
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
Season6では「なぜこのブランドは選ばれ続けるのか」を事例で深掘りしました。
Season7では、より深く「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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2026年4月14日、TENTIALが2026年8月期の通期業績予想を上方修正しました。売上高330.81億円・営業利益38.04億円——当初計画から18%超の上振れです。*1
主役は「BAKUNE(バクネ)」。上下で2万円を超えるリカバリーウェアです。「たかがパジャマ」に、なぜ現代人はこれほどのプレミアムを払うのでしょうか。
前回の3COINS(300円という低価格でトレンドを売る)とは真逆のアプローチ——BAKUNEは「高価格」と「意味(ナラティブ)」によって価格の壁を消す戦略を取っています。
- 「健康グッズの胡散臭さ」を「医療機器の科学」へ——カテゴリーの再定義
- 「自分用」から「ギフト」へ——他人の財布を開かせる「意味のマーケティング」
- 「思いやりのストーリー」を社会に実装することが、2026年のマーケティングだ
- よくある質問(FAQ)
「健康グッズの胡散臭さ」を「医療機器の科学」へ——カテゴリーの再定義
リカバリーウェアというカテゴリーは、参入が難しい市場です。「着るだけで疲れが取れる」という訴求は、消費者から「本当に?」という懐疑的な反応を引き起こしやすい。健康グッズ業界の「胡散臭さ」という既成概念が、購買の最大の障壁になります。
TENTIALはこの障壁を、ふたつの方法で突破しました。
ひとつめは「一般医療機器(クラスI)」という客観的な事実です。BAKUNEは「家庭用遠赤外線血行促進用衣」として一般医療機器届出を行い、第二種医療機器製造販売業許可を取得しています。*1 「なんとなく良さそう」ではなく、医療機器として管理体制を整えているという事実が、疑念を払拭するファクトになります。
ふたつめは「誰が使っているか」というイノベーター戦略です。*2 最初に一流アスリートやトップビジネスパーソンという高感度層を狙い撃ちし、「パフォーマンスを最大化するためのコンディショニングツール」として認知させました。これにより「パジャマ」というカテゴリーから「回復デバイス」へと製品の定義が書き換わります。
| 項目 | 従来のパジャマ | BAKUNE |
|---|---|---|
| 製品の定義 | 寝るときに肌触りが良い衣服 | 明日100%の力を出すための「回復デバイス」 |
| 価格帯 | 数千円(消耗品) | 2万円超(自分・大切な人への「投資」) |
| 購買動機 | 古くなったから買い替える | 「毎日頑張るあの人を労りたい(ギフト)」 |
| 2026年の立ち位置 | 衣料品の一ジャンル | ウェルネス・コンディショニングの象徴 |

「自分用」から「ギフト」へ——他人の財布を開かせる「意味のマーケティング」
BAKUNEのもひとつの核心が「ギフト戦略」です。TENTIALはクリスマス・母の日・父の日など、ギフトシーズンに売上が「爆伸び」することを公式に認めています。*1
なぜ2万円超のパジャマがギフトになるのか——ここにBAKUNEのナラティブ設計の巧みさがあります。
「お疲れさま」を形にしたいとき、何を贈ればいいか迷う人は多いでしょう。消耗品は味気ない、高級食品は好みがある、アクセサリーはサイズが難しい——その選択肢の空白に「毎日頑張っているパートナーに休息を贈る」「親に健康を贈る」という大義名分を持ったBAKUNEが入り込みます。*2
この設計が生み出す「感情の循環」は精巧です。
- 贈る側:「大切な人の回復を助ける」という行為に、自分の思いやりが可視化される満足感が生まれる
- もらった側:「自分の疲れを気遣ってくれた」という感動が生まれ、SNSで自発的に喜びをシェアする(UGC)
- リピート:「去年贈ったら喜ばれた」という記憶が翌年のギフト購買を促す。自分用の追加購入にもつながる
「自分で買う理由」だけで戦う製品は、価格の壁で止まりがちです。しかし「誰かが、誰かを想って贈る」という関係性のインセンティブを設計できれば、贈り手は2万円という価格を自分への出費ではなく「相手への投資」として捉えます。*2 価格の感度が根本から変わるのです。

「思いやりのストーリー」を社会に実装することが、2026年のマーケティングだ
TENTIALが照準を定めるリカバリー市場は、2025年時点で7.6兆円・2030年には14.3兆円と推計されています(日本リカバリー協会)。*1 睡眠不足・デジタル疲れ・仕事とプライベートの境界の消失——2026年の社会は「回復への需要」を爆発的に高めています。
BAKUNEが証明したのは、この需要に応える際に「スペック(遠赤外線・着圧)」を語るだけでは不十分だということです。「あなたの回復を助ける」という自分向けの文脈に加え、「大切な人の回復を助けたい」という他者への思いやりの文脈を設計した瞬間に、製品の社会的な意味が格段に広がりました。
あなたの製品は「自分で買う理由」だけで戦っていないでしょうか。誰かが誰かを想って贈るという関係性のインセンティブを設計できれば、価格競争から一瞬で抜け出すことができます。2026年のマーケティングは、モノのスペックを語ることではありません。そのモノが媒介する「思いやりのストーリー」を社会に実装することです。

【本記事のまとめ】
1. 「胡散臭さ」を「医療機器の科学」で脱臭——カテゴリーの再定義が価格の壁を消す
一般医療機器届出というファクトと、アスリート・トップビジネスパーソンへの先行展開により「パジャマ」から「回復デバイス」へとカテゴリーを書き換えた。製品の定義が変わると価格の感度も変わる——BAKUNEの2万円超という価格は「消耗品」ではなく「投資」として受け入れられている。
2. 「自分用」から「ギフト」へ——贈り手の財布を開かせる「関係性のインセンティブ」設計
クリスマス・母の日・父の日に爆伸びするギフト需要が成長の核心。「疲れたパートナーに休息を贈る」「親に健康を贈る」という大義名分が、贈り手にとって2万円を「相手への投資」に変える。もらった側のSNSシェアが口コミを生み、翌年のリピートギフト化につながる感情の循環が設計されている。
3. 「思いやりのストーリー」を社会に実装する——2026年型マーケティングの本質
7.6兆円のリカバリー市場という追い風の中、スペックだけを語るのではなく「大切な人の回復を助けたい」という他者への思いやりの文脈を設計した。モノが媒介するストーリーを社会に実装することが、価格競争から抜け出す最短の道だ。
よくある質問(FAQ)
BAKUNEは本当に効果があるのですか?科学的根拠はありますか?
BAKUNEは「家庭用遠赤外線血行促進用衣」として一般医療機器(クラスI)の届出を行っており、第二種医療機器製造販売業許可を取得しています。遠赤外線による血行促進効果は医療機器として認められている作用です。ただし「クラスI」は医療機器の中で最もリスクが低い区分であり、体内に留置したり侵襲的に使用したりするものではありません。「医療機器として管理体制が整っている」という点は事実ですが、具体的な効果の実感については個人差があります。重要なのは、TENTIALが「胡散臭さ」という業界イメージを打破するために、医療機器という客観的な枠組みを戦略的に活用したということです。
「ギフト戦略」は、どんな商品でも使えますか?
「贈られた人が感動し、SNSでシェアしたくなるか」という条件を満たす商品であれば使えます。BAKUNEの場合、「大切な人の健康・回復を気遣う」という誰もが共感できる文脈があり、かつ2万円という価格が「気合いを入れた贈り物」として成立する水準でした。ギフト戦略が機能しにくいのは、受け取る側が「なんでこれを贈られたのか?」と疑問を感じる場合です。重要なのは「贈る側が何を伝えたいか」と「もらった側が何を感じるか」が一致する文脈を設計することです。自社の商品に「誰かが誰かへの気遣いを形にする瞬間」を設計できるか問い直してみてください。
TENTIALは競合が増えても大丈夫でしょうか?
安価な競合品の出現はすでに起きており、TENTIALも公式にその認識を示しています。対抗策として、医療機器としての管理体制・ブランドの信頼性・ギフト需要という感情的な結びつき・EC88.7%という直販モデルによる高利益率が参入障壁になっています。また自社チャネル比率が高いため顧客データを直接蓄積でき、リピートや追加購入の設計がしやすい構造です。リカバリー市場全体が2030年に14.3兆円へ拡大する中で、カテゴリーのリーダーとしてのブランド認知がどこまで維持できるかが、長期的な競争優位の鍵になります。
*1|ログミーファイナンス「TENTIAL(325A)、リカバリーウェア『BAKUNE』で売上330億円へ上方修正。その拡大戦略を分析」(2026年4月)。2026年4月14日の上方修正発表・売上高330.81億円・営業利益38.04億円・BAKUNEが一般医療機器(クラスI)として届出・第二種医療機器製造販売業許可取得・自社チャネル売上比率88.7%・リカバリー市場規模2025年7.6兆円→2030年14.3兆円(日本リカバリー協会推計)を確認
*2|seventietwo「全17店舗が黒字 TENTIALの第1四半期は売上・利益ともに過去最高」(2026年1月13日)。2026年8月期第1四半期(9〜11月)売上高70.75億円・営業利益6.57億円(過去最高)・直営店舗17店舗全店黒字・クリスマス・母の日・父の日ギフトシーズンに爆伸びするギフト需要・ニュウマン高輪・伊勢丹新宿店等への出店・アスリート・トップビジネスパーソンへの先行展開によるブランド構築を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:なぜニトリは、インフレの時代でも「お、ねだん以上。」を維持できるのか
- 第2回:ノジマが証明した「モノを売る瞬間」ではなく「顧客の人生に関わる時間」を競う戦略
- 第3回:なぜUSJは、「天才マーケター」が去った後も、成長し続けられたのか
- 第4回:なぜBUYMAは、在庫を一切持たないまま、世界中の高級品を売り続けられるのか
- 第5回:LUSHが証明した「広告を捨て、信念を叫ぶ」という、広告費ゼロで熱狂を生む戦略
- 第6回:売上高39%増・過去最高益——コメ兵の「真贋マーケティング」が2026年に爆発した理由
- 第7回:なぜ「調味料の会社」が、世界中のAIチップに欠かせない素材のシェア95%を握れたのか
- 第8回:なぜミツカンは、220年の歴史を武器に「新主食の会社」へ変身できたのか
- 第9回:Qoo10がつくる「メガ割」というお祭り騒ぎ。年4回、SNSを熱狂させる衝動買いのデザイン
- 第10回:関東29店舗なのに全国区——蒙古タンメン中本に学ぶ「聖地」と「無料体験」の二層戦略
- 第11回:1億個・海外比率50%超——たまごっちに学ぶ、「眠れる資産」を世界のトレンドに変える方法
- 第12回:「中身を選べない」のになぜ買ってしまうのか——一番くじの購買衝動をデザインする精巧な仕掛け
- 第13回:なぜしいたけ占いは、「当てない占い」のまま、数百万人の月曜日に欠かせない存在になれたのか
- 第14回:ゴンチャが証明した「ブームに乗りながら、ブームに飲み込まれない」カテゴリー戦略
- 第15回:ステーション数・車両台数ともに業界ひとり勝ち——タイムズカーに学ぶ、既存資産を最強の競争優位に変える方法
- 第16回:なぜ3COINSは、「100均でも無印でもない」という曖昧なポジションで、営業利益49%増を叩き出せたのか
- 第17回:「2万円のパジャマが売れる」という不思議——TENTIALに学ぶ、価格の壁を消すブランド設計(本記事)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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