記憶力低下に先延ばし癖……。多くの社会人を悩ませる「勉強の壁」はこう突破する

先延ばししないようにスケジュールを確認している様子

社会人にとっての悩みの種は、仕事だけではありません。それこそ、仕事の悩みを解決しようと意欲的に勉強に励んでも、必ず壁が立ちはだかります。つまり、そこにある悩みのロジックを理解し解決しない限り、悩みは継続することになるわけです。「頭がよくないから勉強に向かないのではないか」「以前に比べて物覚えが悪くなった」「つい先延ばししてしまう」と悩んでいる人たちに向け、日本女子大学人間社会学部心理学科教授の竹内龍人先生にアドバイスをもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
竹内龍人(たけうち・たつと)
日本女子大学人間社会学部心理学科教授。博士(心理学)。専門は認知心理学。著書に『脳と目がカギ! 色のふしぎ』(誠文堂新光社)、『答えはひとつじゃない! 想像力スイッチ』(汐文社)、『脳が驚いて活性化! 毎日だまし絵で脳トレ』(扶桑社)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

遺伝の影響は大きいが、努力次第で頭はよくなる

勉強に勤しむ多くの人が気になることに、「頭のよさは生まれつき決まっているのか」というものがあります。それに関しては、様々な研究が行なわれていますが、そのひとつに「双子研究」があります。

双子でないふたりの別々の人間は、それぞれの遺伝子も育ってきた環境も異なりますから、単純に比較したところで頭のよさを左右するものが遺伝なのか環境なのかはわかりません。でも、一卵性の双子の遺伝子は完全に一致しますから、頭のよさに環境がどのような影響を与えるのかを調べることができます。

そうした研究によれば、頭のよさに環境が与える影響はそれほど大きくはなく、音楽やスポーツの才能、体格などと同じように、遺伝が最も大きな影響を及ぼすそうです。しかし、もちろん環境や努力の影響がまったくないわけではありません。走るのがすごく遅い両親をもつ子どもがオリンピック選手になれる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。でも、運動会のかけっこの順位をひとつやふたつ上げることなら可能かもしれません。

ですから、まず知っておいてほしいのは、「頭のよさはもともと決まっているから、努力しても無駄だ」と諦める必要はないということです。努力さえすれば、なにもしなかった場合と比べれば確実に頭はよくなるのです。

双子

大人になって「物覚えが悪くなった」は、ただの錯覚?

また、社会人の場合、学生の頃と比べて「頭の能力が低下した」「物覚えが悪くなった」と悩んでいる人も多いでしょう。しかし、それはただの思い込みかもしれません。

なぜなら、頭の能力のすべてが、同じ年齢層でピークを迎えることはないからです。情報を非常に高速で処理する能力は20歳くらいをピークにして下がり続けるのですが、単語の記憶や理解といった能力は60歳くらいまで上がり続けるとわかっています。もちろん、高齢者ともなれば多くの能力がピークアウトしていますが、働き盛りのビジネスパーソンであればそこまで悲観する必要はないでしょう。

また、物覚えについては、ほぼ錯覚とすら言えます。そもそも、勉強(記憶)に全力を注ぐのが可能だった学生までとは置かれている環境がまったく異なりますよね? やる気になれば勉強に専念できる学生と比べると、社会人は多くの勉強時間を確保できません

加えて、社会人は学生に比べて覚えなければならないことが激増します。人の名前と顔などはその典型ではありませんか? 学生時代までに交流があるのは、せいぜいクラスメートや部活動、サークルなどのメンバーくらいのものです。また、新たな出会いがあるのも進学のタイミングくらいでしょう。でも、社会人の場合はその比ではありません。

満足に勉強時間がとれないうえに、仕事のことから家庭の雑事まで「そうだ、あれもこれもやらなければ」と、覚えておくべきことが膨大にあるのですから、「物覚えが悪くなった」と感じても、それは当然なのです。

でも、すでにお伝えしたように、単語を覚えるといった能力は60歳くらいまでは上がり続けます。ですから、「努力しても無駄だ」と諦める必要はないのです。

英単語を暗記している様子

自分で期限を決めて、先延ばし癖をなくす

多忙なうえに学生時代と比べて勉強に使える時間がないわけですから、いわゆる先延ばし癖に悩んでいる人は少なくないでしょう。あれやこれやとやるべきことに追われる社会人は、つい「今日はいいや」「明日からきちんと勉強しよう」と考えてしまいがちです。

当然、先延ばしはしないほうがよいでしょう。なぜなら、勉強に限らずどんなことに取り組むにも、たくさんの時間をかけたほうがいい成果につながるからです。もちろん、ただ期限を伸ばすだけでなにもしないのであれば、成果を挙げるのは難しくなります。先延ばし癖をなくしてきちんと勉強に取り組めるようになるために有効な方法のひとつは、「自分で期限を決める」ことです。

3つの課題の提出期限を自分で決めた学生グループと、提出期限を学期の最終日と決められた学生グループでは、前者のほうが優秀な成績だったという研究結果が存在します。さらに、自分で期限を決めたグループは、課題提出のための勉強を楽しく感じていたのです。勉強がポジティブに感じられた理由は、決められた期限に支配されることなく、自分で時間をコントロールできたという達成感が得られたからです。

楽しく感じるのですから高いモチベーションで勉強に臨めますし、先延ばしする可能性も低下すると考えられます。そもそも、勉強は長い時間をかけてじっくり取り組むものです。途中で投げ出さずに勉強を長続きさせる意味でも、自分で積極的に時間をコントロールして先延ばしを避けてみましょう。

「勉強の壁」の突破方法についてお話くださった竹内龍人先生

【竹内龍人先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
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