
「スキマ時間で書籍やニュースをチェックしているけれど、内容を忘れてしまう」
「積極的に読書をしているのに、なかなか仕事に活かせない……」
こうした状況の背景には、「思考体力」が足りていない事実が隠れているかもしれません。一時的に考える力ではなく「考え続ける力」のことです。*1
私たちは現在、もはや「超小型の高性能コンピュータ」と化したスマートフォンを手に入れ、情報入手も思考も効率化しています。つまり、考えるプロセスを大幅に省略するクセがつき、その結果、考える体力が低下しているのです。
東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕氏は、「頭がよい人は、ただ『考える』だけでなく、『考え続けている』」と言います。「考え続けている限り、思考は広く、深くなり、最良の答えに近づく」ことができるのです。*1
そこで今回は、スマホ時代だからこそ陥りやすい「思考体力」不足に着目し、読書を通じて「考え続ける力」を鍛える実践的な方法を紹介します。考え続ける習慣を身につけ、インプットした情報を良質なアウトプットへとつなげましょう。
読書で思考体力をつける4つのステップ
思考体力を鍛えるうえで、読書は最適なトレーニング手段です。
スマホのSNSやニュースは、短い情報が次々と流れてくるため、ひとつのことを考え続ける必要がありません。一方、読書は著者の論理を追いながら、「これはどういう意味か」「自分の経験と照らすとどうか」「次にどうつながるのか」と、ページをめくるあいだ中ずっと考え続けることを求められます。その「考え続ける時間」の積み重ねが、思考のスタミナを鍛えるのです。
ここからは、読書で「思考体力」を鍛えながら、身になる知識にしていくステップをご紹介します。
(※「思考体力」という言葉は前出の西成氏が提唱したものです。以下のステップは、その概念を参考にしつつ、さまざまな識者の言葉をもとに本稿が独自にまとめたものです)
ステップ① 読書を投資と考える
米国公認会計士の午堂登紀雄氏は「多忙なビジネスパーソンが読書という『投資』をするなら、やはりリターン、つまり『自分の仕事や人生にどう活かすか』という視点を持ちたい」と述べます。*2
読書を投資だと考えれば、それに見合うリターンを求めて当然です。この発想は、読書で知識を得ようとする気持ちを高め、能動的な読書を可能にするはずです。西成氏が「思考体力」の根幹に置く「自己駆動力」——自分から考え、動き出す力は、この能動的な姿勢から生まれます。「元を取ろう」という意識が、考え続けるエンジンになるのです。
18世紀のアメリカの政治家・実業家のベンジャミン・フランクリンは、「もし財布の中身を頭につぎこんだら、誰も盗むことはできない。知識への投資がいつの世でも最高の利子を生む」と言ったそうです。*3
ステップ② 目的フィルターをかける
読んでも内容が頭に残らないという悩みには、最初に目的=「この本から何を持ち帰りたいか」を簡潔に書き出し、目的フィルターをかけて読むことが役に立ちます。
前出の午堂氏も、読書の際に「本来の目的」を取り違えると、得た知識が活かされないと指摘します。*2
たとえば、「心理学に基づいた話術を学んで営業に活かしたい」という目的を持って読めば、著者の言葉を「自分の仕事にどう使えるか」「なぜそれが有効なのか」「自分がうまくいかなかったケースに当てはめるとどうか」と、目的と照らしながら多層的に考え続けることになります。
この「目的と照らしながら考えをめぐらせる」プロセスこそが、思考体力を直接強化するトレーニングになるのです。

ステップ③ 読みながら要点と疑問をメモする
ステップ②で目的を定めたうえで、読みながらメモを欠かさないことで、思考体力を直接鍛えられるのがこのステップです。目的があるからこそ「これは目的に関係するか」「なぜそう言えるのか」と判断しながら読むことになり、メモを取る行為が思考の深化そのものになります。気づきや疑問を書き留める行為が、思考を止めずに走り続けるトレーニングになるのです。
世界記憶力グランドマスターの池田義博氏は「ペンや付箋、マーカーを使いながら読むと効果的」だと言います。その理由は以下のとおりです。*4
本に直接書き込み、線を引き、余白に気づきを残す。こうした行為は脳を刺激し、情報を「これは覚えるべきものだ」と認識させます。
「企画のアイデアとして使えそう」「似たケースの対応に応用できそう」など、ちょっとしたことでも構いません。書き込む内容を探しながら読むこと自体が、脳を能動的に動かし続ける状態をつくります。
ステップ④ 3段階のアウトプットで考え続ける
思考体力の核心は、「本を読み終えたあとも考え続けること」にあります。読んで終わりにしてしまうと、思考はそこで止まります。西成氏が「思考体力」のひとつとして挙げる「多段思考力」——「もう1段先」「あともう1段先」と考え続ける力を鍛えるには、読後にもう “ひと踏ん張り” 考える習慣が必要です。*1
では、どうすれば「読後にもう “ひと踏ん張り” 考える」習慣を身につけられるのか。その具体的な手法が、以下の3段階のアウトプットです。
- 読んだ本の核となるメッセージを簡潔に書く
- 自分の体験とどう結びつくかを簡潔に書く
- これをどう活かすかを簡潔に書く

筆者も実際にこの方法を試してみました。上の画像は、「心理学の影響力に関する本の読後に書いた内容」を再現したものです。
①本の核となるメッセージ、②自分の体験との結びつき、③次回の商談での活かし方——この順番で書き出すと、読んでいる最中よりも読み終えてから考える時間のほうが長くなりました。「これは自分のあの失敗と同じ構造だ」「次はこう使えるかもしれない」と、思考が次々と展開していったのです。
普段の読書と比べて内容の理解が深まったのはもちろんですが、何より「そのことについて考え続けている時間」が明らかに増えました。これが思考体力のトレーニングになっているという実感は確かにあります。
読書中から読後にかけて「何が重要なのか?」「学びをどう活かすか?」と考え続けることが、思考体力のトレーニングになります。考えながら読む習慣がつくとともに、本の内容がより確実に実践へとつながるでしょう。
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読書を投資と考えてリターンを求め、目的を決めてメモをとり、考えながら読んで、読後に3段階のアウトプットを行なう。このステップで、本から得た情報を仕事や実生活で活かせるうえに、思考体力も鍛えられるはずです。
まずは、どれかひとつだけでも始めてみてください。たったひとつでも継続すれば、いまよりも持久力があり、精度の高い思考習慣が定着するでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 「思考体力」とは何ですか?
A. 東京大学先端科学技術研究センター教授の西成活裕氏が提唱する概念で、一時的に考える力ではなく「考え続ける力」を指します。思考を広く、深く持続させることで、最良の答えに近づける力のことです。
Q. スキマ時間の読書では内容が頭に残りません。どうすればいいですか?
A. 読む前に「この本から何を持ち帰りたいか」という目的を決め、目的フィルターをかけて読むことが効果的です。さらに、読みながら要点や疑問をメモすることで、流し読みを防ぎ、記憶の定着にもつながります。
Q. 読書後のアウトプットは具体的に何をすればいいですか?
A. 3段階のアウトプットがおすすめです。①本の核となるメッセージを簡潔に書く、②自分の体験とどう結びつくかを書く、③これをどう活かすかを書く。この流れで、読んだ内容を実践へとつなげられます。
Q. 読書で「思考体力」を鍛えるには、4つのステップすべてを実践する必要がありますか?
A. すべてを一度に始める必要はありません。まずはどれかひとつから取り入れてみてください。たったひとつでも継続すれば、思考の持久力と精度が少しずつ高まっていくはずです。
Q. 「多段思考力」とは何ですか?
A. 西成氏が「思考体力」の要素のひとつとして挙げている力で、「もう1段先」「あともう1段先」と考え続ける力のことです。読書後に3段階のアウトプットを行なうことで、この多段思考力を鍛えることができます。
*1: 新R25|頭がよい人の共通点とは? 東大生が"よく口にする言葉"から気づいた「考える体力」の鍛え方
*2: All About|稼ぐビジネスマンの読書法は目的と手段を間違えない
*3: TOKYO FM 80.0MHz|AIG損保 presents 「賢者の名言」
*4: ダイヤモンド・オンライン|「本を読んでも頭に入らない人」は必読! 記憶力日本一の達人が「効率的読書法」を伝授
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。