リーダーとしてチームの成果を挙げるには、メンバーへの的確な「指示」が欠かせません。日常的に行なっていることですから、多くの人が「自分はきちんと指示できている」と思っているでしょう。しかし、「言語化コンサルタント」の木暮太一さんは、「それはただの思い込みかもしれない」と注意を促します。本当に成果につながる指示を出すには、どうすればいいのでしょうか。著書『リーダーの言語化』(ダイヤモンド社)からそのポイントを伝えます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
木暮太一(こぐれ・たいち)
1977年11月16日生まれ、千葉県出身。言語化コンサルタント、作家、一般社団法人教育コミュニケーション協会代表理事。富士フイルム株式会社、株式会社サイバーエージェント、株式会社リクルートを経て現職。14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着をもつ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでもなにも伝わっていない」状況を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3,000件を超える。『人生は「言語化」すると動き出す』(フォレスト出版)、『わかりやすく伝える』(WAVE出版)、『すごい言語化』(ダイヤモンド社)、『その働き方、あと何年できますか?』(講談社)、『気持ちをもっと言葉にできる本』(三笠書房)など著書多数。
「きちんと指示を出している」つもりでも、多くはそうできていない
会社員時代、「本人は伝えているつもりでも相手にはなにも伝わっていない」ことが要因で問題が生じる場面を数多く目撃してきました。そうして「言語化(=明確化)」の重要性を痛感したぼくは、いま「言語化コンサルタント」として仕事をしています。
伝えるべきことを明確にしないことによる弊害は、ぼく自身、ビジネスだけでなくプライベートでもはっきりと実感しました。じつは、ぼくは痛風もちです。発症して以来、医者からの「食生活に気をつけてください」という言葉に従い、以前は毎日飲んでいたお酒を月に2、3回程度に減らし、脂っこいものは極力避け、プリン体の多いウニやあん肝といった食材には近づくことすらなくなりました。そこまで努力しても、尿酸値が一向に下がらなかったのです。
するとあるとき、「鶏肉って体に悪くないの?」と知人から言われたのです。コロナ禍の最中にウォーキングのほかに筋トレもするようになっていたぼくは、タンパク質を摂取しようとササミを毎日のように食べていました。あらためて調べてみると、元凶はこのササミでした。なんと通風にとっては、ウニよりもササミのほうがずっと害が大きかったのです。
ササミについては、当時のぼくだけでなく、低脂質高タンパクの健康的な食材だという認識をもっている人が多いはずです。そうして、ぼくは医者の指示通りに「食生活に気をつけている」つもりで、じつは真逆のことをしていたわけです。
これと同じようなことは、ビジネスの場でも頻繁に起こっています。たしかに医者は「食生活に気をつけて」という指示は出しています。そのために「きちんと指示をしている」気になっているのですが、相手の正しいアクションは引き出せていません。これがビジネスの場であれば、成果につながらない、厳しい言葉で言えばまったく意味のない指示になってしまっているのです。
指示とは、よほど強く意識しないと曖昧になる
ですから、特にチームを率いるリーダーの立場にあるような人にお伝えしたいのは、「よほど強く意識しないと、指示は曖昧なものになる」という前提に立つことの重要性です。そうでないと、先の医者ではありませんが、「自分はきちんと指示できている」と思い込んでしまうからです。
そのうえで、「『そのためになにをする?』という問いかけを3回繰り返す」ようにしてください。そうすることで、みなさんの指示はずっと明確なものになります。
たとえば、メンバーに「顧客の声を集めてください」という指示を出すとします。一見すると具体的な指示に思えるかもしれませんが、顧客の声は近くに落ちていて拾えるようなものではありませんから、やはりまだまだ曖昧です。そこで「そのためになにをする?」と問いかけた結果、「顧客の声を集めるために顧客に電話をする」となりました。
でも、電話して「最近どうですか?」とただ聞いても、こちらが欲しい回答が返ってくる可能性は低いでしょう。そこでまた、「そのためになにをする?」を繰り返し、「顧客に電話してアンケートをする」「電話アンケートを作成する」というように、どんどんアクションを細分化していきます。そうすれば、実行可能なレベルのアクションにまで落とし込んだ、明確な指示ができるようになるという流れです。
軌道修正の指示では、必ず代替案を示す
また、指示は、メンバーのアクションの始動時だけにするものではありません。メンバーが誤った行動をしているようなときには、軌道修正の指示を出す必要があります。
このときにまず注意してほしいのは、メンバーが「誤った行動をした」という結果だけを見て否定形で終わってはいけないということ。ミスなど誤った行動をしたメンバーに対して、「どうしてそんなことをしたんだ!」と責めたところでそこまでの結果は変わりませんし、相手は萎縮して動けなくなってしまうでしょう。
わざわざ「チームにとってマイナスに働くことをやってやろう」などと考えるメンバーはいません。ほとんどの場合、よかれと思って行動した結果、誤ってしまっただけに過ぎないのです。
ですから、リーダーとしては、行動が間違っているという事実は指摘しながらも、「そうじゃなくて、こうしてほしい」という正しいアクション、いわば代替案をきちんと伝えなければなりません。ぼくの通風の例で言えば、「ササミを食べず、野菜や海藻、きのこ類、低脂肪の乳製品などを意識的に食べてください」と指示するという具合ですね。
ただ、こう言うと大きなプレッシャーを感じるリーダーが多いのも事実です。特に、「自分はそれほど優秀でもないのにたまたまリーダーに抜擢されてしまった」「リーダーをやるのは荷が重い」と感じているような人には、「すべてを自分で決めて指示を出すことなどとてもできない」と悩むケースもよく見られます。
そういう人なら、メンバーと一緒に考えてはどうでしょうか。「このゴールに達するには、どういうアクションが有効だと思う?」「ミスを減らすためにこうしてほしいと考えているのだけれど、どう思う?」というようにブレストをするのです。リーダーにだっていろいろなタイプがいていいのです。チームを力強く率いるリーダーではなくファシリテーターのように動くというのであれば、自分に自信をもてていない人にとっても、ハードルがぐっと下がるのではないでしょうか。
【木暮太一さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「自分で考えろ」は古すぎる。成果を出すリーダーがメンバーに “必ず伝える” 3つのこと
「足りない20点」を埋めにいく。リーダーが実践すべき、アクションにつながるゴール設定
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。