
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
Season6では「なぜこのブランドは選ばれ続けるのか」を事例で深掘りしました。
Season7では、より深く「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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車の維持費が高騰し、都市部での「マイカー離れ」が完全に定着した2026年。スマホをかざすだけで、15分220円から、まるで自分の車のように発進できる「タイムズカー」は、車両台数63,880台・ステーション数業界最大規模を誇り、2025年だけでステーション数を30.2%増やすという驚異的な成長を続けています。*1
なぜタイムズだけがこれほどの「ひとり勝ち」を続けられるのか。その答えは最新テクノロジーでも潤沢な資金力でもありません——「すでに持っていた資産」の転用にあります。
- 「コインパーキングの1区画」という、複製不可能な参入障壁
- 「15分220円〜」の超小口化と「プログラム」による習慣化——レンタカーとの決定的な差
- 「足元の眠れる資産」に新しい役割を与えることが、最強の競争優位になる
- よくある質問(FAQ)
「コインパーキングの1区画」という、複製不可能な参入障壁
カーシェアビジネスで最もコストがかかり、最も時間がかかる課題は何でしょうか。車両の調達ではありません。ステーション(駐車場)の確保です。
都市部の一等地に駐車スペースを確保するには、土地のオーナーとの交渉・賃料・設備投資が必要です。後発の競合——自動車メーカー系のカーシェアや新興スタートアップ——が最も苦しむのがこの「物理的な場所」の問題です。*2
タイムズカーを展開するパーク24は、この問題を根本から持っていませんでした。
パーク24はタイムズカーよりずっと前から、全国に「タイムズパーキング(コインパーキング)」を展開していました。そのコインパーキングの「1区画」をカーシェア用に転換するだけで、ステーションを設置できます。*2 土地の新規仕入れコストがほぼゼロ、既存の顧客認知もある、駅前や住宅街の一等地にすでに存在する——これは後発の競合がどれだけ資本を投じても、一朝一夕には追いつけない「物理的な参入障壁」です。
パーク24の公式も「クルマをとめられるだけでなく、借りられる場所にも」という表現でこの転換を位置づけています。*2 すでに人々の生活動線に組み込まれた駐車場ネットワークを「カーを借りる場所」として機能させた——これがアセット・レバレッジ戦略の真髄です。

「15分220円〜」の超小口化と「プログラム」による習慣化——レンタカーとの決定的な差
ステーションという物理的な優位を確保したタイムズカーが、次に仕掛けたのが「利用の超小口化」です。
レンタカーの最短利用時間は通常6時間〜。まとまった時間の確保・事前の店舗手続き・返却の手間が必要です。これは「たまに遠出するとき」には合理的ですが、「日常のちょっとした移動」には明らかに過剰です。
タイムズカーは15分220円〜という単位で、スマホ操作だけで即利用できます。*1 「雨が降ったから子供の送り迎えに30分だけ」「大きな荷物があるから買い物に1時間だけ」——これらは従来、タクシーかマイカーしか選択肢がなかった需要です。この「日常の些細な移動のペイン」を解消することで、タイムズカーは「乗り物を借りる」から「日常のインフラを使う」という使われ方に転換しました。
| 比較軸 | レンタカー | タイムズカー |
|---|---|---|
| 最短利用 | 6時間〜 | 15分〜(220円〜) |
| 手続き | 店舗での対面手続き必須 | スマホのみ・24時間無人 |
| 利用シーン | 旅行・遠出など非日常 | 日常の買い物・送迎など |
| 顧客の意識 | 「借りる」という特別な行為 | 「使う」という日常の行為 |
さらに「タイムズカープログラム(TCP)」が習慣化を加速させます。利用頻度でステージが上がり、特典が得られる仕組みは、「タイムズを使い続けるほどお得になる」という乗り換えの心理的障壁(スイッチングコスト)を高めます。*1 「ステーション数が多い」という物理的な優位と、「使えばお得になる」というロイヤルティ設計が組み合わさることで、競合への乗り換えは二重に難しくなります。

「足元の眠れる資産」に新しい役割を与えることが、最強の競争優位になる
タイムズカーの事例が教えるのは、新しいビジネスを始める際の根本的な問いです。
ゼロからすべてを揃えようとしていないでしょうか。競合が「ステーション確保」という最大の課題を一から解決しようとしている間に、タイムズはすでに持っていた全国のコインパーキングネットワークを転用するだけで、その課題をスキップしました。
いま、自社が持っている「すでに顧客に認知されている場所」「当たり前に使っている設備」「蓄積されてきた顧客接点」を、別の目的で再利用できないか考えてみましょう。パーク24にとってコインパーキングがそうだったように、あなたの「当たり前」が競合にとっては「越えられない壁」かもしれません。
2026年のマーケティングは、新しい飛び道具を探すことではなく、足元にある「眠れる資産」に新しい役割を与えることです。タイムズカーが目指す20万台という目標は、この戦略の延長線上にあります。*1

【本記事のまとめ】
1. コインパーキングの転用——後発が追いつけない「物理的な参入障壁」
タイムズパーキングという全国ネットワークの1区画をカーシェア用に転換するだけで、後発が最も苦しむ「ステーション確保コスト」を丸ごとスキップした。土地仕入れコストほぼゼロ・既存の顧客認知・一等地への設置済みという三重の優位が、競合が資本を投じても追いつけない参入障壁を形成している。
2. 「15分220円〜」の超小口化——日常の移動インフラへの転換
レンタカーの6時間〜という枠を破壊し、30分の買い物・子供の送り迎えという日常の需要を取り込んだ。スマホだけで完結する24時間無人利用と、タイムズカープログラムによるスイッチングコストの積み上げが、「タイムズを使い続ける日常」を設計している。
3. 「眠れる資産」に新しい役割を——アセット・レバレッジが最強の競争優位になる
新しいビジネスをゼロから構築するのではなく、すでに持っている「顧客に認知された場所・設備・接点」に新しい目的を与えること。タイムズカーが目指す20万台というビジョンは、この戦略の延長線上にある。
よくある質問(FAQ)
タイムズカーの競合(三井のカーシェアーズなど)はなぜ追いつけないのですか?
最大の理由はステーション数の差です。2025年のデータでは、タイムズカーが業界トップを独走する一方、三井のカーシェアーズはステーション数・車両台数ともに減少しています。三井はスーパーや商業施設との提携でステーションを設けていますが、タイムズパーキングのような「自社保有のネットワーク」を持たないため、スケールのスピードが根本的に異なります。また、コインパーキングという既存インフラを持たない競合は、ステーション拡大のたびに土地オーナーとの交渉・賃料・設備投資が必要で、コスト構造が根本から不利です。
「アセット・レバレッジ」は中小企業でも実践できますか?
むしろ中小企業こそ強みを発揮できる戦略です。重要なのは規模ではなく「自社がすでに持っているが十分に活用していないもの」を見つけることです。たとえば飲食店が「閉店後の厨房と調理師を使ったケータリング事業」を始める、工務店が「職人の技術と道具を使ったリフォーム以外のサービス」を展開する、美容室が「サロンのスペースをセミナー会場として夜間貸し出す」——これらすべてが既存資産への新しい役割付与です。タイムズが「駐車場を借りられる場所に」変えたように、自社の「当たり前」を問い直すことが出発点です。
カーシェア市場はまだ成長しますか?飽和しないのでしょうか?
2025年3月末時点の国内カーシェア会員数は560万人超で、まだ成長余地があると考えられています。パーク24の西川社長は2025年12月に「タイムズカーで現状の3倍にあたる20万台を目指す」と発言しており、国内市場の拡大余地を見込んでいます。また車の維持費上昇・都市部のマイカー離れ・高齢者の免許返納後の移動手段としての需要など、構造的な追い風が複数存在します。ただし競争激化・料金上昇・事故増加による補償コストの増大といった課題もあり、成長が続く中でも経営効率の改善が求められています。
*1|カーシェアリング比較360°「2025年総括版:主要5社」。2025年12月時点ステーション数前年比20.3%増・車両台数18.6%増・タイムズカーがステーション数30.2%増・車両台数25.0%増で業界最大規模を牽引・2025年3月末時点の国内カーシェア会員数560万人突破を確認。車両台数2025年10月末63,880台・目標20万台・西川光一社長発言は日本経済新聞(2025年12月16日)で確認
*2|タイムズ駐車場関連サービス公式「パーク24グループのサービス紹介」。「クルマをとめられるだけでなく、借りられる場所にも」というコンセプト・タイムズパーキング(コインパーキング)のネットワークをタイムズカー(カーシェア)に転用する構造・「コインパーキングにイノベーションを起こし続けている」という表現・1台分から設置可能という特徴を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:なぜニトリは、インフレの時代でも「お、ねだん以上。」を維持できるのか
- 第2回:ノジマが証明した「モノを売る瞬間」ではなく「顧客の人生に関わる時間」を競う戦略
- 第3回:なぜUSJは、「天才マーケター」が去った後も、成長し続けられたのか
- 第4回:なぜBUYMAは、在庫を一切持たないまま、世界中の高級品を売り続けられるのか
- 第5回:LUSHが証明した「広告を捨て、信念を叫ぶ」という、広告費ゼロで熱狂を生む戦略
- 第6回:売上高39%増・過去最高益——コメ兵の「真贋マーケティング」が2026年に爆発した理由
- 第7回:なぜ「調味料の会社」が、世界中のAIチップに欠かせない素材のシェア95%を握れたのか
- 第8回:なぜミツカンは、220年の歴史を武器に「新主食の会社」へ変身できたのか
- 第9回:Qoo10がつくる「メガ割」というお祭り騒ぎ。年4回、SNSを熱狂させる衝動買いのデザイン
- 第10回:関東29店舗なのに全国区——蒙古タンメン中本に学ぶ「聖地」と「無料体験」の二層戦略
- 第11回:1億個・海外比率50%超——たまごっちに学ぶ、「眠れる資産」を世界のトレンドに変える方法
- 第12回:「中身を選べない」のになぜ買ってしまうのか——一番くじの購買衝動をデザインする精巧な仕掛け
- 第13回:なぜしいたけ占いは、「当てない占い」のまま、数百万人の月曜日に欠かせない存在になれたのか
- 第14回:ゴンチャが証明した「ブームに乗りながら、ブームに飲み込まれない」カテゴリー戦略
- 第15回:ステーション数・車両台数ともに業界ひとり勝ち——タイムズカーに学ぶ、既存資産を最強の競争優位に変える方法(本記事)
▶ Season1(全14回)はこちら|マーケティングの基礎概念からWeb広告の実務知識まで
▶ Season2(全15回)はこちら|PL翻訳術、弱者の戦略、広告評価、インタビュー技術まで▶ Season3(全20回)はこちら|現場で使える顧客心理・ブランド戦略・価格設計の本質
▶ Season4(全20回)はこちら|「摩擦の除去」で読み解く世界的ブランドの設計思想
▶ Season 5【準備中】
▶ Season 6【準備中】
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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