部下の泣き顔にひるむ上司は “成長の機会” を奪っている。

指導のやり方01

部下や後輩を注意しなくてはいけない立場だとしたら、「上手に注意」できる自信がありますか?

例えば、あなたが部下に重要な書類の作成を依頼したとします。その書類の書式は厳密に定められており、すでに研修で学んでいるはずのもの。しかし、部下が作った書類には書式上のミスが見つかります。あなたが「なぜルールを守らなかったのか?」と言うのに対し、部下は「聞いていませんでした」と返しました。

さて、どのような指導が適切でしょうか? 今回は、部下・後輩の指導に効果的なメソッドをご紹介します。

メソッド1:相手が納得するよう丁寧に話す

「自分がこのような言い方で注意されたら、どう感じるだろうか」と考えてみてください。人間が行動するにはモチベーションが必要です。そして、モチベーションが生まれるのは、他人から指示された場合ではなく、自分から「やってみたい」と思った場合なのです。

冒頭の例で「なぜ、ルールを守らなかったのか」という言葉だけを伝えた時、部下はどう思うでしょうか。責められているように感じて、素直に反省する気持ちよりも反発心を抱いてしまうかもしれません。

部下がミスをしてしまったのには、何かしらの背景があるはずです。さまざまな要因が考えられるからこそ、ただ頭ごなしに注意するだけでは部下の心を動かせません

指導は、部下・後輩が自分から行動したくなるようなものであるべきです。そのための第一メソッドは、「相手が納得するよう丁寧に話す」こと。実際にこのメソッドを使っていたのが、戦国武将・真田幸村の一族の財政破綻を立て直した伝説的改革者・恩田木工(おんだもく)です。

時間と根気を武器にして、徹底的に相手の納得を得る事が大切だ

(引用元:童門冬二 (1996), 『成功する「人心掌握」術―「自己改革」の最高名著「日暮硯」』, 三笠書房.)

このような信念を持つ木工が取り組んだのが、民に対して不正を犯した役人への対処です。木工は、ただ「やってほしいこと」のみを伝えるのではなく、その理由ややり方について丁寧に説明しました。役人たちに正面から罪と向き合い、民の信頼を取り戻してほしいこと。信頼回復のやり方は役人たちに任せること。信頼さえ取り戻せれば、彼らの罪はとがめないこと。

現代のビジネスに応用できるよう、このエピソードを分析していきましょう。まずは目的を伝えます。次に、目的と現状がどうつながるのかを、相手が納得できるよう丁寧に説明します。そして、目的を達成することで生まれる相手にとってのメリットをきちんと伝えます。この説明を繰り返した結果、相手からの信頼を勝ち取ることができるのです。

冒頭の事例では、部下にこのように伝えてみましょう。「書式のミスをしたら、あなたにとって余計な書き直しの時間が生まれ、もったいないですよね。ミスを無くすことができれば、すぐに仕事が終わるので、その分他の仕事に時間を使えますし、定時で帰ることもできます。だからこそ、あなたがミスをしない方法を考えることが、あなたにとっても良いことです。どうすればミスを防ぐことができるのか、考えてみてください」と。

こうすることで部下は、「ミスを無くさないと、自分に悪いことが起きるのか」と、ミスを直すメリットを理解できます。どうすれば部下が納得するのかを考え、丁寧に言葉を尽くすことが重要なのです。

指導のやり方02

メソッド2:ためらわない

部下や後輩を指導する時、「これを言ったら嫌われるんじゃないか」とためらってしまうことがありませんか? 悩んだ結果、本当は厳しく指摘しなければならないのに、あいまいな言葉でごまかしてしまうことがあるのではないでしょうか。しかし、部下や後輩を指導することも仕事のうちなのですから、ためらってはいけないのです。

実際に「一流」と呼ばれる人を見続けた人材育成コンサルタントの能町光香氏は「一流のリーダーは叱ることをためらわない」と言っています。

なぜなら、自身の「ミッション」が明確であるからです。自分は何を成すべきなのか、という「ミッション」の遂行にゆるぎない自信を持ち、なによりも「ミッション」の遂行を優先します。一流のリーダーは、部下から「嫌われたくないから」という理由により、「叱らない」という選択をしません。必要であれば、「叱る」という選択をしたほうが、部下にとってもチームにとっても「ふさわしい」ことだと知っているのです。

(引用元:ダイヤモンド・オンライン|なぜ一流のリーダーは部下を叱るのが上手いのか

「ミッションの明確さ」が一流のリーダーの条件であることは、パナソニックを創業した実業家・松下幸之助の言葉からもうかがえます。

5年後、10年後にどうなるか、どうすべきか。そのうえで、いまどうしたらいいのかを考える。将来から現在を考えるのが、経営者としての発想である

(引用元:嶋聡 (2016), 『最強経営者の思考法――松下幸之助と孫正義から直接学んだ実践リーダー学』, 飛鳥新社.)

一流のリーダーは常に未来を意識しています。自分のビジネスがどうなっているのか、自分は何を成し遂げないといけないのかを思い描いているのです。その未来像を踏まえた上で今は何をすべきなのかという逆算的な発想をしているのが「一流のリーダー」だといえます。

例えば、あなたのミッションが「チームをまとめて成果を出す」ことだとしましょう。部下や後輩のミスを指摘しようとした時、その人が威圧的な態度をとったり泣きそうな表情を見せたりしたら、ためらってしまいませんか? しかし、ミスに対して注意をしないのは、その人から成長の機会を奪うことになります

一方、正しい指導を通じて部下・後輩がどんどん成長していけば、あなたのチームも成長します。つまり、適切な指導はミッションの達成に直結するのです。

一流のリーダーは、部下・後輩から嫌われるという「一時的な損失」よりも、ミッションの達成という「本質的な目標」を重視します。指導することがミッションの達成に必要なのであれば、ためらわず淡々と行いましょう。

指導のやり方03

メソッド3:信頼して任せる

部下や後輩に「自分は信頼されている」と自信を持たせ、「力を発揮したい!」と思わせることも、指導する立場の役目です。松下幸之助も以下のように語っています。

信頼され、任されれば、人はうれしいし、責任を自覚する。リーダーが人を信頼し、仕事を任せると、任された人は自らの力をフルに発揮しようとする。すべての人を自分よりえらいと思って仕事をすれば、必ずうまくいくし、とてつもなく大きな仕事ができるものだ

(引用元:同上 )

ぜひ、指導の後は思い切って「あなたを信頼しています。後は任せます」と言って立ち去ってみてください。きっと部下・後輩のモチベーションが高まることでしょう。

指導のやり方04

部下・後輩を指導する3つのメソッドまとめ

指導しなくてはならない部下・後輩はいますか? もしいるのでしたら、あなたが成し遂げなくてはいけないミッションにとって、その指導が本当に必要なものか考えてみてください。必要であれば、ご紹介した3つのメソッドを実行しましょう。

  1. 指導の際はためらわない。
  2. 相手が納得できるまで丁寧に説明する。
  3. 相手を全面的に信頼して仕事を任せる。

こうすれば、きっと一流のリーダーに近づくことができます。また、あなたが指導した部下・後輩も、一歩成長することができるのです。

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これが、「上手に注意」するということです。今日からこの3つのメソッドを実践してみませんか?

(参考)
童門冬二 (1996), 『成功する「人心掌握」術―「自己改革」の最高名著「日暮硯」』, 三笠書房.
嶋聡 (2016), 『最強経営者の思考法――松下幸之助と孫正義から直接学んだ実践リーダー学』, 飛鳥新社.
ダイヤモンド・オンライン |なぜ一流のリーダーは部下を叱るのが上手いのか
Study Hacker|モチベーションをあげられない。そんなピンチは心理学で乗り越えよう。

【ライタープロフィール】
和泉杏咲
早稲田大学教育学部を卒業後、ワーキングホリデーにてカナダに滞在。帰国後は幼児教室の教材翻訳や編集、小学生用教材の編集、大手人材紹介会社にてライティング講師をするなど、幅広く「書き仕事」に従事。シナリオライター目指して武者修行中。ヲタク。

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