「この前はうまくいったけど、なんでうまくいったんだっけ?」
そんな経験はありませんか?
次に同じ状況が訪れても、再現が難しいケースです。
うまく言葉にできない、「なんとなく」うまくいった理由――その「なんとなく」こそが、もしかしたらあなたの強力な武器になるかもしれません。
その正体とは、多くの企業が注目している「暗黙知」のこと。通常は熟練者のなかに蓄積された、言語化が難しい勘やノウハウを指す暗黙知。本記事では、困ったときこそ出現する、自分のなかに隠れた「暗黙知」に注目します。
何もしなければそのまま埋もれてしまうかもしれません。暗黙知をしっかりと言語化し、強みに変えてしまいましょう。
個人でも実践できる「暗黙知」の活用法をご紹介します。
暗黙知とは?
暗黙知とは、「経験や勘に基づいて生じる知識のこと」です。形式知と呼ばれる言語化可能な知識とは異なり、言葉で伝えるのが難しいため、伝承されにくい特性を持ちます。*1
この、暗黙知の概念は、マイケル・ポランニー氏によって提唱されました。「人は、知っていても言葉にできない知識をたくさんもっている」と同氏は指摘しています。*1
個人の暗黙知はどんなもの?
今回は、そんな「暗黙知」を、自分のなかから取り出してみようという試みです。
では、私たちのなかにはいったいどんな「暗黙知」があるのでしょう?
以下に例を挙げてみました。
しばしば出現する私たちの暗黙知(と思われるもの)
①【プレゼンでうまく話せたとき】
「資料も完璧じゃなかったし、リハも一回しかやってないのに、なんかウケたな……」
→ 場の空気を読んで声のトーンや間を自然に調整していた
②【初対面の商談がうまくいったとき】
「なぜか相手の心を開かせられた。自分、いったい何したんだろう?」
→ 相手の言葉より「間」や「表情」に反応して無意識に会話を運んでいた
③【資料作りがスムーズだったとき】
「あれ? 今回のプレゼン資料だけすごく早く作れた。なんで?」
→ 過去の経験で「どこをどれくらい説明すれば伝わるか」を感覚でつかんでいた
④【クレーム対応がうまく収まったとき】
「あのとき何をどう言ったんだっけ? 怒ってたのに納得してくれた……」
→ 相手の怒りの「本音のツボ」を経験的に見抜いて、自然にその部分に寄り添っていた
⑤【ライティングや企画が刺さったとき】
「特に狙ったわけでもないのに、なんであの記事バズったんだろう?」
→ 読者心理の変化を直感的にとらえていた
このように、暗黙知は意識しないうちに仕事の成果を左右する重要な力です。しかし、そのまま放置すれば消えてしまい、自分の強みとして活かすことも、人に伝えることもできません。
この「見えない知恵」を意識的に活用し、再現性のある武器へと変えていきましょう。
暗黙知を個人で活用するには?
しかし、私たちは意識的に「暗黙知」を言語化しようとした経験は、ほとんどないはずです。いったい、どのようにしたらよいのでしょう?
すると、こんな記述を発見しました。
人材育成コンサルタントの山本志のぶ氏が書いていた内容です。*2
- 優れた暗黙知があっても、メモしなければ、また暗黙知の海に流される。
- キーワードがいくつか書いてあれば、芋ずる式にどんどん出てくる。
- 暗黙知がフッと表に出た瞬間をとらえ、関連ワードを3~4書いておけばズルズルと引き出せる。
なおかつ近年では、ベテラン社員がもつ「暗黙知」を、AIが言語化・データ化して整理し、企業のDX推進に活用するためのサービスも登場しています。*3
こうした背景をふまえて考えると――
暗黙知メモ(うまくいった際の関連ワードを3~4つ書く)を習慣化し、それをAIの力を借りながら言語化していくことで、自分のなかにある「暗黙知」をマニュアル化できるかもしれません。
「自分マニュアル」をつくる方法
まずは、どのような流れになるのかシミュレーションしてみましょう。
たとえば「資料も完璧じゃなかったし、リハーサルも一回しか行なっていないのに、なぜかプレゼンがうまくいったとします。
その場合の「暗黙知メモ」を以下のように想定しました。
- 空気感
- 話すスピード
- 相づちのタイミング
- 会場の反応(表情・笑い)
先の前提(なぜかプレゼンがうまくいった状況)と、この「暗黙知メモ」を生成AI(ChatGPT 4o)に伝え、形式知化をお願いしてみます。
するとこのような答えが返ってきました。
1. 冒頭で場の雰囲気を観察し、「硬い/和やか」などの空気を読み取る
→ 聴衆の表情や姿勢、雑談の有無などから判断。
2. 話すスピードは「ややゆっくり」を意識し、重要な箇所ではさらに間をとる
→ 聴衆の反応を見ながらスピードを調整。
3. 共感や笑いを誘う場面では、意図的に「間」を空けて相づちや笑いを引き出す
→ 緊張をほぐす効果もある。
4. 会場の反応(頷き、笑い、メモを取るなど)に注目し、話題の深掘りを判断
→ 反応が強かった箇所は重点的に補足する。
なかなかの「自分マニュアル」ができあがったのではないでしょうか。
「自分マニュアル」をつくってみた
そこで、今度は実体験をもとに実践してみることにしました。
じつは筆者、過去に――簡単な資料は用意していたものの、細かい準備は何もしないまま、想像以上に大きな会議に出席したことがあります。
主なテーマは、インテリア売り場における来季の定番商品(企画)の方向性について。
多少の経験はしていたのでアドリブは利きますが、そのときはさすがに「しまったーーーー!!」という状況。明らかに準備不足だったのです。
ところが――頭を真っ白にしながら発言した内容を、取引先の方々が、大いに喜んでくれました。
そのときの暗黙知メモ(関連ワード3〜4つ)を挙げてみるとこんな感じ。
- とりあえず堂々と
- とりあえず明るく笑顔で
- 定番商品の応用化(単なる売れ筋にしない)
- 逆に質問する(どうしたいのか?)
これらの内容を生成AI(ChatGPT 4o)に伝え、形式知化をお願いしてみました。すると……。
成果を出す会議対応スキル
🎯目的:
即興でも、相手の信頼と満足感を得るための立ち振る舞い戦略
🔸1. 第一印象で場を支配する
大きな場ほど、「堂々とした態度」と「明るい笑顔」で先手を取る。
→ 内容ではなく「雰囲気」で信用を得る。緊張していても「明るく」「ハキハキと」発言する。
🔸2. 深い知識より「目のつけどころ」で勝負する
売れ筋や数字だけでなく、応用・展開の可能性に視点を置く。
→ 相手が「なるほど」と思える「未来の使い方」を仮説として提示する。
🔸3. 意見が曖昧なら、逆に質問して「意図」を引き出す
「では、どうしたいとお考えですか?」と投げ返すことで相手のニーズを可視化。
→ 準備不足を補うだけでなく、「理解してもらえた」と感じさせる余白づくり。
✅結果として:
即興でも「堂々と・明るく・本質を突く・引き出す」という行動の質が高く評価される。
「話す内容」よりも、「話す姿勢と観点」が刺さっていた可能性が高い。
――といった、なかなかのマニュアルが完成しました。
作ってみた感想
正直なところ、なぜがうまくいった経験(前提)+暗黙知メモ(関連ワード3〜4つ)+生成AIによる形式知化で、ここまでのマニュアルが完成するとは思いませんでした。
しかも、暗黙知メモはその瞬間を必ずしもとらえなくても、過去の経験を思い出しながらキーワードを抽出すれば、形式知化は可能です。
ただ、現時点では、あくまでも「自分マニュアル」をつくってみただけの段階。
今後は「自分マニュアル」を似たシチュエーションで活かし、必要に応じてマニュアルを軌道修正していく予定です。
***
暗黙知を言語化し、形式知に変えることは、「自分にしかない強み」を再発見することでもあります。
そのためには、まず「うまくいった理由がわからない瞬間」に目を向けてみること。その違和感こそが、あなたのなかに眠る価値ある知見の入口です。
「なぜかうまくいった」を放置せず、キーワードでとらえ、記録し、生成AIの力も借りながら見える化していく──その繰り返しが、個人のスキルを組織の知へと変える第一歩になります。
*1: ダイキン工業|暗黙知とは?企業内の知識を形式知に変換するための考え方を解説
*2: Leaf Wrapping|頭によぎった暗黙知をメモする ビジネスに欠かせないメモ術(8)
*3: MRI 三菱総合研究所|熟練技能者のノウハウ・技術の継承を支える「匠AI」
STUDY HACKER 編集部
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