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2018年2月14日に文部科学省が高等学校の次期学習指導要領案を発表しました。2020年度に迎える大学入試改革や小学校のプログラミング教育の必修化と合わせて、今後の学校教育の方向性を大きく決定づけるものとなります。

本稿では特に数学の変更点について、大学入試に関連しうるものを中心に解説いたします。

次期学習指導要領とその開始時期

次期学習指導要領は、「生きる力」(変化の激しいこれからの社会を生きていくために必要な資質・能力の総称)を育むことをテーマとして、学校教育の中で育んでいく資質・能力の3つの柱として以下を掲げ、思考力や表現力を身に付けていくことを重視しています。

1)「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
(中略)
2)「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」
(中略)
3)「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」

(引用:文部科学省|新しい学習指導要領等が目指す姿

「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)」を授業に導入し、生徒同士の対話を通じて学びを深めていくというこれまでの学校教育のあり方を変えるような提言もなされています。

開始時期については、

現行課程:2012年度から2021年度まで
新課程:2022年度から開始

となっており、2018年度4月から小学校6年生(現小学校5年生)になる子どもたちが高校生になる年から適用されることになります。

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現行課程と新課程の学習単元比較

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後述しますが、数学ⅠAⅡBⅢの5分野体制から、再び旧課程と同様の、数学ⅠAⅡBⅢCの6分野体制に戻ります。

理系の受験生は数学ⅠAⅡBⅢC6分野すべて学習し、文系の受験生は数学ⅠAⅡBの4分野が学習範囲の基本となる可能性が濃厚です。

現行指導要領からの変更点の概要

・変更点1:数学Cが新設。「ベクトル」「式と曲線」「複素数平面」が数学Cに移行。
・変更点2:「統計的な推測」が数学Bで必須化。新課程「データの分析」では仮説検定も扱うことに。
・変更点3:数学Aが「図形の性質」「場合の数と確率」「数学と人間の生活」の3構成に。現行課程「整数の性質」は、新課程「数学と人間の活動」に移行。
・変更点4:ほとんどすべての単元で日常とのつながりおよびコンピュータの活用を重視。
・変更点5:その他(確率に期待値が復活)

数学は全体的に統計学の色を強めた形となりました。これまで必須学習単元となっていた「データの分析」に加えて、数学Bではほとんど入試の出題範囲からは外れていた「確率分布と統計的な推測」が数学Bで必須化されます。昨今の統計学や機械学習、ビッグデータ活用への関心の高まりとあいまって、社会の中にある事象を数学的に考察する力をつけようとする狙いがあるようです。

これを受けて各大学がそれぞれの入学試験の試験範囲をどのように設定するかにもよりますが、大学入試も統計学の色をより強める可能性があると考えられます。

変更点1:数学Cが新設。「ベクトル」「式と曲線」「複素数平面」が数学Cに移行。

今回の改定で最も大きな変更となったのがこちら。
2022年度より実施の新課程では、再び数学ⅠAⅡBⅢCの6分野構成に戻り、現行課程では数学Bにある「ベクトル」および数学Ⅲにある「複素数平面」「式と曲線」が新課程の数学Cに移行します。これにより、「ベクトル」は文系の学生のほとんどが学ばなくなってしまい、理系学生のみが学ぶこととなります。

2011年度まで実施されていた旧課程では数学ⅠAⅡBⅢCの6分野構成であったのに対し、現行課程では、数学ⅠAⅡBⅢの5分野構成になり、「行列」が排除された代わりに「複素数平面」が復活、「データの分析」および「整数の性質」が新設単元となっています。

本改定を受けて、多方面で、以下の声が上がっています:

数学Ⅱ「図形と方程式」の理解に影響が出るのではないか

点と直線の距離の公式や円の方程式、座標平面上の三角形の面積公式など、ベクトルを用いて説明することによってより理解を深められる内容があります。他の単元よりも特にベクトルとのつながりが重視される単元が「図形と方程式」。ベクトルが数学Cに移行することによって、理系学生と文系学生との間に理解の差が大きくなりかねません。

高校物理における力学の習得に影響が出るのではないか

特に高校物理では物理基礎と物理の両方で力学を扱いますので、ベクトルの理解が遅れることはそれだけ力学の理解が遅れることにつながりかねません。

変更点2:「統計的な推測」が数学Bで必須化。新課程「データの分析」では仮説検定も扱うことに。

現行課程にも数学Bに「確率分布と統計的な推測」がありますが、現在入学試験において出題範囲に含めている大学は慶應義塾大学環境情報学部や昭和大学医学部などの一部の大学のみ。基本的に数学Bは「数列」「ベクトル」が大学入試の出題範囲となっています。

このように数学Bではほとんど入試の出題範囲からは外れていた「確率分布と統計的な推測」が、時期学習指導要領の数学Bでは、必須化されます。内容についても、標本調査や正規分布を用いた仮説検定といった項目が追加されます。

これを受け、入学試験の内容も統計学的な内容が増えることになることが予想され、1980年代に多かった統計関連の問題が再び受験数学を賑わせるかもしれません。

また、新課程では現行課程から引き続きある数学Ⅰ「データの分析」にも仮説検定が含まれるようになります。記述統計に関する初歩的な内容にとどまらず、高校1年が理解可能な範囲の中で仮説検定の考え方を扱うようです。

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変更点3:数学Aが「図形の性質」「場合の数と確率」「数学と人間の活動」の3構成に。現行課程「整数の性質」は、新課程「数学と人間の活動」に移行。

現行課程で初めて一つの大きな単元として扱われるようになった「整数」。新課程では再び、一つの単元ではなくなってしまい、別の単元「数学と人間の活動」とドッキングされるようです。

「数学と人間の活動」は現行課程にある「数学活用」という科目に入っている内容。数学Aは3単元から適宜選択して指導することになりますので、入試の出題範囲に入る可能性は低いと見られます。ただし、整数については教科書にかなりのページ数が割かれるようになる以前から、「整数問題」と称されて長らく難関大の頻出分野となっており、整数だけは出題され続けていくとの見方が強まっています。

変更点4:ほとんどすべての単元で日常とのつながりおよびコンピュータの活用を重視。

今回の改定案では、多くの単元における目標・目的の項目において、至る所に

日常の事象や社会の事象などを数学的に捉える

という文言を見ることができます。この言葉に表されているように、これまで以上に数学と日常・社会との関わりを意識している様子が伺えます。

また、コンピュータの活用についても同様であり、改定案の数学Ⅰ「データの分析」、数学A「図形の性質」や数学B「確率分布と統計的な推測」において、明確に「コンピュータなどの情報機器を用いるなどして……(中略)」との記述が見られます。大学入学共通テストの平成29年度試行調査の問題においても、例えば正四面体をコンピュータ・ソフトを用いて、描画している様子が題材となっています。

変更点5:その他(数A確率に期待値が復活)

細かい話題を最後に記載しておきましょう。
数学A「場合の数と確率」に期待値の内容が復活します。現行課程での入試が始まってもう4年目になりますが、出題範囲に含まれていないにもかかわらず、未だに間違って期待値を出題している大学を多く見かけます。現行課程でも期待値という名称を使用せずに期待値の計算を問題文中で定義した上で出題している場合もあり、旧課程の頃のように、活発に出題されるようになることが想定されます。

***
数学の学習指導要領は歴史の中で、時代・社会の要請に合わせて、単元の順番あるいは単元自体の入れ替えを繰り返してきています。しかし、高校で学ぶ基礎的な数学は時代の流れにとらわれずに、解析・代数・幾何をしっかりと学習して大学以降の学習に備えるべきとの向きもあります。
ともあれ、今後の入試問題の傾向を大きく変える可能性のある今回の学習指導要領改定。教育関係者だけでなく、親御さんもしっかりと情報をチェックしていきましょう。なお、パブリック・コメントの提出も2018年3月15日まで受け付けています。
詳細はこちら

(参考)
毎日新聞|高校の学習指導要領改定案 新設・見直し27科目
電子政府の総合窓口e-Gov|高等学校学習指導要領(案)
文部科学省|現行高等学校学習指導要領
文部科学省|学習指導要領「生きる力」
文部科学省|次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめのポイント
文部科学省|新しい学習指導要領等が目指す姿