
やめたほうがいいと薄々わかっていて、それでもやめていないものが、たいていの人に一つはあります。3年目に入った資格の勉強、楽しくなくなった習い事、惰性で払い続けている月謝。向いていないことも、身についていないことも、本人がいちばんよく知っている。それでも「ここまでやったし」と思うと、やめるという選択肢を真剣に考えたことがない。
けれど、続けている間に、別の何かを手放しています。もったいないから続けているつもりで、実は毎週あきらめているものがある。まずそこから確かめてみます。

やめないでいる間に、何を諦めているのか
英語を例にします。学生のころから得意ではなく、正直に言えば好きでもないのに、「社会人なら英語くらい」と思って教材を買い、途切れ途切れに続けている。
通勤の30分と週末の1時間を充てていれば年に200時間を超え、身についていないので翌年もまた同じ200時間が要る。3年で600時間を使って、いま英文の資料を辞書なしで読めるようになりましたか。
同じ600時間でAIの使い方を覚えていたら、英文資料の要約から始めて、議事録の下書きやデータの整理を任せる手順が組めていたはずです。そしてその人は、英語で困っていません。資料はAIが読み、メールはAIが整えるからです。
やめて浮いた時間で身につけたもののほうが、続けていた理由そのものを先に片づけてしまうことがあります。
資格の勉強なら実務のスキル、習い事なら体力づくり。続けているものの隣には、その時間で始められたはずのことが必ずあります。
惰性で続けている人は、それを選ばないまま毎週あきらめている。自分で選んで手放したわけではないから、失っている感覚がない。だから続いてしまう。

「でも、ずっと続けてきたし」
ではなぜ、なかなか踏み切れないのでしょうか。これまでの時間が無駄になる気がするから、「もったいない」と思ってしまうからでしょうか。
けれど、これまでの3年間は、続けてもやめても3年間のままです。続けることで守れている過去はありません。
守っているのは「途中で投げ出した自分」になりたくない気持ちで、そのために4年目の200時間を払おうとしている。
心理学ではこれをサンクコスト効果と呼び、取り戻せない投資が大きいほど、人は不利な選択を続けてしまうことが確かめられています。*1
達成が見込めない目標からの離脱を扱った研究では、目標を手放したあとに新しい目標へ力を向け直した人ほど、抑うつ傾向が低く、人生の目的意識が高いことが報告されています。*2
手放さないまま次の目標も持てずにいる人は、時間だけが減っていく状態にとどまる。英語を続けている限り、AIの時間は始まらない。それはあなたの継続でも同じです。
📖 あわせて読みたい
続けるか、やめるか。あなたへの5つの質問
ここまで読んで、それでも続けたいなら、続けていいと思います。この記事はやめることを勧めているのではなく、決める材料を出しているだけです。ただし、決める前に、「もったいない」を理由の列から外してください。過去の時間は、どちらを選んでも変わりません。
そのうえで、次の5つを自分に聞いてみてください。
続けるか、やめるか。あなたへの5つの質問
続けている理由を、「ここまでやったから」以外の言葉で言えますか?
半年前の自分と比べて、できることが増えていますか?
身についたら、実際に何に使いますか?
やめたと想像したとき、惜しいのは過去の時間ですか? これから得るものですか?
この時間で始められたはずのことは何ですか? それは、いま続けているものより欲しいですか?
この質問に、あなたはどう答えますか? ここでやめたほうがいい、と思ったのなら、次の章はスムーズな「やめ方」の話です。
📖 あわせて読みたい

賢いやめ方の3ステップ
やめると決めても、明日から全部やめる必要はありません。勢いでやめると、しばらくして「やっぱり続けておけばよかった」が戻ってきます。それを防ぐ手順が3つあります。
空白のまま終わらせないことが、やめたあとに後悔を残さない最後の仕上げです。ここまで進めば、やめたことを挫折だと思う人はいません。次のために自分で決めた選択です。
📖 あわせて読みたい
***
やめないでいる間に、あきらめているものがある。それに気づいたうえで、それでも続けるなら、その継続にはもう「もったいない」以外の理由があります。「このままでいいのかな」と思ったときは、5つの質問に戻って、いまの自分の答えを確かめてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 三日坊主の言い訳になりませんか
Q. 仕事や会社もこの基準でやめていいのですか
Q. やめたあとに後悔しそうで怖いです
Q. 人間関係にもサンクコストは当てはまりますか
*1: Organizational Behavior and Human Decision Processes|The Psychology of Sunk Cost (Arkes & Blumer, 1985)
*2: Personality and Social Psychology Bulletin|Adaptive Self-Regulation of Unattainable Goals: Goal Disengagement, Goal Reengagement, and Subjective Well-Being (Wrosch et al., 2003)
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。