正解を出すだけでは足りない時代に。人間の価値を高める「つなぐ力」の磨き方

AIと人が手をつないでいる

AIに聞けば、企画も要約もキャッチコピーも、それらしい答えが一瞬で返ってくる。便利な時代です。ただ、その整った出力をながめながら、ふと手が止まる。「これなら、自分がやる意味はどこにあるのだろう」。

正解を速く出すことなら、もうAIにはかなわない。そう感じるほど、自分の価値が見えなくなっていきます。

でも、AIが答えを出す時代だからこそ、人間にしかできないことがあります。離れた知識や体験を結びつけ、自分だけの視点を手に入れること。本記事では、この力を「つなぐ力」と呼びます。育てるための小さな習慣を、見ていきましょう。

AI時代に必要なのは、「正解を出す力」より「意味をつなぐ力」

会議で企画を出す。記事の切り口を考える。SNSの投稿文をつくる。そんな場面でAIを使うと、驚くほど短時間で「それっぽい答え」が返ってきます。

非常に便利です。たたき台としては十分すぎるほど役に立つでしょう。しかし同時に、少し物足りなさを感じることもあります。

  • 「うまくまとまっているけれど、ハッとしない」
  • 「間違ってはいないけれど、誰の言葉なのかわからない」
  • 「きれいだけれど、自分の実感とつながっていない」

そんな感覚です。

ここで大事なのは、AIを否定することではありません。むしろAIが整った答えを出してくれる時代だからこそ、人間には別の価値が求められます。そのひとつに、異なる知識、実際の体験などをつなぎ、「新しい自分の視点」を手に入れるということです。AIには表現そのものはできても、あなたのものの見方そのものを変化させることはできないのですから。

たとえば「仕事の段取り」を「料理の下ごしらえ」とつなげると、準備の意味が変わります。ただ早く始めることではなく、あとで迷わない状態を先につくることだと見えてきます。

「読書」を「筋トレ」とつなげると、1冊を完璧に理解するより、何度も負荷をかけて思考の筋肉を育てる行為だと捉え直せます。

Get Ready

このように、離れたもの同士を結びつけると、見慣れた仕事や学びに新しい意味が生まれます。単なる説明ではなく「そう考えれば動けそう」と感じられる視点が生まれるのです。

「つなぐ力」は、ただの比喩ではなく発見のしかたである

この「つなぐ力」を考えるうえでヒントになるのが、作家アーサー・ケストラーが『The Act of Creation』で示した「バイソシエーション(bisociation)」という考え方です。

ざっくり言えば、バイソシエーションとは、それまで別々だった思考の枠組みが出会い、新しい意味を生むこと。ケストラーは、ユーモア、科学的発見、芸術などに共通する創造の型として、この考え方を示しました。*1

難しく聞こえるかもしれませんが、日常にも近い例はあります。

たとえば、店舗づくりを考えるときに「売り場」とだけ見るのではなく、「舞台」とつなげてみる。すると、商品を並べる場所ではなく、お客さんが気持ちよく体験に入っていく空間として見えてきます。

また、文章を書くときに「構成」を「駅の案内表示」とつなげてみる。すると、見出しは単なる区切りではなく、読者が迷わず次へ進むための標識だと考えられます。

次へ進むための標識

このとき起きているのは、気の利いた言い回しを探すことではありません。片方の世界の見方を、もう片方の世界へ持ち込むことで、問題の見え方そのものを変えているのです。

AIは「わかりやすい比喩」を出力します。「仕事は旅だ」「学びは筋トレだ」といった言葉です。

でも、人間が出す「つながり」には、自分が実際に見たもの、悩んだこと、違和感をもったこと、言うなれば「身体性」が伴います。それが言葉を自分のものとし、あなたの視点を育てていきます。

AIの言葉が整っているのに少し遠く感じるとき、足りないのは情報量ではなく、その人の経験からしか出てこない接続の切実さなのかもしれません。

新しい発想は、遠い知識同士が出会う場所で生まれやすい

「つなぐ力」は、才能だけで決まるものではありません。むしろ、日頃どれだけ異なる領域に触れているかに左右されます。

創造性研究では、既存のアイデアを組み合わせて新しいものを生む「組み合わせ型の創造性」が語られます。たとえば、認知科学者マーガレット・ボーデンは、創造性のひとつとして、なじみのある考え同士を新しい形で組み合わせる働きを挙げています。*2

つまり、まったくの無からアイデアを出す必要はないのです。

仕事で得た知識。子育てで感じたこと。部活動で見たチームづくり。舞台や音楽で体験した空気。読書で出会った言葉。旅行先で見た導線。こうした一見バラバラの経験が、あるとき別の課題とつながります。

たとえば、チーム運営に悩んでいる人が、吹奏楽の合奏を思い出す。全員が同じ音を出すのではなく、それぞれ違う音を出しながら、全体としてひとつの曲になる。そう考えると、職場の目的共有も「全員を同じ価値観にそろえること」ではなく、「違う役割を同じ曲に向けること」だと見えてきます。

吹奏楽の合奏

このような接続は、専門書だけを読んでいても生まれにくいことがあります。むしろ、仕事とは関係なさそうな知識や体験が、あとで効いてくるのです。

概念ブレンディングという認知科学の考え方でも、人は異なる知識空間を組み合わせることで、新しい意味や理解を生み出すと説明されています。*3

ですから、AI時代に人間の価値を磨きたいなら「役に立つ知識」だけを効率よく集めるより、いったん遠回りに見える知識も持っておくことが大切です。遠い知識ほど、つながったときに新しい視点になりやすいからです。

「つなぐ力」を育てるには、知識をメモではなく"接続候補”として持っておく

では、どうすれば「つなぐ力」は育つのでしょうか。

おすすめは、知識を覚えるためではなく、あとで何かとつなぐためにメモすることです。

たとえば本を読んだあと、内容をきれいにまとめようとすると、どうしても情報整理で終わってしまいます。そこで、メモの最後に一行だけ、こう書いてみます。

「これは、いまの仕事でいうと何に似ているだろう?」

この問いを入れるだけで、知識は「保管するもの」から「接続するもの」に変わります

具体的には、次の3行で十分です。

  • 1行目 気になった言葉
  • 2行目 それは何を意味しているか
  • 3行目 自分の仕事や生活の何とつながるか

たとえば、ある本で「余白があるから想像できる」という言葉に出会ったとします。

  • 1行目 余白があるから想像できる
  • 2行目 全部説明しすぎないほうが、相手は自分で考えられる
  • 3行目 記事のリードも、結論を詰め込みすぎないほうが読者が入ってこられるかも

この3行だけで、読書の知識が文章術とつながります。

3行読書

大切なのは、正しい答えを出そうとしないこと。最初はこじつけでかまいません。「これは会議に似ているかも」「これは子どもの部活に似ているかも」「これは店づくりに使えるかも」と、ゆるく線を引いてみる。

線を引く回数が増えるほど、頭の中に「接続の道」が増えていきます。

今日できる小さな行動は、「関係なさそうなもの」をひとつだけ結びつけること

「つなぐ力」を磨くために、いきなり幅広い教養を身につけようとしなくても大丈夫です。それでは負荷が大きすぎます。

まずは今日、目の前の仕事や悩みに対して、関係なさそうなものをひとつだけ結びつけてみてください。

たとえば、いま「企画がまとまらない」と感じているなら、こう問いかけます。

  • 「これは、料理でいうと何に似ているだろう?」
  • 「これは、駅の案内でいうと何に似ているだろう?」
  • 「これは、部活の合奏でいうと何に似ているだろう?」

すぐに名案が出なくてもかまいません。大切なのは、ひとつの問題をひとつの枠組みだけで見ないことです。

AIは、整った答えを出すのが得意です。だからこそ人間は、自分の経験や違和感や遠回りして得た知識を使って、まだ名前のついていないつながりを見つける。

その小さな接続が、あなたらしい視点になるでしょう。

ぜひ、いま抱えている仕事やテーマに「まったく別の世界の言葉」をひとつ重ねてみてください。そこから、AIには出せないあなた自身の発見が始まるかもしれません。

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AI時代に人間の価値を高める鍵は、正解を速く出す力だけではありません。異なる知識や経験を結び、新しい意味を生む「つなぐ力」が、自分ならではの視点を育てます

つなぐ力

よくある質問(FAQ)

Q. 「つなぐ力」とは何ですか?
離れた知識や経験を結びつけ、新しい意味や見方を生み出す力のことです。本記事では、単なる気の利いた比喩ではなく、片方の世界の見方をもう片方へ持ち込み「そう見ればよかったのか」という発見を生む力として説明しています。
Q. なぜAI時代に「つなぐ力」が重要なのですか?
AIは整った答えやそれらしい比喩を短時間で出せます。だからこそ人間には、自分が実際に見たこと・悩んだこと・違和感をもったことに根ざした接続が求められます。その人の経験からしか出てこないつながりは、読者の「それ、わかる」という共感を引き出しやすいのです。
Q. 「つなぐ力」を育てるには何から始めればよいですか?
知識を「覚えるため」ではなく「あとで何かとつなぐため」にメモすることがおすすめです。具体的には、気になった言葉/その意味/自分の仕事や生活の何とつながるか、という3行を書くだけで十分です。最初はこじつけでかまいません。
Q. 幅広い教養がないと「つなぐ力」は身につきませんか?
いきなり幅広い教養を身につける必要はありません。まずは今日、目の前の仕事や悩みに対して、関係なさそうなものをひとつだけ結びつけてみることから始められます。一見遠回りに見える知識ほど、つながったときに新しい視点になりやすいのが特徴です。

【ライタープロフィール】
橋本麻理香

大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。