
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
Season6では「なぜこのブランドは選ばれ続けるのか」を事例で深掘りしました。
Season7では、より深く「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
▶ Season 1【全14回まとめ】|▶ Season 2【全15回まとめ】|▶ Season 3【全20回まとめ】|▶ Season 4【全20回まとめ】|▶ Season 5【準備中】|▶ Season 6【準備中】
1996年の発売から30年——2026年、たまごっちが再び世界中の若者のバッグで揺れています。
2025年7月末、バンダイはたまごっちの累計出荷数が1億個を突破したと発表しました。驚くべきはその内訳で、海外比率が50%以上に達しています。*1 かつて「日本の女子高生の社会現象」だったあの卵型デバイスが、いまやニューヨーク・ロンドン・ソウルのZ世代のアクセサリーになっているのです。
スマホの画面を閉じ、あえて3つのボタンで操作する小さなガジェットを選ぶ——その逆張りの魅力はどこから来るのでしょうか。
- 「おもちゃ」から「ファッション・アクセサリー」へ——文脈の書き換えという戦略
- Wi-Fi搭載「Tamagotchi Uni」——ローカルな愛着を、グローバルなインフラに接続する
- 「コアな体験」を残したまま、現代の文脈でアップデートする
- よくある質問(FAQ)
「おもちゃ」から「ファッション・アクセサリー」へ——文脈の書き換えという戦略
たまごっちのリバイバルを理解するうえで最も重要なのは、「商品を変えた」のではなく「文脈(コンテキスト)を変えた」という点です。
2022年以降の平成レトロブームを追い風に、バンダイは「Original Tamagotchi」を豊富なデザインバリエーションで展開。さまざまなファッションブランドやアーティストとコラボし、「これまでたまごっちに触れたことのないZ世代を中心にファッションアイテムとしても人気を博しました」と公式も認めています。*1
玩具コーナーから、ファッション・アクセサリーの文脈へ。この転換が生んだのは、「自己表現のアイテム」としての新しい価値です。クリアカラーのボディ・ポップなデザイン・バッグにぶら下げられるサイズ——これらすべてが「私はこういう人間です」という自己表現として機能しています。
そしてここに、デジタルネイティブ世代への深い逆張りインサイトが隠れています。スマホゲームは「いつでもやり直せる」効率性を追求しています。一方でたまごっちは、お世話を怠ると死んでしまう——この「不便な一期一会性」が、逆説的に「本物の愛着」として刺さります。*2 アプリゲームでは得られない「自分が育てた」という感覚が、たまごっちにしか出せない情緒価値です。
| 時代 | 主なターゲット | 商品の価値 | コアな魅力 |
|---|---|---|---|
| 1996年〜(初代) | 日本の子供・女子高生 | 新感覚のデジタルペット | 育てる楽しさ・希少性 |
| 2022年〜2026年(第4次) | 世界のZ世代・大人のファン | ファッション・推し活アイテム | Y2Kレトロ・自己表現・世界との接続 |

Wi-Fi搭載「Tamagotchi Uni」——ローカルな愛着を、グローバルなインフラに接続する
たまごっちのリバイバルを単なる「懐かしさ消費」で終わらせなかった最大の理由が、2023年7月に世界同時発売された「Tamagotchi Uni」です。*2
たまごっち史上初のWi-Fi搭載。これにより、世界中のユーザーが育てたキャラクターがメタバース空間「Tamaverse(たまバース)」で出会い、各国の言語であいさつを交わせるようになりました。*2 かつて「隣の席の友達と通信ケーブルで繋ぐ」だったインタラクションが、「世界中のユーザーとリアルタイムでつながる体験」へと進化したのです。
さらにTamagotchi Uniは2023年の日本おもちゃ大賞コミュニケーショントイ部門で大賞を受賞。*3 品薄状態が続き、定価以上のプレミア価格で取引されるケースも生まれるほどの人気を博しています。
コラボ戦略も重要です。ファッションブランド・サンリオキャラクター・アニメIPなど多方面とのコラボレーションにより、「子供向け玩具」という枠を完全に突破し、大人のコレクターズアイテム・推し活グッズとしての市場を開拓しました。*1 「推しのたまごっちを持つ」という行為が、ファンコミュニティへの参加証として機能しています。

「コアな体験」を残したまま、現代の文脈でアップデートする
たまごっちのリバイバル戦略から学べる最も重要な問いは、「過去の資産をどう現代に接続するか」です。
バンダイがやったことは、たまごっちの「コアな体験」——自分だけのキャラクターを育てるという愛着の感覚——を変えなかったことです。変えたのは「文脈(コンテキスト)」と「接続性(コネクタビリティ)」。玩具コーナーからファッション・アクセサリーへの文脈の書き換えと、Wi-Fiによる世界との接続——この2点だけで、1億個という累計出荷数の半分以上を新たに生み出しました。
あなたの会社に「過去に流行ったけれど、いまは眠っている資産」はないでしょうか。復活の鍵は、中身を丸ごと変えることではありません。コアな体験(手触り)を残したまま、現代の顧客が求める「出口(見せ方や接続性)」にアップデートすること——たまごっちはその答えを30年越しに証明しています。
2026年のマーケティングは、新しいモノをゼロから生み出すことだけではありません。過去の熱狂に「現代の文脈」を与えて覚醒させることも、同じくらい強力な戦略です。

【本記事のまとめ】
1. 「おもちゃ」から「ファッション・アクセサリー」へ——文脈の書き換えが価値を転生させる
平成レトロブームを追い風に、玩具コーナーからファッション・アクセサリーへと文脈を書き換えた。「不便な一期一会性」という特性が、スマホゲームの効率性に慣れたZ世代に「本物の愛着」として刺さる逆張りインサイトを証明した。
2. Wi-Fi搭載「Tamagotchi Uni」でローカルな愛着をグローバルに接続する
2023年の世界同時発売により、Tamaverseで世界中のユーザーとつながれるインフラへと進化。ファッションブランド・アニメIPとのコラボで大人の推し活グッズ市場を開拓し、累計1億個・海外比率50%以上という数字を生み出した。
3. 「コアな体験」を変えずに「文脈と接続性」を現代にアップデートする
復活の鍵は中身を丸ごと変えることではなく、コアな体験(自分だけのキャラクターを育てる愛着)を残したまま出口(ファッション文脈・Wi-Fi接続)をアップデートすること。過去の熱狂に現代の文脈を与えて覚醒させることが、2026年の強力な戦略になりうる。
よくある質問(FAQ)
たまごっちのリバイバルは一時的なブームで終わりませんか?
一時的なノスタルジー消費で終わるリバイバルと、構造的に持続するリバイバルには差があります。たまごっちが後者に近い理由は3つです。第一に「育てる愛着」というコア体験の普遍性。第二にTamaverseによるコミュニティへの接続性(これが新機能として継続的な話題を生む)。第三にコラボ戦略による継続的な新規層の取り込み。純粋な懐かし消費なら数年で終わりますが、これらの構造がそろっているため、中長期のブームに近い状態が続くと考えられます。
「過去の資産を現代に転生させる」手法は、どんな業種でも使えますか?
使えます。ただし条件があります。「コアな体験に普遍的な価値があるか」という問いです。たまごっちの場合「自分だけのキャラクターを育てる」という体験は時代を問わず人の心に刺さります。一方で「当時便利だったがいまはもっと便利なものに置き換えられた」だけの商品は転生が難しい。自社の過去資産のどの部分が「普遍的な価値」を持っているかを見極め、その部分を核に現代の文脈と接続性を与えることが転生の条件です。
「Y2Kカルチャー」とは何ですか?なぜZ世代に刺さっているのですか?
Y2Kとは「Year 2000」の略で、1990年代末〜2000年代初頭のポップカルチャーを指します。クリアなプラスチック素材・ビビッドカラー・ミニサイズのガジェット・バタフライヘアクリップなどが特徴です。Z世代(1990年代後半〜2010年代前半生まれ)にとってY2Kは「自分が生まれる前後の、見たことないが懐かしい」という独特の文脈を持ちます。これを「既視感のない新鮮さ」と感じる心理が、たまごっちのようなY2Kアイコンを「古いのに新しい」アイテムとして位置づけています。
*1|バンダイナムコホールディングス公式プレスリリース「たまごっち 第4次ブームの到来」(2025年11月19日)。2025年7月末に累計出荷数1億個突破・海外比率50%以上・2022年の平成レトロブームを追い風にしたOriginal Tamagotchi展開・ファッションブランド・アーティストとのコラボによるZ世代へのアプローチを確認
*2|スタジオパーソル「9,400万個突破!たまごっちが令和に再び大ブームを巻き起こす理由。バンダイ担当者に訊いた。」。Tamagotchi Uniが2023年7月に世界同時発売・Wi-Fi搭載による世界統一規格・Tamaverse(たまバース)で世界中のユーザーが交流できる仕組み・「お世話を怠ると死んでしまう一期一会性」がZ世代に刺さるインサイトを確認
*3|データコム「たまごっちに学ぶ!リバイバルブームとコラボマーケティングが生む新たな価値」。Tamagotchi Uniが2023年日本おもちゃ大賞コミュニケーショントイ部門大賞受賞・スマートウォッチ型デザイン採用を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:なぜニトリは、インフレの時代でも「お、ねだん以上。」を維持できるのか
- 第2回:ノジマが証明した「モノを売る瞬間」ではなく「顧客の人生に関わる時間」を競う戦略
- 第3回:なぜUSJは、「天才マーケター」が去った後も、成長し続けられたのか
- 第4回:なぜBUYMAは、在庫を一切持たないまま、世界中の高級品を売り続けられるのか
- 第5回:LUSHが証明した「広告を捨て、信念を叫ぶ」という、広告費ゼロで熱狂を生む戦略
- 第6回:売上高39%増・過去最高益——コメ兵の「真贋マーケティング」が2026年に爆発した理由
- 第7回:なぜ「調味料の会社」が、世界中のAIチップに欠かせない素材のシェア95%を握れたのか
- 第8回:なぜミツカンは、220年の歴史を武器に「新主食の会社」へ変身できたのか
- 第9回:Qoo10がつくる「メガ割」というお祭り騒ぎ。年4回、SNSを熱狂させる衝動買いのデザイン
- 第10回:関東29店舗なのに全国区——蒙古タンメン中本に学ぶ「聖地」と「無料体験」の二層戦略
- 第11回:1億個・海外比率50%超——たまごっちに学ぶ、「眠れる資産」を世界のトレンドに変える方法(本記事)
▶ Season1(全14回)はこちら|マーケティングの基礎概念からWeb広告の実務知識まで
▶ Season2(全15回)はこちら|PL翻訳術、弱者の戦略、広告評価、インタビュー技術まで▶ Season3(全20回)はこちら|現場で使える顧客心理・ブランド戦略・価格設計の本質
▶ Season4(全20回)はこちら|「摩擦の除去」で読み解く世界的ブランドの設計思想
▶ Season 5【準備中】
▶ Season 6【準備中】
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010
/ 著書(amazon)