
「一息ついてから次のタスクにとりかかろうと思っていたのに、気づけば30分もスマホをいじっていた」
「やり始めてしまえばすぐなのに、別のことが気になって後回しにしがち」
後回しにすればするほど、余計に腰が重くなっていく……そんな悪循環に、心当たりがあるかもしれません。
遅れを取り戻そうと気合いを入れれば疲労感が増してパフォーマンスが下がったり、自分の先延ばし癖に自己嫌悪してしまったり。
そんな人は、無理に自分を奮い立たせようとするのはやめて、あえて「何もしない」を選択してみるといいかもしれません。この記事では、やる気を出すための準備としてあえて何もしない、逆説的なアプローチ『戦略的退屈』をご紹介します。
なぜ私たちは「地味なタスク」から逃げるのか
経費の申請や資料の電子化、報告書の作成……難しいわけではないのに後回しにしてしまうのは、そのタスクに対して脳が物足りなさを感じてしまっているからかもしれません。
そのカギとなるのが、脳内にある「報酬系」と呼ばれる神経回路です。
何かを成し遂げたときや楽しいと感じたときには「ドーパミン」という神経伝達物質が放出され、快感や意欲がもたらされます。そしてドーパミンはバランスが大切で、分泌が不足しても過剰になっても、心身に悪影響を及ぼす可能性があるのだそうです(医師の山下明子氏が監修する解説による)。*1
たとえば、SNSやゲームは短時間で強い刺激を与えてくれますが、その刺激に慣れてしまうとより強い刺激を求めるようになり、癖になってしまいます。*1
やらなければいけないことがあるのに、つい次のようなことをしてしまっているなら、脳がより強い刺激を求めているサインかもしれません。
デスクまわりの整理
「片付く」という成果がわかりやすく達成感を得られ、これが脳にとって報酬となります。

資格試験の勉強をしなければいけないのに、つい机の上やパソコン周辺を整理整頓してしまう。勉強という低刺激で退屈なタスクよりも、「片付く」という明確な成果が見える作業のほうが、脳にとってはずっと魅力的に映るのです。
スマートフォンいじり
ちょっと通知を確認するだけのつもりが、ネットニュースに興味をそそられたり、SNSのショート動画の続きが気になってしまったり。そんな強い刺激も脳の報酬となります。
強い刺激に慣れた状態の脳にとって、「経費申請」「報告書作成」といった地味なタスクは低刺激で物足りないと感じられてしまうのです。
つまり、やる気が出ないのは、脳の刺激の閾値が上がってしまった結果と言えます。
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ドーパミンの閾値を下げる「戦略的退屈」
では、どうすれば後回しにしたくなるタスクにとりかかれるようになるのでしょうか。
そのヒントは「ドーパミン・ファスティング(断食)」という考え方にあります。
これは認知行動療法に基づいたもので、現代のテクノロジー中心社会での生活における不健康な刺激に支配されないようにする方法です。*2
SNSやネットニュース、ゲームといった刺激を受け続けている脳を休ませ、癖になっている悪習慣にうまく対処していこうと取り組みます。*2

「ファスティング(断食)」と聞くと「あらゆる刺激を遮断する」ととらえられがちですが、それは間違いだと警鐘を鳴らしているのが、考案者である心理学者のキャメロン・セパ氏自身です。*3
ドーパミン・ファスティングは、あらゆる刺激を完全に遮断するのではなく、日常生活で実際に問題になっている刺激に対して、その刺激を抑制する方法なのです。*4
たとえば、次のような取り組み方です。
- 寝る前のネットサーフィンが癖になっているのなら、寝る前の1時間はスマートフォンを別室に置く
- LINEの通知をきっかけにスマートフォンを長時間使用してしまうなら、勤務中は通知をオフにする
- 一日中ネットやゲームをしてしまうなら、週末のうち1日は外出する
これは、日々のタスクに置き換えて考えることもできるでしょう。
タスクにとりかかる前に、あえて5~10分ほど「何もしない退屈な時間」を設けることで脳の刺激に対する感度(閾値)を下げ、後回しにしたくなるようなタスクにも取り組みやすくするのです。
このように意志の力で自分を動かすのではなく、脳を「退屈」という凪の状態に置くことで、自然と次の行動へと向かわせる。これが『戦略的退屈』の狙いです。
実践! 「退屈」ワーク
「何もしない時間を作りましょう」と言われても、具体的にどうすればよいかイメージしにくいもの。
そこで、筆者が実際に行なっている、タスク開始前の心理的準備として機能するふたつのワークをご紹介します。時間に余裕がない場合は、1分の深呼吸だけでも効果が期待できます。
ワーク 15分間ぼーっとするワーク
最もシンプルなのは、椅子に座ってただぼーっとすることです。
スマホは手の届かない場所に置き、タイマーを5分にセットします。
ポイントは「何かを考えよう」と力まないことです。壁を見つめたり、窓の外を眺めたり。タスクに着手する前に脳をオフモードに置くことで、余計な刺激を防ぎ、集中の準備を整えます。
このワークは、実際のタスク開始の5~10分前に行なうのが目安です。完了直後にとりかかることで、効果が高まります。
ワーク 21分間深呼吸を繰り返す
目を瞑ってひたすら呼吸を繰り返します。
5秒間で息を吸いきり、5秒間で息を吐ききる。これを6セット繰り返すだけです。
頭のなかで「1、2、3、4、5」とカウントをとりながら繰り返すと、脳裏によぎる思考を無視できます。
これを繰り返すうちに「やらなければいけないけど、ほかのことをしたい!」という欲求が落ち着き、「さて、始めよう」という気持ちになれます。

無理に気合いを入れようとすると「本当はやりたくないのを我慢してやる」という気持ちになりがちです。あえてなにもしないこのワークのほうが、筆者はストレスなくタスクに取り組めると感じています。
***
「ちょっとだけ気分転換」のつもりでスマホを見ると、脳の刺激の閾値が上がり、地味なタスクはますます魅力のない選択肢になっていきます。
目の前のタスクから逃げ出したくなったら、騙されたと思って「退屈」ワークを試してみてください。
ただ何もしないこと。その逆説的な準備が、脳を静かにタスクへと向かわせてくれるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q. 「戦略的退屈」ワークはいつ行なうのがいいですか?
Q. ワーク中にスマートフォンを見てしまわないか不安です
Q. 「5分間ぼーっとするワーク」と「1分間深呼吸ワーク」、どちらを選ぶべきですか?
Q. 毎日やる必要がありますか?
Q. 仕事中でもできますか?
Q. 効果を感じられない場合はどうすればいいですか?
*1: アリナミン|ドーパミンとは?効果や自然な出し方を知ってやる気・集中力アップにつなげよう
*2: Harvard Health Publishing|Dopamine fasting: Misunderstanding science spawns a maladaptive fad
*3: Business Insider Japan|次は「ドーパミン・ファスティング」…シリコンバレーで流行する自己管理法
*4: ニューズウィーク日本版|シリコンバレーが行き着いた、刺激を断つ「ドーパミン・ファスティング」って何?
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。