
会議で「持ち帰って検討します」と言ってから、3日。資料は増えました。メモも取りました。それなのに、結論だけが初日から一歩も動いていません。
足りなかったのは、考える力ではありません。考えても答えの出ない問いを、考え続けていただけかもしれないのです。
意思決定をテーマにした取材で、決断が速い人たちに共通していたのは、頭の回転の速さよりも、「これは考えても仕方がない」と見切る基準をもっていることでした。彼らが何を考えるのをやめているのか。取材で見えてきた4つを紹介します。
「材料が揃えば決められる」は、たぶん逆
あとひとつ資料を読んだら決めよう。この感覚には、一見ちゃんとした根拠があります。材料が増えれば、判断は正確になるはずだからです。
ところが、マーケティングコンサルタントの宮脇啓輔さんの見立ては逆です。判断が遅くなる原因は材料の量ではなく、選択肢ごとのリスクとリターンが整理できていないこと。整理がないまま材料だけ足しても、考えているようで、実際にはただ迷っているだけの時間が延びていきます。
しかも、あらかじめ正解が見えているケースが少ない現代のビジネスでは、机の上の検討より、試してみることのほうが多くの情報を運んでくる。だから宮脇さんは、大切なのは思考回数よりも試行回数だと言い切ります(『「即決する人」ほど成長が速い。重要なのは思考回数よりも試行回数』参照)。
やることは、問いの差し替えです。「材料は足りているか」と自分に聞くのをやめて、「これは試したほうが早く分かることではないか」と聞く。書き出したリスクとリターンで決められるなら、決めて試す。
本当に材料が足りないなら、「だからいまは決めない」とタイミングのほうを決める。宮脇さんによれば、「決めない」という選択もひとつの意思決定です。ずるずる待つのと、待つと決めるのとでは、心の負担がまるで違います。
答えの出ない問い
まだ調べ足りないのでは?
差し替える問い
試したほうが早く分かるのでは?
この差し替えができると、迷っているだけだった時間が、試して学ぶ時間に変わります。

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選択肢を増やすほど、選べなくなる
少し意外な研究があります。ランド研究所とカーネギーメロン大学の共同研究は、すべての選択肢を比べようとする人ほど、意思決定のプロセスに問題が生じると結論づけました。
判断をまわりに委ねる。決定を先延ばしする。決めたあとで悔やむ。丁寧に選んでいるはずの人にこそ、その傾向が現れるのです(『仕事が捗らないのは「決断疲れ」が原因かも。ジョブズも実践していた “決断力の節約術” とは』参照)。
比較サイトのタブが、気づけば10枚。候補を足すたびに安心するはずが、比較すべき組み合わせは増え、決断はむしろ遠のいていく。ツール選びでも依頼先の選定でも、候補集めが熱心な案件ほど、なぜか決まりません。
研究が示す対処は、自分のなかで「これでいいだろう」というラインを先に決めておくことです。探し始める前に、譲れない条件を3つだけ決める。予算、納期、必須機能。その3つを満たした最初の選択肢で決めてしまう。「もっといいものがあるかも」と探し続ける限り比較は終わりませんが、ラインを先に引いてしまえば、比較には終わりが来ます。
答えの出ない問い
もっといい選択肢があるのでは?
差し替える問い
先に決めた3つの条件を、満たしているか?
決断そのものが軽くなるうえ、「あっちにすればよかった」の後悔まで減るのが、このラインの効用です。

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「どちらが正解か」は、答えの出ない問い
AとB、どちらが正解なのか。決断を止めているのは、たいていこの問いです。株式会社識学の安藤広大さんは、その理由を脳の特性から説明します。人の脳には「損失回避バイアス」があり、デメリットはいくらでも思いつけてしまう。どちらを選んでも失うものが見えるのだから、「これが正解だ」という確信は、待っていても永遠に来ないのです。
だから安藤さんは、判断軸そのものを替えることを勧めます。正解かどうかではなく、「取り返しがつくかどうか」で決める。取り返しがつく決断なら、一定のリスクを受け入れて前に進んでいい。間違えたと分かったら、戻ってやり直せばいいだけだからです(『“取り返しがつく失敗” は恐れない——脳の特性を知って前に進む意思決定術』参照)。
考えてみれば、仕事の決断の大半は取り返しがつきます。会議の進め方、資料の構成、施策を打つ順番。「どちらが正解か」には答えが出なくても、「間違えたら戻れるか」なら数秒で答えが出る。止まっていた案件は、問いを差し替えた瞬間に動き出します。
答えの出ない問い
どちらが正解か?
差し替える問い
間違えたら、戻れるか?
「間違えたらどうしよう」の重さが決断から外れて、慎重な人ほど楽になる差し替えです。

頭のなかは、考える場所に向いていない
歩きながら、湯船で、布団のなかで。あれだけ考え続けたのに、翌朝もまったく同じ場所にいる。あの独特の徒労感の正体は、頭のなかの考えが形をもたないことにあります。形がないから、つかんで動かすことができない。検討しているつもりでも、実際には同じ考えを何周もなぞっているだけ、ということが起こるのです。
これを断ち切るいちばん手軽な方法が、紙に書き出すことです。書き出した考えは、目で見て動かせる検討対象になります。心理学の研究でも、考えや気持ちを書くことがストレスを和らげ、頭を整理する効果は繰り返し確認されてきました(『心理学が証明する「書く習慣」──ストレスを和らげる最も身近な方法』参照)。
目安はひとつだけ。同じ考えが3周したと気づいたら、頭のなかで続けるのをやめて、いったん全部書き出す。書いてみると、本当に考えるべき論点は、たいてい1つか2つしか残りません。なお、夜になると考えごとが止まらないタイプの人には、注意の向け先を外側に切り替える方法もあります(『考えすぎてしまって前に進めないなら、この3つを試してみて』参照)。
今日からの目安
同じ考えが3周したら、頭のなかで続けない。紙に書き出してから、続きを考える
堂々巡りが止まり、考えるべきことだけが手元に残ります。

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材料集め、選択肢の追加、正解探し、頭のなかの検討会。4つに共通するのは、どれも「ちゃんと考えている」という感覚だけは与えてくれることです。だから、自分では気づけません。手がかりになるのは、頭に浮かぶ問いのほうです。「まだ調べ足りないのでは」「もっといい選択肢が」「どちらが正解か」。この種の問いが浮かんだら、それが差し替えの合図です。
決断を速くするのは、深く考えることではなく、考えても答えの出ない問いを手放すことです。次の決断で、ひとつだけ試してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 考える時間を減らしたら、決断が浅くなりませんか?
Q. 心配性な性格でも、決断は速くできますか?
Q. 即決するようになって、失敗が増えたら本末転倒ではありませんか?
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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