誰かに声をかけるとき、ちょっとしたお願い事をするとき――気づけば口癖のように謝っていませんか?
「すみません」や「ごめんなさい」は、相手への気遣いや誠実さを表現するときに使えるフレーズです。
しかし、どんなときも謝ることが「誠実」だとは限りません。
むしろ、謝罪癖が信頼を損ねてしまうこともあるのです。
この記事では、「すぐに謝る人」を卒業して信頼を築くためのヒントをお届けします。
「ちゃんと謝れる人」が好印象なワケ
自分に非がなくても、「お手数をおかけしてすみません」「ご迷惑をおかけしました」とひとこと添える――これは、相手の気持ちに寄り添う姿勢を表す日本の美徳のひとつです。
相手に敬意を示し、人間関係を円滑にするためのマナーとされているふしもあります。
日本語とドイツ語の両方が母国語であり、多文化についての執筆活動などをしているサンドラ・ヘフェリン氏もこのような日本の謝罪文化を、「法律云々とは関係のない『気持ち』を重視した日本流の謝罪」と話します。*1
ビジネスにおいても、適切に謝罪できる人は周囲から「責任感がある」「対人配慮ができる」と評価されることが多いものです。
自分のミスでまわりに迷惑をかけたのに、頑なに謝らない人とは信頼関係を築きにくいでしょう。
つまり、謝罪は人間関係を円滑にするだけでなく、自分の信頼や評価にもプラスに働く “コミュニケーション力” のひとつとも言えるのです。
でも、なぜか「いつも謝る人」は信頼されにくい?
一方で、謝罪することが癖になっているのだとしたら、それは考えものです。
その理由は、大きく分けて3つあります。
1. 問題から逃げているように見える
「この人、とりあえず謝ればいいと思っているだろうな」
「本当に悪いと思っているのか疑わしい」
「かたちだけの謝罪だなんて、自分は下に見られているな……」
具体的になにについての謝罪なのかが伝わらない謝罪を受けると、このようにネガティブな印象を受けるのではないでしょうか。
人材育成コンサルティング事業などを手がける株式会社シーストーリーズ代表取締役の川原礼子氏は、このような「何に対して謝っているのか」が不明確な謝罪は、「相手からすると『逃げている』ようにも聞こえ」ると述べます。*2
相手の気持ちや状況を深く理解しようとせず、ただ形だけの謝罪をするのは、責任から目を背け、その場しのぎで済ませようとしている印象を与えかねないのです。
2. 軽くとらえられる
謝罪の際に「すみません」を多用しているのであれば、あなたの謝罪は軽くとらえられているかもしれません。
その理由を、明治大学文学部教授の齋藤孝氏は次のように説明します。
何かを頼んだり御礼を言ったりする場面でも使えるくらい一般的で汎用性が高いということは、ひとつひとつの場面での効力が弱くなり、言葉としての“重み”がなくなるのです。*3
「すみません」は便利な言葉ですが、そのぶん感謝にも謝罪にも使えてしまう曖昧さがあります。
本気で反省していても、口ぐせのように繰り返していると、受け取る側には「とりあえず言ってるだけ」と感じられてしまうのかもしれません。
3. 自信がないように見える
責めているわけではないのに「ごめんなさい」と謝ったり、枕詞のごとく「すみません」から会話を始めたりする人がいると、「この人に仕事を任せて大丈夫だろうか?」と不安になるものです。
キャリアコーチのキャロライン・カストリロン氏も、「謝り過ぎてしまうと強さを示すことはできず、逆にあなた自身やその存在、貢献を矮小(わいしょう)化してしまう」と述べています。*4
本来であれば謝罪を前向きに伝えられる場面でも、「すみません」「ごめんなさい」が続くことでどこかネガティブな印象が残ってしまい、信頼を失う原因のひとつとなってしまうのです。
「すぐに謝る人」をやめてしまえ!
そこで、反射的に「すみません」「ごめんなさい」と口にする代わりに、次のようなアプローチを意識してみるのはいかがでしょうか。
1. ネガティブでない表現で伝える
「すみません、少しいいですか?」
「いつもお土産をいただいてばかりで、ごめんなさい」
このように、感謝や呼びかけの意味合いで謝るのが癖になっているのなら、言い方を工夫してみるといいでしょう。
言い方を変えてみよう!
- お礼を言うとき:「いつもお心遣いをありがとうございます」
- 呼びかけるとき:「失礼します。少しお時間よろしいでしょうか?」
- 誘いを断るとき:「その日は参加できず、残念です」
「すみません」「ごめんなさい」を別の表現に言い換えるだけでも、受け取る側の印象が変わるはずです。
「いつも謝られてばかりで、逆に恐縮してしまう」という事態も防げます。
2. 伝えたいことをまとめる
つい謝ってしまいそうになったら一度立ち止まり、「謝ることで相手にどうして欲しいのか」「自分はなにを伝えたいのか」を振り返ってみましょう。
- 自分が安心したいだけなのではないか?
- 口癖でつい謝ろうとしているだけなのではないか?
など意識するだけでも、無意識の謝罪は減っていくはずです。
3. 状況を整理し次の行動を示す
とはいえ、必要なときはちゃんと謝罪しなければいけません。
その際は、次のふたつを意識するといいでしょう。
- 限定謝罪 *2
- 謝罪のあと、次の行動を具体的に示す *3
たとえば自分のミスで同僚にしわ寄せが行ってしまったのなら、ただ平謝りするのではなく、次のように謝るといいでしょう。
限定謝罪+次の具体的行動
「私の確認ミスであなたの仕事を増やしてしまってごめんなさい。(限定謝罪)
今後は◯◯のプロセスを見直して、同じことが起こらないように気をつけます。(次の行動の提示)」
なにをどう改善するかを示すことで、「この人はちゃんと責任をとる人なんだ」と信頼につながります。
一方で、「すみませんでした」といった曖昧な謝罪だと、相手に「また同じことを繰り返すのではないか?」という不安を与えるかもしれません。
信頼は、“言葉” よりも “行動” によって築かれるもの。
だからこそ、次にどうするのかを明示することが、謝罪の本当の価値を生むのです。
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謝ることは、大切なコミュニケーション手段のひとつです。しかし、謝罪のしすぎはかえって信頼を損なってしまいます。
本当に謝罪が必要な場面なのかを見極め、いま伝えるべきことに目を向ける。その意識の変化が、あなたの信頼度を少しずつ底上げしてくれるはずです。
※引用の太字は編集部が施した
*1 朝日新聞GLOBE+|高梨沙羅選手の謝罪から考える文化の違い 日本人は簡単に謝ってはいけない、けど…
*2 ダイヤモンド・オンライン|【謝罪の場面で】人を不愉快にさせる人は「とにかく謝る」だけ。感じのいい人は何と言って謝る?
*3 ライブドアニュース|デキる社会人は「謝罪専用の言葉」で謝る 謝罪の適切な方法とは
*4 Forbes JAPAN|常に謝る女性たち 不要な謝罪をやめて力を取り戻すには
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。