「残業なんてしてはいけない。勤務時間のなかで効率的に成果を出すべきだ」
「タイムマネジメントができていないから残業なんて発生するんだ」
そんな空気に、どこか居心地の悪さを感じていませんか?
「効率よく仕事を片づけて定時退社」が美徳とされているけれど、納得できていない問題や迷っている案件もあるのに、これでいいのだろうか——。
考えるべきことがあっても時間になったらパソコンを閉じなければならない日々に、モヤモヤしている人もいるでしょう。
効率よく仕事をすることも大切ですが、納得のいくまで考え抜くことも重要です。
考えるためには時間が必要だからこそ、「残業=悪」とひとことでは片づけられません。
本記事では、ビジネスパーソンの成長や評価へとつながる「戦略的残業」の重要性や実践方法をご紹介します。
「定時で帰ること」と「成果」はイコールではない
リモートワークやデジタルツール、AIを導入して仕事の効率化をはかる職場は多いでしょう。
「生産性を高めよう」「残業をなくそう」という呼びかけも頻繁に聞いているはずです。
しかしCEOをはじめとするビジネスリーダー専門のコンサルタント、ピーター・ブレグマン氏は「この生産性こそ実は問題」だと述べています。
昨今の「効率や生産性を過度に追求する環境」で、考える時間が失われていると言うのです。
多忙な日々を過ごしていると、経験したことをじっくり分析したり、他者の意見を慎重に検討したり、決断がどう未来に影響するのかを判断したりすることがほとんどない。そうした作業には、時間をかけて落ち着いて取り組む必要がある。しかしその時間がない。だから私たちは内省する機会を持たなくなり、成長の余地を減らしている。*1
つまり、定時退社にばかり目を向けていると思考の時間がなくなり、ビジネスパーソンとしての成長が滞ってしまうということ。
いま目の前にある仕事を効率よく片づけられたとしても、考えることがおろそかになっている限り、将来的に活きる能力を磨くのは難しいのです。
いつまでも活躍できる人材になるために、勤務時間外を活用した「戦略的残業」で周囲との差をつけましょう。
「ただの残業」と「戦略的残業」の決定的な違い
残業といっても、ただの残業と「戦略的残業」は異なります。
残った業務を片づけるのではなく、内省や思考の時間にあてたり、「やりがいがある」と思うような仕事をしたりすることが重要です。
中国で268人の会社員を対象に行われたアンケート調査では、戦略的残業によって創造性が高まるという結果が出ています。
勤務時間外にする作業が「やりがいがある・挑戦的だ」と答えた人ほど創造性が高く、会社への帰属意識も強い傾向にあったのです。*2
さらに研究チームのひとりである西安交通大学経営学部のFengmei Ren氏は「勤務時間外に業務上の課題に取り組むことは、従業員に多くの成長の機会をもたらす」と述べ、戦略的残業のメリットを挙げています。
- 理解の深化
複雑な課題について、通常の勤務時間中よりも深く探求できる。 - スキル開発
問題解決や新規プロジェクトへの取り組みが、新しいスキルの習得につながる。 - ネットワーク構築とコラボレーション
勤務時間外に他者と共同でプロジェクトに取り組むことで、専門的なネットワークが広がり、多様な視点やアイデアに触れられる。 - 個人のモチベーション
勤務時間外に自発的に課題に取り組むことは、野心と意欲を示すことになり、個人の成長やキャリアアップにつながる。
(*2を参考に筆者がまとめた)
上記から、戦略的残業の特徴は「やりがいがある」と感じるような新しいプロジェクトや問題解決などに自発的に取り組むことだといえます。
残った作業を仕方なくこなすといった、一般的な残業のイメージとは異なります。
戦略的残業によって、スキル獲得やモチベーションの向上が期待できるのです。
また、同僚や上司と一緒に行なえば人脈と視点を広げることにもつながり、キャリアアップのチャンスとなりそうです。
できる人が実践する「戦略的残業」の方法
戦略的残業の特徴とメリットを明らかにしたところで、具体的な実践方法についてご説明しましょう。
時間のつくり方
戦略的残業をするには、そのための時間をつくる必要があります。たとえば、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏が毎年、読書と思考だけをする1週間を設けていたのは有名です。
また、イラクとアフガニスタンで米軍を指揮したデヴィッド・ペトレイアス大将は「常に膨大な量のデータを調べなければならないため、毎朝1時間、考える時間をスケジュールに組み込んで」いたそうです。*3
このように「毎朝1時間」「月に1日」など、自分なりのルールを設けて戦略的残業のための時間を確保するのがおすすめ。
とはいえ「戦略的残業をしたくても、仕事が残っていて時間がとれない」という人もいるはずです。
経営コンサルタントのダニエル・パトリック・フォレスター氏は「習慣や型にはまった行動」を「一歩下がって再検証」するべきだと述べています。
具体例として、次のような事例を挙げています。
例えば、在庫管理と輸送を行う小規模企業であるPBD社は、会社全体でEメールを使わない日を設けていました。最初、従業員は反発しましたが、Eメールを使わない毎週金曜日には、従業員のやる気と集中力が高まりました。*3
習慣になっているメールチェックや会議などを、本当に必要なのか、短縮や省略ができないか検討してみましょう。
事例のようにEメールを使わない日を設けるのは難しくても、メールチェックの頻度を減らすことはできるかもしれません。
また、出社時間を早めたり通勤時間を「戦略的残業」として活用してもいいでしょう。
「残業=就業時間のあと」と縛られず、柔軟に考えて時間をつくってみてください。
「考える」作業のやり方
戦略的残業では「考える」作業が中心となります。
このときのポイントは、じっくりと時間をかけて考えること。
関西大学総合情報学部教授の植原亮氏は、あえて遅く考えることで「誤った結論に至ることをただ回避できるだけではなく、より適切な結論に至ることができるように」なると言います。そのために意識したいことは、ふたつです。
- 最初に思いついた仮説に飛びつかない
- まずはいったん否定する *4
たとえば、クライアントに提案をしたのに反応がイマイチだったとき、「自分のプレゼンがよくなかったんだ」と考えがちです。
しかし、こうした最初の思いつきに飛びついて結論を出すのではなく「本当にプレゼンが悪かったのか? ほかの要因はないか?」と考えるのです。
最初の仮説をあえて否定することで、クライアントのニーズと提案がずれていたことに気づいたり、先方の担当者が変更になって日が浅かったことが原因だったりと、別の可能性が見えてくるでしょう。
植原氏は「本当の原因、因果関係を見つけ出すことができれば、効果的な改善策を導くことができる」と述べています。*4
「戦略的残業」としてじっくり考える時間を設けることで、効率やスピードを追い求める勤務時間内とは違ったメリットを実感できるはずです。
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「残業=悪」ではなく、やり方や考え方次第でキャリアアップにつながります。時間をとってゆっくりと考える「戦略的残業」をぜひ実践してみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|忙しい人ほど必要な「考える時間」のつくり方
*2 Fengmei Ren, Yuerong Zhou, Zhigang Song(2024),“After-Hours Work Challenges and Employee Creativity: A Moderated Mediation Model,” Sustainability, Vol.16, No.17, pp.7610.
*3 ITメディア エグゼクティブ|深く考える力を組織の中で生かす方法
*4 STUDY HACKER|本当に頭のいい人はあえて「遅く考える」。下手に速く考えないほうがいい2つの理由
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。