド
SHIROの事例から学べる最も重要な問いは「顧客に選んでもらうために、商品を豪華なオマケや過剰な言葉で飾り立て、かえって本質をボヤけさせていないか」というものです。
広告費をかける、有名人を起用する、豪華な箱で包む——これらはすべて「本質がない部分を補う足し算」です。SHIROがやったのはその逆です。がごめ昆布という素材の力、サボンという香りの力、パッケージレスという姿勢——余計なものをすべて削ぎ落とした先にある「ブレない軸」を提示しました。
現代の顧客が本当に求めているのは「このブランドを応援している自分が好きだ」と思える体験です。価値観の鏡として機能するブランドは、顧客の自己定義と結びつき、広告費をかけなくても深く永く愛されます。
2026年のマーケティングは、ブームを無理やり煽ることではありません。引き算で自社の「ブレない姿勢(エシカルな軸)」を提示し、顧客が「このブランドを選ぶ自分が好きだ」と感じられる価値観の鏡になること——SHIROが国内外で静かに熱狂を広げ続けている理由は、まさにここにあります。

【本記事のまとめ】
1. 「着飾るコスメ」から「自分を愛するエシカル」へ——カテゴリーの定義ごと変えた
がごめ昆布・酒かすなど日本各地の生産者から直接仕入れた自然素材を前面に出し「他者目線のメイク」から「自然体の自分を愛する道具」へと価値を転換した。顧客はSHIROを選ぶことで「こういう生き方をしている自分」を肯定できる。サボンやホワイトリリーの圧倒的な香りのクオリティがその世界観を体に直接届ける。
2. 全製品パッケージレス化という「引き算」——購買行動がそのままロイヤルティに変わる
2020年「エシカル割」開始→オンラインストアでパッケージレス選択率8割超→2022年全製品パッケージレス化。箱なしを選んだ顧客は「SHIROのエシカルな姿勢に共感して選んでいる自分」を肯定できる。この帰属意識が広告費ほぼゼロを成立させる「香りのUGCループ」を生み出す。
3. 「引き算」が最強のブランディングになる——価値観の鏡としてのブランド
広告・有名人起用・豪華な箱は本質がない部分を補う「足し算」だ。余計なものを削ぎ落とした先にある「ブレない軸」を提示することで顧客の自己定義と結びつき深く永く愛される。2026年のマーケティングは顧客が「このブランドを選ぶ自分が好きだ」と感じられる価値観の鏡になることだ。
よくある質問(FAQ)
SHIROはなぜ広告費をかけないのに認知が広がるのですか?
「香りの口コミ」という構造的な強みがあります。香りは体験した瞬間に感情と直結し「これを誰かに伝えたい」という衝動を生みやすい感覚です。SHIROの香りは一度嗅いだら忘れられないクオリティを持っており、ファンが自発的にSNSへ「神香りだった」と投稿します。さらにパッケージレスという「エシカルな選択をした自分」をSNSで発信したいというモチベーションが加わることで、UGC(ユーザー生成コンテンツ)が自然に連鎖します。高品質なプロダクトとエシカルな姿勢の両方があることで口コミが止まらない循環が生まれています。
「エシカルなブランド」を演じるだけでは顧客に見透かされませんか?
見透かされます。SHIROが信頼されているのは「姿勢」と「プロダクト」が一致しているからです。がごめ昆布という素材を前面に出すなら、そのがごめ昆布が本当に肌に効果をもたらさなければなりません。パッケージレスを推進するなら、ブランド全体の活動がその姿勢と一貫していなければなりません。「エシカルを装う」だけのブランドはSNS時代にすぐ露見します。SHIROが創業から一貫して北海道・砂川という地元の生産者と向き合い続けてきた歴史が、ブランドの信頼の根拠です。エシカルは戦略ではなく、ものづくりの哲学として実装されていなければ機能しません。
「引き算のブランディング」を中小企業でも実践できますか?
むしろ中小企業の方が向いています。大企業は「足し算」のリソースを持っているため、ともすれば商品の訴求ポイントを増やし過ぎてメッセージがボヤけます。中小企業は予算の制約から必然的に絞り込まざるを得ない。その制約こそが「引き算のブランディング」を生む原動力になります。重要なのは「自社が本当に信じていることは何か」を言語化し、すべての意思決定をその軸に沿わせることです。SNSや自社ECを活用すれば、大手広告なしでもブランドの世界観を直接顧客に届けられます。
*1|FashionSnap「SHIROが"史上最涼"の『アイスミント エクストラクール』を発売 冷感UVも」(2026年4月23日)。アイスミント ボディローション エクストラクール(50mL・2,860円・メントール通常の約1.7倍・数量限定・2026年初登場)・アイスミント ボディミスト エクストラクール(80mL・2,860円・メントール通常の約3.5倍)・アイスミント エッセンスUV(30g・3,300円・初の冷感UV)・2026年5月14日発売予定(発売日は容器キャップ不具合により延期)・会員向け先行予約「FAST RESERVE」実施を確認
*2|FashionSnap「SHIROが韓国進出、ソンスに路面店をオープン 限定でスズランの香りを発売」(2025年3月5日)。韓国1号店「SHIRO Seongsu」2025年4月26日オープン(ソウル聖水)・国内直営27店舗・ロンドン(2016年)・台湾(2023年)への展開・「自分たちが毎日使いたいものをつくる」をコンセプトにした開発から販売までの一貫体制・エシカルな信念に基づくD2Cブランドとしての位置づけを確認。なお韓国2号店は2025年12月10日LOTTE WORLD MALL 1Fにオープン・「SHIRO REPORT 2025」は2026年1月30日発行
*3|株式会社シロ公式プレスリリース「SHIROでのお買い物をより"エシカルに"お楽しみいただくため、直営店舗とオンラインストアでのパッケージレス(紙箱なし)製品の販売を2022年4月1日(金)より開始」(2022年)。2020年「エシカル割」(パッケージレス選択で3%値引き)スタート・2022年3月時点でオンラインストアのパッケージレス選択率8割超・2022年4月1日より全国直営店舗でパッケージレス製品販売開始・箱入り製品の新たな製造終了・「いずれ廃棄されることになる紙箱を受け取らない選択肢を設けることにより紙材原料である森林資源を守りたい」という思想・がごめ昆布・酒かすなど日本各地の生産者から直接仕入れた自然素材の活用を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season8
現代のマーケティングの本質を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:「消せない・加工できない・失敗するかもしれない」——そのカメラが、なぜ世界で売れ続けるのか
- 第2回:アシックスの靴は、何も変わっていない——それなのに、なぜ世界が熱狂しているのか
- 第3回:コスメは「数ヶ月で廃盤」が常識のはずだった——リップモンスターに何が起きているのか
- 第4回:「高すぎる」という声を無視し続けるアパホテルが、3期連続最高益を叩き出す理由
- 第5回:なぜZOZOは、アパレル不況のなかで取扱高過去最高を更新し続けられるのか
- 第6回:フェイラーは何も変えていない——それなのに、なぜ若者が抽選に殺到するのか
- 第7回:「カードが使えない、まとめ買い専用」——それでも週末に駐車場が満車になるロピアの構造
- 第8回:年200店舗ペースで首都圏を包囲するまいばすけっとの、誰も真似できない方程式
- 第9回:「お行儀のいい大学広報」を捨てた近畿大学に、何が起きたのか
- 第10回:スタジオアリスはなぜ、2段階値上げをしてもなお週末の店舗が埋まり続けるのか
- 第11回:シャトレーゼはなぜ、物価高の2026年に「安くて美味しい」を維持できるのか
- 第12回:「ホームセンター」という定義を捨てたカインズに、何が起きているのか
- 第13回:営業利益193%増・累積損失一掃——エスコンフィールドが「野球場」の概念を破壊した方法
- 第14回:千葉ジェッツはなぜ、Bリーグ史上初の売上50億円を叩き出せたのか
- 第15回:広島の夜に、帰ってきた歓声。——エディオンピースウイング広島が証明した記憶のマーケティング
- 第16回:ネットのクチコミが「棚」になった——@cosmeが売上596億円を叩き出す「二階建てプラットフォーム」の構造
- 第17回:冷凍弁当を「手抜き」と呼ばせない——noshが累計1.5億食を突破した構造
- 第18回:「このブランドを選ぶ自分が好き」——SHIROが広告宣伝に頼らずに熱狂を生み出す「価値観の鏡」戦略(本記事)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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