英語で話そうとしたとき、文法がうろ覚えのために、とっさに英文が出てこなかったり、相手に理解してもらえなかったりした経験はありませんか?
「せっかく学校で文法を暗記してきたのに、実践では使えない」「やはり文法の勉強など無意味だったのか…」そんな風に考えている方にぜひ知っていただきたいのが「認知言語学」です。
この認知言語学は、言葉を「人間の認知能力」の角度から研究するものです。認知言語学を用いて「なぜこの文法が使われるのか」という「意味」を深く理解すれば、実践の英会話でもスムーズに言葉が出てきます。この「英文法が持つ意味」について、「認知言語学」をベースにした英会話トレーニング書『英語秒速アウトプットトレーニング』(Gakken) から一部抜粋、再編集してお届けします。
兵庫県出身。神戸市外国語大学外国語学部英米語学科卒。米国ルイジアナ州チューレン大学にて国際政治を学ぶ。落語家の弟子、ラジオパーソナリティなどを経て、予備校では20 年以上にわたり大学受験生を教える。東京言語研究所にて西村義樹東京大学准教授(当時。現教授)、尾上圭介東京大学教授(当時。現名誉教授)らのもとで言語学を学び、2010年、同所で理論言語学賞を受賞。現在(株)スタディーハッカー・シニアリサーチャー。同社制作のYouTubeチャンネル「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」にて英文法の解説を発信。著書に『英文法の鬼100則』(明日香出版社)『英語脳スイッチ!』(ちくま新書)など。
動詞は「主役」の主語の影響を受ける
まずは基本中の基本、主語や動詞について。「主語の後は動詞がくる」「動詞には-sや-esがつく場合がある」などと機械的に覚えている人も多いかと思いますが、ここで意識していただきたいのは、英語において主語は「その文の主役」・動詞は「その主役が行う動作」であるということです。
英語では基本的に話の主役である主語から話し、次に主語がどんな動作をするのかを説明する動詞が来ます(時間や場所を表す修飾語(M)がその後に来ることもあります)。
また英語では、「主役」の主語の形が続く動詞の形に影響を与えます。一般動詞の場合、主語が(私→ 1人称)やyou(あなた→2人称)なら特に変化は起きませんが、それ以外の「he(彼)、she(彼女)」など(3人称単数)の場合、動詞の語尾に-sや-esがつくのです。
自動詞=「沸く」、他動詞=「沸かす」
続いて動詞をもう少し詳しく、自動詞と他動詞について学びましょう。ここで一つ問題です。日本語で「風呂が沸く」・「風呂を沸かす」と言うとき、どちらの言い方が「自分でそうなる」感じで、どちらの言い方が「他者に働きかける」感じになるでしょうか?
お気づきの方もいるかもしれませんが、「沸く」のほうが「自分でそうなる」感じで、「沸かす」の方が「他者に働きかける」感じですね。
このように「沸く」のような自分でそうなる動作を「自動詞」、「沸かす」のような他者に働きかける動作を「他動詞」と呼びます。
動詞を主語から出る力の一種と考えましょう。主語から出た動詞の力は自動詞では主語自身に働き、他動詞は他者(目的語=O)に働きかけます。つまり他動詞の後には力をぶつける目的語が必要ですが、自動詞には不要ということになります。(なお文末の修飾語には、動詞の力は直接及びません。)
be動詞=「~という状態で存在している」
続いてはbe動詞について。英語の中で最も重要な動詞と言っても過言ではありませんが、問題になるのはその意味の捉え方です。
日本語では①「である」もしくは②「いる」と訳される場合があり、「どう訳し分けたら良いのか」と悩む方もきっといるでしょう。しかし実は根っこの意味は一つだけで、つまり「~という状態で存在している」ということなのです。
例えばHe is a student.という文の場合なら「彼は学生という状態で存在している→彼は学生だ」と考えられますし、He is in Tokyo.の場合なら「彼は東京の中という状態で存在している→彼は東京にいる」と考えられるというわけです。
否定文のnotの位置の秘密
続いては否定文について。これは「~ではない」「~しない」という文のことです。be動詞の場合はis notやam notのようにnotをbe動詞の後ろに直接つけますが、makeやgiveなどの一般動詞の場合、make notやgive notとはせず、do/does+not+動詞の原形という形にします(過去形ならdid not)。
これはなぜでしょう?一般動詞のmake「作る」もgive「あげる」も、要するに何かを「する(do/does)」ということですよね。かなり大雑把に言うと「~する」(=一般動詞)の否定文や疑問文では全部do/doesを代表として使おうよという考え方なのです。
その一方、be動詞は「~する」という意味ではなく、先ほど学んだ通り「状態である」という意味で、do/doesを使わずbe動詞の後ろに直接notをつけて否定文にします。
疑問文ではなぜBe動詞/Doが先頭に来る?
「はい(yes)」か「いいえ(no)」で返事をする疑問文のことをYes/No疑問文と呼びます。この疑問文の場合、be動詞の文ではbe動詞を、一般動詞の文ではdo/doesを文頭に持って来ます。なぜでしょう?
be動詞の疑問文、例えばAre you a student?「あなたは学生ですか?」と聞く場合、これはYou are a student.(学生です)なのか、それともYou are not a student.(学生ではないです)なのかを尋ねています。「情報の主役」がareなわけです。このように「大事なこと」から「先に言う」のが英語の語順の大事なルールで、だからareが文頭に来ます。
一般動詞でも同じ仕組みです。例えばDo you play tennis?「あなたはテニスをするの?」という文では動詞play(するorしない)が「情報の主役」です。こうした場合、否定文同様にdo/doesが動詞の代表となって文頭に来ます。
疑問詞疑問文では一番尋ねたいことを先頭で聞く
最後に、what「何」やwhen「いつ」などの疑問詞を使った疑問文を練習します。語順がややこしいとお悩みの方も多いでしょうが、ここでも「大事な情報を先に言う」という原理は変わりません。
この疑問文では、「何」や「いつ」などの疑問詞が一番尋ねたい情報ですから、これらが必ず文頭に来ます。①まずは普通の疑問文を作り、②その中の尋ねたい部分を疑問詞に変えて文頭に持ってくるという作業に慣れてしまいさえすれば、自ずと正確な語順で文が作れるようになります。
なお、主語が疑問詞の場合には、〈疑問詞+動詞~〉というように、肯定文のような語順となります。この場合、主語の疑問詞は1人称でも2人称でもないため、3人称単数扱いとなり、動詞はその形に合わせます。例えばI play baseball.(私は野球をする)という文なら、Who plays baseball?(誰が野球をするの?)となるわけです。
■ 時吉秀弥『英語秒速アウトプットトレーニング』紹介記事
第1回:STUDY HACKER|SVOCの丸暗記は無意味!? 「文法アレルギー」の人にこそ知ってほしい「文型」の真意とは
第2回:STUDY HACKER|「過去形」=「過去の話」と考えるのは誤り!?時制がわかれば英語がわかる!
第3回:STUDY HACKER|なぜ疑問文はDoから始まるか説明できますか?英文法の「意味」がわかれば、英会話にも効果抜群!
※引用の太字は編集部が施した