「通じる英語」はAIで磨く。プロが伝授する、生成AI英会話学習のテクニック

ビジネス英会話練習テクニックについて対談するフランキー古江さんと時吉秀弥さん

ひとことで英語力と言っても、リスニングやリーディング、スピーキング、ライティングなど複数のスキルの総合評価によって決まります。なかでも多くの日本人が苦手意識をもっているのは、リスニングとスピーキング、つまり英会話ではないでしょうか。かつてであれば、英会話教室に通うくらいしか英会話スキルを高める方法はなかったかもしれませんが、いまなら生成AIが心強い味方になってくれます。Udemy講座「使える英語を身につけるためのChatGPT入門講座」の講師であるフランキー古江さんが、株式会社スタディーハッカー・コンテンツ開発室シニアリサーチャーの時吉秀弥さんとの対談を通じて、「使える英会話」を身につけるための生成AI活用法を伝授してくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

【プロフィール】
フランキー古江(ふらんきー・ふるえ)
1991年生まれ、東京都出身。AI英語サロン代表。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。英会話経験がないまま米国アラバマ大学へ1年間留学し、英語学習における挫折を経験。帰国後、独学でTOEIC900点を達成し、米国公認会計士試験に合格。日系大手美容企業、外資系コンサルティングファームにて経営企画、経営管理、経理財務に従事したのち、独立。2023年1月、ChatGPTに衝撃を受け、仕事や英語学習での活用を開始。会計用語やプレゼン、趣味の茶道まで、実践的な英語を効果的に学べることに感激し、英語教育に革命が起こると確信して啓蒙活動を開始。現在は、「AI×英語学習」に関するノウハウや最新情報の発信、AIセミナーや研修への登壇といった活動のほか、Udemyにおいて「使える英語を身につけるためのChatGPT入門講座」の講師も務め、高い評価を得ている。【YouTube】AI英語サロン

時吉秀弥(ときよし・ひでや)
1968年生まれ、兵庫県出身。株式会社スタディーハッカー・コンテンツ開発室シニアリサーチャー。神戸市外国語大学英米語学科卒業。米国チューレン大学で国際政治を学んだのち、帰国。ラジオパーソナリティーという特殊な経歴を経つつ、20年以上にわたって予備校で英語も教えてきた。英語を教えるなかで独自の英文法観を築きつつあった頃、それが認知言語学に通じるものだと知り、東京言語研究所に入所。池上嘉彦東京大学名誉教授、西村義樹東京大学准教授(当時。現教授)、尾上圭介東京大学教授(当時。現名誉教授)、上野善道東京大学名誉教授らのもとで認知言語学、日本語文法、音声学などを学ぶ。2010年、同所で理論言語学賞を受賞。認知言語学に基づき英文法を解説したブログ「時吉秀弥の英文法最終回答」が、英語学習者から多くの支持を集める。舞台やラジオで実践的に培った「人に話を聞いてもらうとはどういうことか」の追求と、認知言語学の知見に基づく英文法の教授法を融合させ、日本人が「人を説得できる」英語を話すための方法論を開発する日々を送る。『英文法の鬼100則』(明日香出版社)、『英語脳スイッチ!』(筑摩書房)、『英語秒速アウトプットトレーニング』(Gakken)など著書多数。

英語学習に有効な会話ができるかどうかは、プロンプト次第

時吉 ChatGPTの「高度な音声モード(Advanced Voice Mode)」では、ユーザーとAIがリアルタイムの音声会話を行なえます。英語学習においても効果的だと思いますが、その会話の精度はどの程度のものでしょうか。

フランキー かなり高いレベルにまできていると思います。ただし、英語学習に活用するという意味では、AIに与える指示や質問を意味する「プロンプト」をきちんと作成することが欠かせません。

たとえば、初心者の場合、生成AIの話す英語が速すぎて聴き取れないということはよく起こります。そういった場合なら、「できる限りゆっくりと話してください」といったプロンプトを与える必要があります。

時吉 そのプロンプトは、会話を始める前にテキストで打ち込むのですか? それとも、リアルタイムの会話でできるのでしょうか。

フランキー ChatGPTで言えばどちらも可能です。英会話の練習を始める前にテキストでChatGPTの役割やトピックを入力してもいいですし、音声会話モードを起動してから「今日はこういう会話をしよう」というふうに話してもかまいません

また、ChatGPTには、自分についての情報やどのように応答してほしいかを事前に設定できる「カスタムインストラクション」という機能もあります。「私は英語学習を始めて間もない20代女性のビジネスパーソンです」「あなたはイギリス人として振る舞ってください」「英語で回答する場合はゆっくり話してください」といった設定を予めしておけば、毎度指示しなくとも普段から指定した役割やトーン、スピードで返答してくれるようになるのです。

時吉 そのカスタムインストラクションの使い方がわからないときは、ChatGPTに聞いてしまえばいいですよね。

フランキー まさにそのとおりです。ChatGPTに関してわからないことは、ChatGPTに教えてもらいましょう。

英語学習に有効な会話ができるようにするプロンプトについて語り合うフランキー古江さんと時吉秀弥さん

発音やアクセントの矯正には不向き?

時吉 英会話のレベルを向上させるには、発音やアクセントの学習も不可欠です。ユーザーの発音やアクセントについて、ChatGPTに矯正してもらうこともできるでしょうか。

フランキー それについてはちょっと難しいかもしれません。というのも、ChatGPTが賢すぎるため、多少の発音のミスやなまりは無視して問題なく聴き取ってしまうからです。たとえば、「スマートフォン」と完全なカタカナ英語で言ったとしても、ChatGPTは問題なく「Smartphone」と認識します。

ただ、発音やアクセントを矯正してもらうことはできなくとも、それらの勉強法についてアドバイスをしてもらったり、独学しづらい「リエゾン」の勉強に生成AIを活用したりすることなら可能です。

時吉 読者のみなさんのために解説しておくと、リエゾン(liaison)とは、簡単に言えば「音と音のつながり」のことで、ある単語の語尾の音が次の単語の頭の音とつながって発音される現象を意味します。たとえば、「pick it up」「not at all」の発音をカタカナで表現するなら、それぞれ「ピキラップ」「ナラロール」になるといった具合です。

フランキー 具体的には、なんらかの英文の前に次のプロンプトを加えてみてください。リエゾンによる発音の変化などについて学ぶことができます。

あなたはアメリカ英語発音の専門家です。

次の英文について、英語原文、標準的な発音記号、アメリカ口語におけるリエゾンを含む発音記号を表形式でまとめてください。

次にリエゾンが起こっている箇所を特定し、それぞれについてわかりやすく解説をしてください。
・リエゾンが起こっている単語や音の組み合わせ
・リエゾンによってどのように発音が変化するか
・なぜそこでリエゾンが起こるのか(音声学的な理由の簡単な説明)

発音やアクセントの矯正について語るフランキー古江さん

徹底的に細かい設定で、効果的な英語面接練習も可能

時吉 英会話という意味では、ChatGPTを利用して、英語面接やプレゼンなど特定の場面におけるビジネス英会話も学習できるものでしょうか。

フランキー もちろん可能です。ここでもやはり、ポイントになるのはプロンプトの作成です。ただ「英語面接の練習をしたい」では情報が不足していますから、志望動機など一般的な質問しかされないでしょう。これでは、実践的な練習にはなりません。ですから、想定する業種や職種、自分のキャリアといった情報を徹底的に細かく設定することが重要です。

せっかくですから、具体例を紹介します。これは、「Googleの法人営業職の2次面接(オンラインビデオ通話)」を想定した英語面接の練習をするためのプロンプトです。

あなたは優秀な英語講師兼Googleの法人営業マネージャーです。  
以下の設定と手順に基づいて、法人営業職の2次面接のシミュレーションを行なってください。

### 設定:
- 場面:Googleの法人営業職の2次面接(オンラインビデオ通話)  
- あなたの役割:40代アメリカ人、Googleの上級法人営業マネージャー。営業戦略に精通し、実践的な質問を投げかける  
- 私の役割:30代日本人、法人営業経験者(B2B営業)、CEFR B2-C1レベルの英語力  
- 言語:アメリカのビジネス環境で実際に使われる営業英語(B2-C1レベルに適した表現を使用)

### 面接の目的:
1. 法人営業スキルの評価(営業戦略、交渉力、リード獲得、顧客関係構築など)  
2. 問題解決力とデータ活用能力の確認(Googleのソリューションを用いた提案力の測定)  
3. Googleの営業スタイルと企業文化への適応性の確認  
4. 英語でのコミュニケーション能力の評価(説得力のあるプレゼン、交渉スキル、クライアント対応)

### 手順:
1. あなたは面接官として英語であいさつと自己紹介をする  
2. 以下のガイドラインに沿って1回の発言につきひとつの質問をして面接を進める 3. 私が英語で回答する  
4. 必要に応じて、追加の質問や掘り下げた質問を投げかける  
5. 面接の最後に、面接官として簡単なフィードバックを英語で述べる  
6. その後、英語講師として以下の点について日本語でフィードバックする  
   a) 営業英語の適切な使用(専門用語や実践的な表現)  
   b) 回答の構成と論理性(提案の説得力、データの活用方法)  
   c) より適切なB2B営業関連の英語表現の提案  
   d) 営業スキルと交渉力に関するアドバイス  
   e) 全体的なパフォーマンス評価と改善点  

### 質問のガイドライン例:
- 営業戦略に関する質問
- 実際の営業シナリオを想定した質問
- データドリブンな営業アプローチについての質問
- GoogleのB2B営業に関連する質問
- チームワークやプロジェクト管理に関する質問

まずは面接官として、英語であいさつと自己紹介をお願いします。  
面接が終了したら、英語講師としての総合的なフィードバックをお願いします。

時吉 これはまさしく徹底的に細かい設定ですね。じつはChatGPTを使ってビジネススピーチの例を出させたことがあったのですが、何度やってもワンパターンの話ばかりになってしまいました。おそらく、私からのプロンプトの情報が不足していたのでしょうね。

フランキー 生成AIは、基本的に「平均値」しか返してきません。ですから、なにも指定しないまま「おはよう、元気ですか?」と聞いたら、ただ「おはよう、元気です」としか返ってこないでしょう。でも、「あなたはアントニオ猪木です」とでも指定すれば、「元気ですか?」に対しても平均的とはまったく異なる答えが返ってくるはずです。

そういう意味では、「ロジカルシンキング(論理的思考)で考えてください」というように、生成AIの思考形式を限定させるのも手です。ほかにも、クリティカルシンキング(批判的思考)やラテラルシンキング(水平思考)、デザイン思考、メタ認知的思考など思考形式を指定することで、平均的ではないおもしろい答えが返ってきます

時吉 なるほど、生成AIを、ちょっとくせのある人のようにしてしまうわけですね。

フランキー AIとの関係と人間関係は、意外と近いところがあるのかもしれません。

生成AI英会話学習のテクニックについて対談したフランキー古江さんと時吉秀弥さん

<フランキー古江さんの人気Udemy講座>
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<時吉秀弥さんの人気Udemy講座>
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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

会社案内・運営事業

  • 株式会社スタディーハッカー

    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
    >>株式会社スタディーハッカー公式サイト

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