
多くの人がかかわる仕事には、正解がひとつではない場面が数多く存在します。だからこそ、自分の「正しさ」を証明しようとするほど、議論は平行線になりがちです。本当に必要なのは「互いの事情を理解すること」だと語るのは、『仕事ができる人の頭のなか』(ダイヤモンド社)を上梓した「言語化コンサルタント」の木暮太一さん。対立を解決し、仕事を前進させるコミュニケーションのコツを教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
木暮太一(こぐれ・たいち)
言語化コンサルタント・作家・一般社団法人 言語化コミュニケーション 代表理事。14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。企業のリーダーに向けた言語化プログラム研修、経営者向けのビジネス言語化コンサルティング実績は、年間200件以上、累計3000件を超える。『リーダーの言語化』『すごい言語化』(ともにダイヤモンド社)ほか、著書68冊、累計195万部。
対立の原因はそれぞれの「事情」の違い
仕事をしていると、「こちらが正しいのに、どうしてあの人はわかってくれないのだろう」と感じる場面は多いものです。ただ、こうした対立は、相手が意地悪だから起こるわけではありません。
多くの場合、対立が起きる原因は、お互いが異なる「事情」を抱えていることにあります。組織では、それぞれ異なる役割や目標が与えられています。そのため、自分の部署や立場から見れば正しい判断でも、別の部署から見れば受け入れられないことがあるのです。ぼくはこれを、「べき論の衝突」と呼んでいます。
ぼく自身、富士フイルムで働いていた時代には、営業部門と技術部門が対立する場面を何度も見てきました。「メーカーあるある」ともいえますが、営業部門は「お客様が求めているものをつくるべきだ」と考える一方で、技術部門は「技術的な制約やコストを考えれば、それは現実的ではない」と主張するようなケースです。
どちらも会社のことを考えている点では同じです。それでも対立してしまうのは、それぞれが置かれている状況や責任が異なるからです。つまり、「正しい人」と「間違っている人」がいるのではなく、「事情が違う人」がいるだけなのです。
ですから、まずはその事実を理解することが大切です。相手は自分の邪魔をしようとしているのではなく、自分とは異なる立場から最善だと思う判断をしている。その前提に立つだけでも、相手の見え方は大きく変わるでしょう。

自分の「正しさ」を説明しても人は動かない
では、意見が食い違ったとき、「仕事ができる人」はどう対応しているのでしょうか。多くの人は、自分の正しさを証明しようとします。「こちらの案のほうが合理的です」「データでも証明されています」と説明すれば、相手も納得するはずだと考えるからです。しかし、実際にはそれだけで人は動きません。なぜなら、結論だけをぶつけ合っているからです。
意見が食い違って対立している相手とは、まず互いの「事情」を話し合うことが最重要です。「なぜそう考えるのか」「どのような制約があるのか」「なにを心配しているのか」——そうした双方の背景を共有してはじめて建設的な話し合いが可能になります。
事情を話さず、「こうすべきだ」という結論だけを主張すれば、議論は勝ち負けを決めるためのものになってしまうでしょう。こちらが勝てば相手が負ける、相手が勝てばこちらが負けるという構図になり、互いが歩み寄る余地がなくなります。
一方、「営業としては、お客様との約束があるので、この日程はどうしても守りたい」「技術部門としては、この品質を維持しないと大きなトラブルにつながる」といった事情を共有できれば、議論は「そうであれば、どのように折り合いをつけようか」という話に変わっていきます。
大切なのは、感情的にならないことです。怒りを抑え込むとかアンガーマネジメントといった類の話ではなく、相手の事情を理解しようとする姿勢を持ちましょう。その姿勢があるだけで、「相手をいい負かす」のではなく「一緒に解決策を探す」という関係へ変わっていきます。

怒ることで解決する仕事上の課題はない
この考え方は、日々の「報連相」にも当てはまります。仕事ができない人の報連相は、どうしても保身のためのものになりがちです。簡単にいえば、「報告しましたから、あとは知りません」「なにか問題が起きても自分だけのせいではない」という姿勢です。しかし、それでは相手は判断できません。
たとえば、「発注した部品が半分しか届いていません」とだけ報告されたら、上司は「それでどうしたの?」と思うでしょう。相手が判断するために必要な情報が足りないのです。
仕事ができる人は、現状だけではなく、自分がなにを心配しているのかまで共有します。「このままだと納期に間に合わないかもしれません」「私はここがリスクだと考えています」といったことまで伝えれば、上司は状況を理解し、適切な判断を下しやすくなります。
ここで大切なのは、「自分が悪く思われないように伝える」ことではなく、「相手が判断しやすいように伝える」ことです。この視点を失うと、どうしても感情的になりやすくなります。自分を守ろうとするほど、「相手が悪い」「自分は悪くない」という発想になってしまうからです。
ぼく自身、若い頃は周囲と感情的に対立することも少なくありませんでした。しかし、当時の先輩のひとりに、どんな場面でも決して感情的にならない人がいました。その人は、相手の話を最後まで聞き、「どういう事情でそう判断されたのですか?」「その点は一緒ですよね」などと互いの共通点を探しながら、とにかく相手を理解しようとしていたのです。
あとになって当の本人に、「なぜあんなに冷静でいられたのですか?」と尋ねたところ、「怒ってもしょうがないからね」とひとことだけ返ってきました。
まさにそのとおりだと思います。怒って問題が解決したケースを、ぼくはひとつも知りません。対立を避けたいなら、まず相手の事情を知ろうとしてください。そして、小さなことでもいいので相手との共通点を探してみてほしいと思います。相手を論破するより、相手を理解すること。その姿勢こそが、対立を減らし、仕事を前へ進める力になるのです。

【木暮太一さん ほかのインタビュー記事はこちら】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
