
マサチューセッツ工科大学などの研究チームは2010年に、優れたチームのパフォーマンスが個人のIQではなく、メンバーの社会的感受性(social sensitivity)の平均値と相関していることを示しました。*1
社会的感受性は人間力を構成する重要な要素のひとつ。当然そのチームのリーダーにも必要となるはずです。先の見えない時代においては、なおさらのことでしょう。
IQだけでは足りないのです。
そこで本記事では、いまの時代のリーダーに必要な「人間力を支える知性」――EQ・SQ・AQ――を3つご紹介いたします。
- 知性1. EQ(心の知能指数)とは何か、なぜリーダーに必要か
- 知性2. SQ(社会的知性)とは何か、リーダーに求められる理由
- 知性3. AQ(逆境指数)とは何か、変化の時代に必要な理由
- よくある質問(FAQ)
知性1. EQ(心の知能指数)とは何か、なぜリーダーに必要か
現代のリーダーには、自分と他者の感情を認識・理解・管理し、対人関係を円滑で豊かなものにする能力「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」が求められています。
その理由について、コンサルタントとして企業の組織・人材開発を支援する黒川公晴氏は次のように説明しています。
――チームや会社などの組織は、時に非合理的な行動をしてしまう人間の集合体。そのなかで、もはや超優秀な個人がビジネスの課題をすべて解決することは不可能。だからこそ、これからのリーダーには「ハブとなってチーム内で豊かな対人関係を育む力、EQが求められる」――。*2
たとえば、こんな経験はないでしょうか?
仕事で上司によく褒められる。先輩や同僚たちもみな優秀だと褒めてくれる。
だが、いざチームを任されたらうまくいかなかった……。
認知能力に関わる「IQ」や、思考の柔軟性や応用力に関わる「地頭のよさ」がある人はとても優秀です。
しかし、人の複雑さと向き合うためには「EQ」が必要なのです。
EQを鍛えるヒント
EQは後天的に鍛えることが可能です。そして、感情を書き出す習慣が役立つそうです。*2
まず、EQは以下5つの能力で構成されています(下の画像参照)。これらのなかで最重要なのは「自己認識」。なぜなら、ほか4つの力が成り立つのは「自己認識」があってこそだから。*2

そこで黒川氏は、自己認識の力を磨くことがEQを高める第一歩と述べ、次のアドバイスをしています。*2
一見ネガティブな感情でも、書き出すことで「根底にある価値観や信念に気づく」と黒川氏は言います。そして、それらを「認識できたなら、自己認識はかなり深まっていると考えていい」と説明しています。*2
知性2. SQ(社会的知性)とは何か、リーダーに求められる理由
チームがうまく機能するためには、「人間関係において賢く振る舞うこと」も必要です。「SQ(Social Intelligence Quotient)」は、他者を理解し、人間関係を賢く築き上げるための能力です。
この概念の最初の提唱者であるコロンビア大学の心理学者エドワード・ソーンダイク氏は、SQがリーダーシップにおいて成功するために極めて重要だと述べています。*3
また、この概念の再定義を行ない世界的に広めたダニエル・ゴールマン氏によれば、社会的知性は以下ふたつのカテゴリで構成されます。*3
- 社会的気づき(social awareness):相手の感情や場の空気を察知する
- 社会的才覚(social facility):それをもとに適切な行動をとる
たとえば、以下いずれかの対応を「した・された・目にした」経験はありますか?
パフォーマンスが落ちている社員に対し――
- 部下の表情や言動から不安を察知する。そして状況を聞いたうえで「必要なサポート」を考え、提案する。
- 部下の事情を読みとれず、「なぜできないの?」と結果だけを責めてしまう。
前者はSQが高い上司。後者が低い上司です。
位置関係を見ると、よりわかりやすいかもしれません。
- IQ:正解を出す賢さ
- EQ:内面的な賢さ
- SQ:対人関係の賢さ📌
SQとは、「関係性」という広い視野に立ち、どう健全に機能させるかを見据えて意思決定するスキルといえるでしょう。
SQを鍛えるヒント
SQを鍛えようとするならば、チームに注意や意識を向け、相手の言葉の理解に積極的になることが大切です。
米国・クレアモント・マッケナ大学の組織心理学教授ロナルド・E・リジオ氏は、SQの伸ばし方として、まず周囲の状況に注意を払い、スピーチや会話が上手になることを目指すようすすめています。
また、同氏は「アクティブ・リスニング(積極的傾聴)」を挙げ、「相手が言ったことを自分の言葉で言い換えることで、より効果的な聞き手になることも重要」だとしています。*4
部下とのコミュニケーションでアクティブ・リスニングを意識した場合の例を挙げましょう。
- <部下が「最近うまくいかなくて……」と話した>
「業務量が多くて余裕がない、ということかな?」と要点を整理して確認する - <1on1ミーティングで部下が不安を語る>
「評価よりも、成長機会が少ないと感じているのですね」と気持ちの部分を言葉にして返す
すなわち「SQ」とは、場の状況や相手の意向を適切にハンドリングし、最適解へと導く「調整・アレンジの知性」です。
ぜひ、部下およびチームメンバーの話を聞くとき、意識してみてください。

知性3. AQ(逆境指数)とは何か、変化の時代に必要な理由
テクノロジーの進化が激しいいまの時代には、状況に応じて適応する力が求められます。それは逆境をどう受け止め、どう対応するかという力でもあるでしょう。これが「AQ(Adversity Quotient)」にあたる知性です。
2019年にAQをテーマにした人気のTEDトークを行なった投資家・ナタリー・フラット氏はこう述べます。*5
- AQには、単に新しい情報を吸収するだけでなく、何が重要かを判断し、時代遅れの知識を捨てて、課題を克服し、意識的に変化を起こす能力が含まれる。
- AQには、柔軟性、好奇心、勇気、回復力、そして問題解決能力も必要となる。
では、AQの低いリーダーと高いリーダーはどう差が出るのでしょうか。
≪プロジェクトが失敗したとき≫
- <AQが低いリーダー>
・失敗を能力が足りないと考えて落胆する
・責任の所在を同僚や部下など外部に求める
・「このチームはダメだ」と決めつける - <AQが高いリーダー>
・「どの仮説が誤っていたか」を検証する
・学習機会として失敗をとらえ直す
・次の改善策を具体的に計画する
AQの肝は、メンタルの強さや特別な知性ではありません。逆境や困難に直面した際に、それをどう解釈し、いかに建設的な行動に移して状況を切り開くか。
その違いが、リーダーの持続力を左右するのです。
AQを鍛えるヒント
フラット氏は、AQを引き出すための問いとして以下を挙げています。*5
「もし~だったらどうなるか」という問いに対し――
- 自分の未来を想像できるか?
- 既成概念を疑い古い情報を捨て去ることができるか?
- 探求や新しい経験を求めて楽しめるか?
これらの問いを「日常の取り組み」に置き換えると、AQを鍛えるヒントになります。
- 【1】不確実な状況下でこそ「もし~だったら?」と複数の未来を想像してみる
<例>
・「失敗したら周囲の目が厳しくなるかも」
・「もし成功してもボトルネックに引っかかるかも」
・「もし成功したら、〇〇方向に広げられるかもしれない」 - 【2】これまでの知識や成功体験を疑い、不要な知識をアップデートする
<例>「チームメンバーの進捗は細かく管理すべき」というマネジメント手法を捨て、プロセスではなく「成果」で評価する自律型のチーム運営に切り替える - 【3】未知の分野や新しい経験を前向きに受け入れ、学習を楽しむ
<例>新技術の導入に対し「難しそう」と避けるのではなく、「まず触ってみよう」と小さく試してみる
これらはいずれも、変化のなかで前進し続けるための姿勢を示しています。AQの高さは、まさにこの "思考の柔軟性" に表れてくるはずです。
***
IQ、EQ、SQ、AQ——、どれかが突出しているのではなく、どの知性もバランスよく育てることが大切です。
人としての知性を高めれば、「信頼できるリーダー」になれるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q. EQ・SQ・AQはそれぞれどう違うのですか?
A. EQ(心の知能指数)は自分と他者の感情を認識・管理する力、SQ(社会的知性)は人間関係を賢く築く力、AQ(逆境指数)は逆境に直面した際に建設的に対応する力です。IQが「正解を出す賢さ」なら、EQは「内面的な賢さ」、SQは「対人関係の賢さ」、AQは「困難を乗り越える賢さ」といえます。
Q. EQ・SQ・AQは大人になってからでも鍛えられますか?
A. はい、いずれも後天的に鍛えることが可能です。EQは感情を書き出す習慣、SQはアクティブ・リスニング(積極的傾聴)の実践、AQは「もし~だったら?」と未来を想像するトレーニングなどが有効とされています。
Q. リーダーにIQだけでは足りないと言われるのはなぜですか?
A. 組織は非合理的な行動をとる人間の集合体であり、ひとりの切れ者がすべての課題を解決することは不可能だからです。MITなどの研究でも、チームのパフォーマンスは個人のIQではなく、メンバーの社会的感受性の高さと相関していることが示されています。
Q. EQを高めるために最初にやるべきことは何ですか?
A. まずは「自己認識」を深めることが第一歩です。1日や1週間の終わりに自分の感情を振り返り、最も揺れ動いた感情を紙に書き出してみましょう。根底にある価値観や信念に気づくことで、自己認識が深まり、EQ全体の向上につながります。
Q. AQが高い人と低い人では、失敗への反応がどう違いますか?
A. AQが低い人は失敗を能力不足と捉え落胆したり、責任を外部に求めたりする傾向があります。一方、AQが高い人は「どの仮説が誤っていたか」を検証し、失敗を学習機会としてとらえ直し、次の改善策を具体的に計画します。この思考の柔軟性が、リーダーの持続力を左右します。
*1: Science|Evidence for a Collective Intelligence Factor in the Performance of Human Groups
*2: STUDY HACKER|成果を生み出すリーダーはEQが高い。「豊かな対人関係を育む力」がビジネスに必要な理由
*3: Greater Good|What is Social Intelligence?
*4: Psychology Today|What Is Social Intelligence? Why Does It Matter?
*5: BBC|Is 'AQ' more important than intelligence?
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。