なぜ私は信頼されないのか?
そう頭をひねるあなたが、自他ともに認める対応が速い人で、論理的思考力に長けているならば、今回ご紹介する内容が大いに役立つはずです。
その理由を述べましょう。
会話の成立は「確認が9割」だとご存知でしょうか?
経営コンサルタントの横山氏は、即答グセがある人に警鐘を鳴らしています。*1
そして、人が理屈ではなく感情で動くことをご存知ですか?
心理学博士の榎本博明氏は、正論を振りかざしても受け入れられにくい状況について伝えています。*2
したがって、信頼されないと悩む頭の回転が速い人がやるべきは、
- よく確認すること
- 相手に共感し尊重すること
このふたつの要素が、あなたの信頼度を格段に上げてくれるはずです。
確認作業の解像度を上げる5つの要素と、心理学博士推奨の「正論振りかざし度」チェックリストとともにお送りします。
NG行動①:即答・即行動グセ
たとえばミーティングで意見を求められたとき、考え込んでしまう人よりも、パッと答えられる人のほうが「仕事ができる」と思われるでしょう。
同じように何かを依頼されたとき、すぐに対応できる人のほうが頼もしく見えるはず。特に頭の回転が速い人は、状況を素早く理解し、的確な判断を下せるため、即答・即行動がクセになっているかもしれません。
しかし、どんなに頭がよくても、その即答が「単なる反射的な応答」であれば失敗につながってしまいます。
なぜならば、反射的に答えたはいいけれど、よく確認しないまま進めてしまうと、相手の求めていたものとは違う成果物を上げてしまう可能性があるからです。
経営コンサルタントの横山信弘氏も、このような指摘をしています。*1
上司からのザックリとした依頼に、すぐ「わかりました!」と答えてしまう人は評価されにくい
同氏によれば、会話の成立は「確認が9割」。そして、こうも述べています。*1
「わかりました!」と言ったあとでもいいので、徹底的に確認をするのを癖にしてほしい
そのため横山氏は、状況に応じて以下5つの要素を活用し、しっかりと確認するよう推奨しています。*1
- 情報を引き出すために
→具体的には?
→たとえば? - それで引き出せなければ、
→サンプルを提示する - 依頼内容の主要な部分についての最終確認
→要するに - 何度も確認をとることに躊躇してしまうとき
→ちなみに
※「ちなみに」という言葉には補足情報が欲しいだけというニュアンスがあるため相手に嫌がられにくい。
即答・即行動グセの改善例
では、横山氏推奨の5つの要素をふまえ、上司との会話のNG例と、改善例を見てみましょう。
⚪ NG例
- 上司:「この資料をなるはやで、いい感じに仕上げてくれる? 確認したのち月曜仕上げで」
- 部下:「はい、承知いたしました!」
→上司は明日にでも早々に確認したうえで、来週月曜日までに完成版を仕上げてもらうつもりだった。しかし、部下は月曜日に確認・提出と予測。
そのため、月曜日の時点で修正が重なり提出が遅延。かつ「いい感じ」の解釈が曖昧であったため、希望通りのものも出せず。結果、評価を下げてしまう。
🔵 改善例
- 上司:「この資料をなるはやで、いい感じに仕上げてくれる? 確認したのち月曜仕上げで」
- 部下:「承知いたしました。では――たとえば明後日あたりに草案を見ていただいて、最終仕上げは月曜日というかたちでよろしいでしょうか?」
- 上司:「うーん、そうだな……。細かい部分はいいから、草案は明日の午後3時ぐらいまでにお願いできる?」
- 部下:「承知しました。ちなみに、いまの時点で何か具体的にイメージされている構成や雰囲気などありますか?」
- 上司:「パッと見てわかりやすいものがいいかな。あまり細かすぎない感じがいい」
- 部下:「たとえば、Aチームが作成した資料のような感じとか……?(←サンプル提示)」
- 上司:「うん……、そうだね。まあでも、それをもっとビジュアル化したものがいいかな」
- 部下:「あ……、承知しました! 要するに、B社の資料に寄せた感じですよね。(←サンプル提示)」
- 上司:「あ、そうそう! それでよろしく」
- 部下:「承知いたしました。では、明日の午後3時ぐらいまでに草案をお見せして、来週月曜日に仕上げます」
→曖昧な部分の確認をしっかりと行ない、期限や要望を明確にしたうえで進めた結果、上司の期待に応える資料が期限内に完成。評価も信頼度もグーンとアップ!
――常に「確認が9割」を意識することで、このように確実な仕事の進め方が可能となるはずです。
NG行動②:正論が先に出る
「正しいことを言っているのに、なぜか話を聞いてくれない」
「間違った発言はしていないのに、なぜ信用されないんだろう?」
こんな感覚を抱いた経験はありますか?
もしあるとすれば、自分は正しいことをしているのに、なぜ信頼を得られないのか不思議かもしれません。なおさら、論理的思考力に長けた頭の回転が速いあなたなら、不合理に感じてしまうでしょう。
しかし――
相手の信頼を得る前に、正論で押し切ろうとすれば、誰も話を聞いてくれないのは当然です。
研修講師として幅広い階層の研修に登壇している、株式会社ジェイック シニアマネージャーの宮本靖之氏は、こう伝えています。*3
信頼関係のない人から言われると、たとえ正論だとしても感情的に受け入れられなくなってしまいます。
なぜ、そんなことが起こるのでしょう?
それは、人が理屈ではなく感情で動くからです。そう語るのは、心理学博士の榎本博明氏。そして、まずは相手が言うことに共感し、そのうえで意見を「疑問形」にするなどして「やんわり」と伝えれば、角が立たないと話しています。*2
「でも、そんなに私って正論をかざすタイプ?」
その感覚が曖昧であるならば、ぜひ一度榎本氏が紹介している「正論振りかざし度」チェックリストを試してみてください。*2
- 納得がいかない時は、相手が誰でもすぐに反論する
- 自分が正しければ、言いにくいこともはっきり言う
- 自分が悪くないのに、謝ることはできない
- 正しいことを言っているのに、相手を怒らせてしまうことがある
- 自分のほうが正しいと思う時は、決して譲らない
- 相手を論破して気まずくなることがある
- 納得のいかない指示には従えない
榎本氏によれば、3つ以上当てはまる人は要注意。
「チェックリストの多くは、相手の立場やメンツ、気持ちを考えていない行動が、相手の気分を害することにつながっています」と榎本氏は言います。*2
あなたは、いくつあてはまりましたか?
もしも、3つ以上当てはまってしまったならば、ぜひ次の例を参考にしてみてください。
正論が先に出る場合の改善例
これまでの内容をふまえると、つい正論から始めてしまう場合の改善ポイントは以下のとおり。
- 相手の気持ちを否定せずに「共感と尊重」を示す
- 相手と違う意見を言うなら「疑問形」を用いる
- 相手の「感情に配慮」した言葉を選ぶ
具体的には、次のようなかたちです。NG例と改善例で比較してみましょう。
⚪ NG例
- A:「今回の施策ですが、目標数値には届かなかったものの、SNSでの反応はよかったと認識しています」
- B:「うーん。SNSでの反応がよくても、結果が出てないなら意味はないと思います」
→確かにBが言うことは正しいが、Aが「まずは事実を述べていること」を考慮していない。当然、共感も尊重も示しておらず、相手の感情への配慮もない。
したがって、その後どんなにBが正しいことを語ろうと、Aは感情的にそれを聞き入れることが難しくなる。
🟠 改善例
A:「今回の施策ですが、目標数値には届かなかったものの、SNSでの反応はよかったと認識しています」
B:「SNSでよい反応があったのは評価できるポイントですね」
A:「そうですね」
B:「ちなみに、目標数値に届かなかった原因は、どこにありそうでしょうか? 一緒に振り返ってみますか」
→このように、共感と尊重を示し、相手の感情にも配慮したうえで「やんわり」と問題を指摘すれば、だいぶ印象が変わる。
すると、「この人は信用できそう→正しいことを言ってくれる→信頼できる人だ」という好循環が生まれ、建設的な話し合いの場になる。
――正論で押し切ると、まるで自分が勝利したように感じることがあるかもしれません。でも、じつは真逆。相手を気遣い、信頼を得てこそ、真の勝利なのです。
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頭の回転が速いのに、信頼されないのはもったいない。いますぐ行動習慣を改善し、賢くて信頼される人になってください。
しっかり確認して、相手の立場や感情に配慮する。
そう難しいことではありません。ぜひとも今日からお試しください。
*1: STUDY HACKER|上司との会話は「確認」が9割。評価される部下は “3つのマジックワード” で信頼を築く
*2: マイナビ転職|正論ばかり言う人が嫌われる理由【正論振りかざし度をチェック】
*3: HRドクター|信頼関係を築く方法とは?メリットや上手い人の特徴を解説
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。