試験当日まで必死に勉強をした、あるいはプレゼン当日まで完璧に準備を行ったにもかからわず、いざという本番で頭の中が真っ白になってしまった……。 そんな経験がある方は、決して少なくないでしょう。なぜならば、ストレスと記憶には切っても切れない複雑な関係があるからです。
長期的な記憶ができあがる流れ
教育家のエリザベス・コックス氏は TED-ED で、長期的な記憶ができあがる流れについて、こう説明しています。
- 情報の獲得:脳のそれぞれの領域が活性化
- 経験の強化:扁桃体の助けを借りて強い感情と関連付けられる
- 記憶の分類:シナプス(※)結合を強化しながら脳の海馬が行う
- 記憶の取り出し:脳の前頭前野が記憶を取り出す信号を発信
※シナプス:脳の神経細胞と神経細胞の結合部
ストレスは記憶とどうかかわるか
コックス氏によれば、長期的な記憶ができあがる流れの際に、適度なストレスが記憶を助けるのだそう。前項で言うと2番目の段階「経験の強化」です。
ストレスの刺激があると、コルチコステロイド(Corticosteroid:副腎皮質ホルモン)が分泌し、 脅威などに対して偏桃体が作動します。そして海馬に合図を送り、ストレスの原因となった体験を記憶として整理するとのこと。
ちなみに、情動(※)反応の処理と記憶にかかわる「扁桃体」と、記憶の形成や想起に重要な「海馬」は、脳内でお隣さん同士です。
※情動:喜怒哀楽といった感情の動き
ストレスには良いものと悪いものがある
ストレスが脳に与える影響を生理学的な立場から研究する齋藤敏之教授によると、「正常なストレス反応」なら視床下部に負のフィードバック(脳に働きかけてホルモン分泌を止めようとする調整機能)がかけられるため、ストレス反応は適切に終わります。一方、「慢性のストレス反応」の場合は負のフィードバックが破たんし、海馬の萎縮を引き起こしてしまうとのこと。マウスにコルチコステロイドを投与して検証したところ、最初こそ記憶力は上昇したものの、投与量を増やすにつれて記憶力が下降してしまった、という研究結果も発表されています。
また、大阪大学大学院生命機能研究科・冨永恵子准教授らの研究グループが、ガラス器内で培養した脳切片で“長期記憶”と“ストレス状況”を再現し、神経細胞レベルで解析する試みを行ったところ、ストレスが長期記憶を阻害すると明らかになりました。
つまり、たとえば勉強や仕事の際、意図的にタイムプレッシャーを与えると適度なストレスとなり、グッと集中できて作業効率も良くなりますが、誰かに脅かされ続けているような状況では、どんどん頭が働かなくなってしまう、ということです。
頭が働かなければ、新たに記憶を形成したり、記憶を引き出したりする能力が損なわれてしまうのも当然ですよね。
頭が真っ白になったらやること
では、試験の当日あるいはプレゼンの当日などに、慢性的なストレスのせいで頭が働かなくなってしまったら、どうしたらいいでしょう?
焦って思い出そうとする行動そのものが、ストレスの原因になるとコックス氏は言います。ますますコルチコステロイドを分泌し、悪循環を生んでしまうのだそう。
そこで、ぜひ行って欲しいのが以下の3つです。
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- ストレスの多い状況を意図的につくって予行演習
- 運動でストレス軽減と睡眠改善
- 深呼吸
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(1について)新しい体験自体もストレスになるとのことなので、たとえば静かな場所でプレ試験を行ってみたり、友人や家族に頼んで聴衆になってもらい、プレゼンのリハーサルをしてみたりするのはいかがでしょう。本番に近い状態を体験しておけば、本番当日のストレスが軽減でき、頭が真っ白になるような状態も防げるはずです。
(3について)深い呼吸は自律神経に働きかけ、副交感神経の働きを良くして、気分を落ち着かせてくれるそう。扁桃体にも働きかけるとのことですよ。
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ストレスと記憶の、切っても切れない関係について説明しました。大切な本番で頭が真っ白にならないように、あるいは頭が真っ白になってしまったら、ぜひ紹介した方法で乗り切ってくださいね。
(参考)
TED Talk|エリザベス・コックス: ストレスと記憶の驚きの関係
リソウ(大阪大学)|ストレスが記憶に与える長期的影響をガラス器内で再現
京都産業大学 サイエンス&テクノロジー VOL.14
STUDY HACKER|これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディア|やる気を出したければ “あの色” を見ればいい。医師も推薦「色の呼吸法」が心身に効く。
早稲田大学石田研究室|卒業論文 | 要旨
コトバンク|コルチコステロイドとは
Wikipedia|副腎皮質ホルモン
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STUDY HACKER 編集部
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