ラクに読書をしている人がやっていること――最初は「あえてゆっくり読む」のが秘訣?

本に付箋を貼りながらじっくりと読み進めるビジネスパーソン

「今月も、結局1冊しか読めなかったな……」

仕事終わりに本を開いても、気づけば寝てしまう。読もうとすると頭がぼーっとし、理解できないから読後は疲れてしまう。そのうち「明日でいっか」という気持ちになり、積読本が増えていく……。

一方で、忙しさは同じはずなのに、ビジネス書や専門書、小説までを次々と読みこなし、日々の会話や仕事に役立てている同僚がいる。「あの人はどこで時間をつくっているのだろう?」「頭のできが違うのかな?」――尊敬の念を抱きつつも、漠然とした焦りが湧いてくる――。

こうした感覚、思い当たる人も多いはずです。じつは、あなただけではありません。

そして、「読書が続かない」「疲れる」「集中できない」という問題は、“少しだけ視点をずらした読み方のアプローチ” によって解消できる可能性があります。

今回は、読書が苦しくなっている人ほど試してほしい「あえてゆっくり読む」読書法を、筆者の実践例とともに紹介いたします。

読解力は「単語認識と言語理解」の掛け算?

日々の疲労やストレスが溜まっているとき、読書に疲れを感じるのは自然なことです。これは「コンディションの問題」と言えるでしょう。

一方で、体調に問題がないのに読書がつらいと感じる場合は、「読解のバランスが崩れている」可能性があります。

1986年に認知科学者のフィリップ・ゴフ博士とウィリアム・タンマー博士によって提唱された「読解の単純モデル(Simple View of Reading)」では、「読解力は単語認識と言語理解という2つの要素に依存する」と説明されています(読解教育を専門とするジャーナリスト、リアナ・ローウス氏の解説より)。*1

つまり、「文字の認識」と「言葉の理解」――この2つの力で読解力は成り立つわけです。関係式で示すと――

単語認識 × 言語理解 = 読解力

となります。

ここで注目すべきは「掛け算」が選ばれていること。つまり、どちらかがゼロに近づけば、全体の理解も一気に落ちてしまうという意味です。たとえば、ロシア語のキリル文字を正しく読めても、単語の意味が曖昧なら「単語認識(1)×言語理解(0)」で読解力はゼロになります。どちらか一方だけが高くても読解力は伸びないのです。*1

「理解と認識」の処理のズレが疲労を生む?

そして、単語の認識と文章全体の理解の処理がうまく噛み合わないと、脳に負担がかかる可能性があります。

数学教育学博士であり、学習時の認知負荷理論を専門とするヴィッキー・リコウレゾス博士によれば、一時的に情報を記憶しておくワーキングメモリには、以下のように容量制限があります。*2

  • 一度に記憶できる新しい情報は5〜9個程度
  • 同時に処理したり考えたりできる新しい情報は2〜4個程度

しかも、この限られた量の情報をワーキングメモリに保持できるのは、約20秒程度。この制限により、新しい情報が現れるたびに認知負荷が発生します(脳に負担がかかる)。*2

これを読書に置き換えると――たとえば自分にとって新しい用語が並ぶ本を読む場合、理解に時間がかかるほど処理が追いつかなくなり、内容の把握が断片的になります。

その結果、読み直しや迷いが増え、「読んでいるのに頭に入らない」「なんとなく疲れる」と感じやすくなるのです。

一度めくったページを戻り、何度も読み直している様子。

「速く」読みたいなら、まず「遅く」読め?

自分にとって難しい専門書よりも、日常的なエッセイのほうがスムーズに読めるのは自然なことです。しかし、もしもそれが自分の専門分野であれば、むしろ専門書のほうが読みやすいかもしれません。

読解教育の研究者、ケント州立大学名誉教授のティモシー・ラシンスキー博士は、単語をほとんど意識せずに読み取れる(自動化)状態になると、その処理にかかる負担は大きく減ると述べています。流暢に読めるぶん、内容理解に集中できるからです。*3

では、初めての用語や概念だらけの本は、私たちの読書を苦しくして、隙あらば頓挫させてしまうものでしかないのでしょうか?

――そこで、役に立つのが「文章に慣れるまではゆっくり読み、慣れてからは徐々に読む速度を上げる方法」です。

これは、日々膨大な数の本を読むという、バラエティプロデューサーで文化資源学研究者の角田陽一郎氏が紹介する読書法です。同氏は、

サイエンスや実用書、ビジネス書であれば、まえがきから前半はゆっくり丁寧に読み進め、大体その人の言いたいことがわかったらパラパラ飛ばし始めます。

と説明し、「最初から速読しないほうが、結果として速読になる(速く読める)」というパラドックスについて触れています。*4

この方法なら、「単語認識」と「言語理解」の処理がバランスよく整ってくるはず。その結果、「始めから速読」するよりも読書スピードが上がり、読解力も高まることが期待できるのです。

陽光あふれるカフェで読書をするビジネスパーソン

最初は「あえてゆっくり読む」読書法を試してみたら

そこでさっそく筆者も、普段はあまり手に取らない新書で試してみました。

AIが普及する現代において、改めて人間の知能を考察したい――そう考えて選んだのは、物理学者で中央大学教授、田口善弘氏の著書『知能とはなにか』(講談社)です。*5

「あえてゆっくり読む」読書法の実践に選んだ田口善弘著『知能とはなにか』

ビジネス書やライトな小説とは違い、読み飛ばして速読するにはやや手ごわい本です。じっくり読みたい本でもあるため、読み飛ばしはせず、内容を咀嚼しながら読み進めます。

前出の角田氏によれば、前書きから前半はゆっくり丁寧に読み進めることがポイント。*4 というわけで、最初は著者がこの本を上梓する意図をゆっくり読み始めました。

「はじめに」から0章、1章と読み進め――

0章、1章まで丁寧に読み込み、要点に付箋を貼った段階の本

ChatGPTが普及する前の生成AI、そしてこの著書のテーマである「知能」の定義に関してペースを落としながら読んだあと――

徐々にペースを上げていきます。

後半はペースを上げて読了した段階の、付箋がたくさん貼られた本

4時間ほどかかり読了。いくつかの効果を、しっかりと感じることができました。

「速く読まない」と考えれば「速く読める」

ここからは、「あえてゆっくり読み始める読書法」を体験して実感した、効果やポイントを共有します。

序文を丁寧に読むことがポイント

著者がこの本を上梓した理由が書かれている部分を丁寧に読むうちに、「この本は何が書かれているのか」の大枠を理解することができます。それが土台となり、後半を読み進めるうちに自然とペースが上がりました。

著者の文体や用語に慣れることも大事

内容の主旨をつかむことも大切ですが、著者の文体や用語に慣れることも大事です。AIや脳科学に関する言葉に慣れてくることで、後半になるにつれて個々の説明を追いやすくなりました。

速く読まなくていいと思うと負担が減る

「あえてゆっくり読むほうが速く読める」という事実を認識・理解するのも、読書の負担を減らすことにつながります(気がラクになる)。

まずは速度より、内容の主旨を理解することに注力する。そうして主旨をつかむことができれば、読みながら次にくる内容を推測する力がつきます。結果的に「理解度を落とさず速く読む」ことができるでしょう。

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スラスラと読むために、まずはゆっくり丁寧に「この本の内容をつかむ」ことから始めてみてください。そうすれば「理解を深める土台」ができあがり、以前よりもラクに読書ができるはずです。

その積み重ねがやがて読書家の道へとつながり、深い思考の土台もつくってくれるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q.読書をすると疲れるのはなぜですか?

A.単語の認識と文章全体の理解の処理がうまく噛み合わないと、ワーキングメモリに負荷がかかり、脳が疲労を感じやすくなります。自分にとって新しい用語が多い本ほど、この現象は起きやすいと考えられます。


Q.「あえてゆっくり読む」読書法とは何ですか?

A.まえがきや前半部分をゆっくり丁寧に読み、著者の主旨や文体に慣れてから徐々に読む速度を上げる方法です。最初から速読するよりも結果的に速く、そして深く読めるようになるとされています。


Q.読解力を高めるにはどうすればいいですか?

A.読解の単純モデルによれば、読解力は「単語認識」と「言語理解」の掛け算で成り立ちます。どちらか一方だけでなく、語彙力(単語認識)と文脈をつかむ力(言語理解)の両方をバランスよく鍛えることが重要です。


Q.序文をゆっくり読むことにどんな効果がありますか?

A.著者がその本を書いた理由や全体の主旨を把握でき、それが「読解の土台」になります。さらに著者の文体や用語にも慣れるため、後半に進むにつれて自然と読むスピードが上がる効果が期待できます。

(参考)

*1: READING UNIVERSE|Understanding the Simple View of Reading and Scarborough's Rope
*2: The Education Hub|An introduction to cognitive load theory
*3: Education Endowment Foundation(EEF)|Why focus on reading fluency?
*4: 東洋経済オンライン|「読書」のハードルがグッと下がる意外な読書法 今年こそきちんと読書をしたい人にオススメ
*5: 田口善弘著(2025),『知能とはなにか』,講談社.

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。