なぜあの人は折れないのか? 脳科学者が教える「ストレスに強い脳」のつくり方

脳科学者・西剛志が解説:しんどさ・つらさの正体は扁桃体過活動とDOS不足のサイン

同じ出来事を経験しても、深く傷つく人もいれば、すぐに立ち直ることができる人もいます。その違いを生むのは、能力や精神力ではなく、脳のコンディションなのかもしれません。脳科学者の西剛志さんは、「ストレスへの反応や回復力が、脳内で働く複数の神経伝達物質と密接に関係していることがわかっている」と言います。「しんどい、つらい」の正体とはなにか、そして脳を健やかに保つ方法とはどのようなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】

西剛志(にし・たけゆき)

1975年生まれ。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。東京工業大学大学院生命情報専攻修了、博士号取得。特許庁を経て2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的ノウハウや、才能を引き出す方法を研究し、エビデンスに基づいた企業研修・商品開発サービスを全国に展開している。これまでに上場企業や教育・公的機関を中心に100団体以上で研修や講演を実施、経営層から若手社員までのべ4万人以上を指導。人間関係・役職・業務負荷といったストレスの悩みに向き合い、離職率の低下解消・チームの生産性向上に貢献してきた。著書には『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)などベストセラー多数。

しんどくてつらいのは脳のSOSサイン

「なんだかしんどい」「仕事がつらい」。そう感じるとき、多くの人は自分の性格や意志の問題だと考えがちです。しかし、脳科学の観点から見ると、それは意志の弱さの表れではなく、脳からのSOSサインかもしれません。

しんどさやつらさを感じているとき、脳内ではまず扁桃体が活発になっています。扁桃体は不安や恐れ、怒りといったマイナス感情に関係する部位で、いわば「脳の警報装置」です。その警報が鳴り続けている状態が、強いストレスを受けている状態だと考えてください。

さらに問題なのは、それと同時に脳を守る働きを持つ物質が十分に分泌されなくなっていることです。私はこれらを「DOS」と呼んでいます。DOSとは、ドーパミン、オキシトシン、セロトニンという3つの神経伝達物質の頭文字を取ったものです。

それぞれの働きについては後述しますが、いずれにせよ、しんどくてつらい状態とは、脳の警報装置である扁桃体が過剰に働いている一方で、脳を前向きな状態へ導くDOSが不足している状態です。

すると、小さな失敗を必要以上に気にしたり、誰かの何気ないひとことに傷ついたりしやすくなります。さらには、ストレスを感じるからDOSが減り、DOSが減るからよりストレスを感じやすくなる——。こうした悪循環におちいってしまうのです。

DOSスイッチとは何か:ドーパミン・オキシトシン・セロトニンがストレスから脳を守る仕組み

脳を守る鍵は「DOSスイッチ」にあり

ここで、DOSがどういうものかを解説しましょう。ドーパミンは、「やる気のホルモン」と呼ばれることもありますが、正確には自らが期待したときに分泌される物質です。たとえば楽しみにしていた映画を観に行く前や、旅行の計画を立てているときなど、「これからいいことが起きそうだ」と感じた瞬間に分泌されます。

オキシトシンは、人とのつながりによって分泌される物質です。ハグをしたときに出るホルモンとしても知られていますが、近年では扁桃体に作用し、ストレス反応を弱める働きがあることもわかってきました。

そしてセロトニンは、一般的には幸福感や情緒の安定に関係するといわれていますが、それだけでなくじつは「粘り強さ」とも深く関係しています。困難な状況でもあきらめずに行動を続ける力を支えているのです。

まとめると、この3つの神経伝達物質が十分に働いている状態は、脳にとって防御システムが正常に機能している状態だといえます。もちろん、DOSが十分に分泌されている人も、ストレスをまったく感じないわけではありません。嫌なことがあれば落ち込みますし、腹が立つことだってあるでしょう。しかし、その状態から立ち直る力が高いのです。多少嫌なことがあっても必要以上に落ち込まず、前向きに行動しやすくなるというわけです。

逆にDOSが不足すると、脳のバリアがなくなったような状態になります。すると、本来であれば気にならなかったことまで気になりはじめ、ストレスを受けやすくなるのです。仕事で高いパフォーマンスを発揮するためにも、まずはDOSを分泌するためのスイッチを正常に働かせることが重要です。

ドーパミン・オキシトシン・セロトニンを増やす簡単な方法:アーシングやフードシェアリングの効果

神経伝達物質は意外と簡単に増やせる

では、DOSスイッチを入れるにはどうすればいいのでしょうか? じつは特別なことをする必要はありません。

たとえばドーパミンを増やしたいなら、「かわいい」と感じるものに触れるだけでも十分です。動物や赤ちゃんの写真を見ると自然と気分が上がる人は多いでしょう。職場のデスクにペットの写真を置いたり、お気に入りのキャラクターグッズを置いたりするのも効果的です。

オキシトシンを増やしたいなら、フードシェアリングが有効です。たとえばピザをみんなで分けて食べる、お土産のお菓子を職場で配るといった行動です。同じものを一緒に食べることで、人は無意識に仲間意識を抱きやすくなります。

最近は職場の飲み会を避ける人も増えていますが、誰かと食事をともにすることには単なる交流以上の意味があります。脳科学的には、人とのつながりを感じる機会そのものが強力なストレス対策だといえます。

そしてセロトニンを増やす方法としておすすめなのが、「アーシング」です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは裸足で地面に触れることを意味します。公園の芝生や砂浜などを裸足で歩くと、シンプルに気持ちいいですよね。そして、そうした行為によってセロトニンが分泌されやすくなることがわかっています。

もちろん、これらを一度やったからといって明日から人生が劇的に変わることはありません。しかし、脳の状態は日々の小さな行動によって少しずつ変わってくものです。そこでまずは、DOSスイッチを入れる習慣を身につけていきましょう。徐々に、ストレスに強い自分を手に入れることができるはずです。

脳科学者が教えるDOSスイッチ習慣:日々の小さな行動でストレスに強い脳をつくる方法

西剛志さん ほかのインタビュー記事はこちら】

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。