
その悩み、決してあなただけではありません。書店に行けば勉強法の本がずらりと並び、ネットで検索すれば無数のテクニックが出てきます。どれも「科学的根拠がある」「効果実証済み」と謳われているのに、なぜか実践に移せない、続かない。
でもじつは、そんな有名な勉強法でも「ちょい試し」するだけで効果があるんです。完璧にマスターしなくても、毎日続けなくても、ちょっと試してみるだけで確実に学習効果は得られます。
本記事では、よく知られた2つの勉強法を例に、「ちょい試し」の精神で取り組むだけでどんな効果があるのかを、実践例とともにご紹介します。
- なぜ有名な勉強法を「知ってるけどやらない」のか
- でも、「ちょい試し」なら効果がある理由
- 勉強法1:「行動フォーカス計画」をちょい試し
- 勉強法2「自己説明法」をちょい試し
- 「ちょい試し」のもうひとつの価値(勉強法マニアも悪くない)
- 気軽に試して、効果を実感しよう
なぜ有名な勉強法を「知ってるけどやらない」のか
やらない理由はとてもシンプルです。
という思い込みがあるから。
たとえば、ポモドーロ・テクニックを始めようと思ったとき、「25分きっちり集中できるだろうか?」「毎日続けられるだろうか?」「途中で中断したら意味がないのでは?」と考えてしまい、始める前から心理的ハードルが高くなってしまいます。
さらに、多くの勉強法記事では「継続が大事」「習慣化しよう」と強調されるため、「どうせ続かないなら始めない方がマシ」という心理になってしまうのです。
でも、「ちょい試し」なら効果がある理由
行動分析学の専門家で心理学博士のFrank Cicero氏は、学習において「私たちがコントロールできるのは行動のみ」だと述べます。結果や時間の経過はコントロールできないからです。*1
その観点で言えば、
そして、それは学習に対する意識を変えることができる「行動」です。
なぜならば、どんな勉強法でも「ちょい試し」するだけで、以下の効果が期待できるからです。
- 学習のメタ認知が高まる→自分の勉強パターンが見えてくる(どの方法が合うか内省するから)
- 勉強への心理的距離が縮まる→「どの方法がいいかな?」と考える時点で学習モード
- 小さな成功体験が蓄積される→「あ、この方法ちょっといいかも」の積み重ね
- 完璧主義の罠から解放される→気軽に学習に取り組めるようになる(小ステップでの成功が失敗恐怖を減らす)
それでは、具体的に2つの勉強法で「ちょい試し」の効果を見てみましょう。
勉強法1:「行動フォーカス計画」をちょい試し
この勉強法とは?
「行動フォーカス計画」とは、勉強の計画を立てる際に「時間」ではなく「具体的な行動」に焦点を当てる勉強法です。
「今日は英語を1時間勉強する」ではなく「英単語アプリを20個やる」「英語のYouTube動画を1本見る」といった、明確で測定可能な行動で目標を設定します。
Frank Cicero氏の知見(私たちがコントロールできるのは行動のみ)参考。*1
▲従来の時間ベース計画
→「1時間勉強する」
→「英語の勉強を毎日2時間やる」
◎行動フォーカス計画
→「英単語アプリを10個やる」
→「英語のYouTube動画1本見る」
→「テキスト3ページ読む」
「ちょい試し」でやってみると?
この勉強法を完璧に身につけようとすると、「毎日行動ベースで計画を立てて、きちんと実行して……」と考えてしまう傾向があります。でも「ちょい試し」なら以下のとおり。
今日やりたい勉強をひとつだけ、具体的な行動で書いてみる
それだけです。計画表をつくる必要も、毎日続ける必要もありません。
筆者の「ちょい試し」体験
実際に筆者も、フランス語学習でこの方法を1日だけ試してみました。

いつもの「フランス語を1時間勉強する」を、以下のような行動で書き換えてみたのです。
- Quizletで単語ミニテスト(10コ)
- 仏語の絵本を2ページ音読する
- 仏語の映画を1本観る
- Le Monde(サイト)1記事1段落読む
- 今日読めたことを仏語で1行書く
- 仏語の短編動画より単語3~5コメモ
- アプリで1フレーズ会話を試す
1回試しただけで得られた効果
- 書いた瞬間に気分が変わった
「これならできそう」という感覚が即座に生まれました。漠然とした「勉強しなきゃ」という不安が、具体的で実行可能な行動リストに変わったのです。 - 達成感の質が変わった
いつもの「なんとなく1時間過ぎた」ではなく、「ちゃんと○○をやった」という明確な達成感が得られました。 - 自分のペースがわかった
「自分はこのくらいの量なら無理なくできる」という感覚がつかめました。
たった1日の「ちょい試し」でしたが、勉強に対する取り組み方が確実に変わったのを実感できました。
勉強法2「自己説明法」をちょい試し
この勉強法とは?
「自己説明法」とは、勉強したことを自分自身に説明してみる勉強法です。「人に教えるつもりで勉強すると効果的」という話は有名ですが、実際に人に教える機会をつくるのは大変。でも自分に説明するなら、いつでもどこでも実践できます。
シャーブルック大学(カナダ)教授のMartine Chamberland氏らの研究によると、自己説明は他者への説明と異なり断片的で不完全ですが、以下の効果があります。*2
- 断片的で不完全でもOK
→完璧を求めないからこそ、理解できない部分にフォーカスできる *2 - いつでもどこでも実践可能
→相手を必要とせず、思いついたらすぐできる - 幅広い分野で効果実証済み
→物理学、生物学、医学などさまざまな分野で有効 *2 *3
むしろ、完璧を求めないからこそ理解の穴を発見しやすくなるのです。
「ちょい試し」でやってみると?
ただ……、この勉強法を本格的にやろうとすると、「学習内容を体系的に整理して、論理的に説明して……」といった考えに陥りやすいもの。しかし、「ちょい試し」なら以下のようになります。
いま覚えたことを、1分だけ独り言で説明してみる
「えーっと、さっき読んだのは○○○だっけ?」
「つまり、これって○○○ということかな?」
完璧じゃなくてもOK。むしろ、つっかえるところがあってこそ価値があります。
具体的な「ちょい試し」例(マーケティング用語)
「アップセル」という用語を覚えたとして、自己説明法を「ちょい試し」してみます。
ステップ1:とりあえず説明してみる(30秒)
「アップセルって……えーっと、商品を買った人に、さらに高い商品をすすめること……かな? でも、どんな高い商品? いつすすめるの? よくわからない」
ステップ2:わからない部分に気づく
→「高い商品」の具体的な定義が曖昧
→タイミングがわからない
→具体例が思い浮かばない
ステップ3:気になった部分だけちょっと調べる
完璧に理解しようとせず、気になった部分だけササッと調べ直し。
ステップ4:もう一度説明してみる(1分)
「アップセルとは、お客さんが購入を決めた商品よりも上位版をすすめる販売手法。例えば、カフェでSサイズのコーヒーを注文した客にMサイズをすすめる感じ。購入決定の直前や直後に行うのが効果的……あ、なるほど!」
1回試しただけで得られた効果
- 理解度が一瞬で「見える化」された
「あれ? うまく説明できない……」で理解不足に即座に気づく。逆に「意外とちゃんと覚えてる!」で自信につながることも。 - 記憶への定着が1回でも変わった
頭の中で「言語化」することで、記憶が整理される感覚がありました。曖昧だった部分がはっきりしてきます。 - 小さな「わかった!」体験ができた
説明できなかった→ちょっと調べる→説明できた、という達成感。この感覚が「勉強って案外面白いかも」という気持ちにつながりました。

「ちょい試し」のもうひとつの価値(勉強法マニアも悪くない)
ここで、「勉強法マニア」と呼ばれる人たちについて、新しい視点を提供したいと思います。
勉強法について調べたり、新しい方法を試したりすることを「時間の無駄」と考える人がいますが、これは大きな誤解です。実際、学習科学の研究では、学習方法について学ぶこと(Learning to Learn)は、極めて価値の高い活動であることが示されています。*4
-
学習に対する意識の高まり
-
多様な学習戦略の獲得
-
自己分析力・メタ認知の向上
-
学習への関心やモチベーションの維持
「ちょい試し」の精神なら、どの方法も気軽に実験できます。続かなくても、完璧にできなくても、試してみただけで価値がある。そんな気軽さが、結果的に学習力を高めてくれるのです。
気軽に試して、効果を実感しよう
今回は2つの勉強法を例に、「ちょい試し」の効果をご紹介しました。
「ちょい試し」の核心
- 完璧を目指さない:不完全でも価値がある
- 継続を前提としない:1回だけでも効果がある
- 気軽に実験する:失敗を恐れない姿勢
- 小さな変化を大切にする:効果を即座に実感
こんなふうに、どんな勉強法でもちょっと試すだけで効果があります。また、いろいろ試すことで前向きな思考も生まれます。
- よさそうなものは自然と続く
- 合わなくても「試してみただけ」で効果があるから気軽にやってみればいい
勉強法を探すこと自体も学習の一部です。
「また新しい方法に手を出してしまった……」という罪悪感を手放して、「今日はこの方法で5分だけやってみよう」という気軽さで取り組んでみてください。
そういった軽やかな姿勢が、勉強との距離をグッと縮めてくれるでしょう。
***
完璧を目指さず、続けることを前提にせず、ただ「ちょっと試してみる」。
それだけで、勉強に対する感覚は確実に変わっていきます。
*1: Seton Hall University|Seven Study Habits to Put Into Practice Now: Tips From a Behavior Analyst
*2: ScienceDirect|Self-Explanation, An Instructional Strategy to Foster Clinical Reasoning in Medical Students
*3: Mary Lou Fulton College for Teaching and Learning Innovation|The Self-Explanation Principle in Multimedia Learning
*4: Italian Journal of Sociology of Education|Learning to Learn
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。