勉強しても成果がでない人が陥っている思考の罠 学習を妨げる3つのバイアス

カフェで勉強中だがうまく進んでいない様子のビジネスパーソン

「計画通り進まない」「ついつい先延ばししてしまう」「なかなか成果が出ない」など――。

忙しい日々のなか、資格取得のための勉強や、リスキリングを進めるビジネスパーソンの悩みは尽きません。

だからといって、「私は意志が弱いからダメだ」「そもそも勉強に向いていないのかも……」などと、決め込んでしまうのは早計です。もしかしたら、学習を妨げる思考のクセに陥っているかもしれません。

ネガティブな側面ばかりに注目し、行動を諦めてしまう前に、まずはその可能性を探りましょう。本記事では、勉強を妨げる3つの認知バイアスを紹介します。ぜひ、学ぶ意欲を失う前にご一読ください。

1. 計画錯誤「これくらいで終わる」

勉強を始める際に立てた理想的な計画は、必ずしも実現できるものではありません。認知バイアスの影響で、甘く見積もってしまう可能性があるからです。

行動経済学者のD・カーネマン博士らは、計画どおりに進まなかった経験があっても「今回は大丈夫」と考え、必要な時間を短く見積もる傾向を「計画錯誤」と名づけました。皮肉なことに――カーネマン博士のチームもこの罠にはまったようです。

 
 
 

カーネマン博士は仲間と約1年かけて、教科書の最初の1〜2章を執筆。その時点で、あと何年かかるかチームメンバーに予想してもらったところ、その回答は「最短で1年半、最長で2年半」でした。

ところが、実際に教科書の制作に費やした時間は、なんと「8年」だったのです。

優れた知性の持ち主でさえも、およそ6年の誤算をするのです。私たちは「どんな人でも計画を甘く見積もる傾向がある」――この前提を、念頭に置く必要があるでしょう。

木型の「PLAN」という文字

組織コンサルタントで、日本ファシリテーション協会フェローの堀公俊氏によれば、人はよいことが起こる可能性を過大評価する一方で、悪いことは過小評価しやすいそうです。

そのため、堀氏はこう提案しています。*1

バイアスが働いていることを前提にして、過去の実績から「当初の予想のN倍かかる」ことを覚悟しておくのです。

たとえば語学の勉強で、初めの見積もりを「1か月、1日1時間で問題集を2周する」と決めたとしましょう。

その場合、突発的な出来事などで「予想の2倍はかかる」と考え、以下のように再設計するのです。

予想:「1か月、1日1時間で問題集を2周する」
↓↓↓↓↓
🔵 予想の2倍:「2か月かけ、週2日の予備日を確保して着実に2周する」
  • 週に2日は「予備日(やらない日)」をあらかじめ設ける
  • 「復習・解き直し」の時間を最初から組み込む
  • 間違えた問題だけをやり直す「重点復習日」を設ける

これは言うなれば――

「計画は崩れるもの」と最初から認めることで、予期せぬ事態へのバッファ(余白)や、状況に応じた柔軟な調整プロセスが組み込まれる。つまり、結果として目標達成率が高まるという「計画のパラドックス」です。

2. システム正当化バイアス「いまのやり方が一番」

慣れ親しんだ勉強法は継続しやすいもの。ただ、成果が出ていないのなら、見直すことも必要です。しかし、私たちは「いまのやり方が一番」と思い込むクセがあります。

脳科学者の西剛志氏は「これまで続けてきた特定のシステムや慣行を正当化しよう」とする認知バイアスを「システム正当化バイアス」だと説明しています。

同氏によれば、このバイアスが働くと、間違った勉強法のせいで伸び悩んでいるにもかかわらず、「慣れ親しんだ方法」というだけで継続してしまう可能性があるといいます。*2

たとえば「繰り返し読んで覚える方法」がうまくいっていない人に、「読むだけでなく、小テストなどアウトプットしたほうが記憶に定着しやすいですよ」と教えても、「システム正当化バイアス」が働いていると、そのうまくいかない方法を続けてしまうのです。

だからこそ西氏は、成果が伸び悩んでいるのなら「これまでのやり方を疑う」ことが重要だと伝えています。*2

そうしたことをふまえ、まずは現状を疑いましょう。疑うのが難しければ、以下を書き出し、検証してみることをおすすめします。

現状:「この方法が正しい」
↓↓↓↓↓
🟢 検証:「この方法が正しいといえる根拠を挙げる」
  • いまのやり方が正しいと思う理由を書き出してみる
    →的を射ない(他者を説得できそうにない)内容ならその理由を考えてみる

  • ほかの方法と比べてどこが優れているのか書き出す
    →比べられる方法がないなら比較検討のために一度ほかの方法も試してみる

  • これまでの成果を書き出してみる
    →結果が出ていないなら “これまでのやり方” を含めてその原因を探る

このなかの、たったひとつでも実践すれば、いままで見えていなかった事実が姿を現すかもしれません。

思いもよらない方法が自分に合っていることに気づき、驚くような成果につながり――「早くやっておけばよかった」と思う可能性は大いにあるはずです。

何かを書き出しているビジネスパーソンの手元

3. 現在バイアス「今日やらなくても明日の自分がやる」

「今日はいいか、明日やろう」と思うこと、誰にでもありますよね。しかし、その “明日の自分への期待” が、結果的に先延ばしを生んでしまうことも少なくありません。

行動経済学者の太宰北斗氏は、未来の喜びよりも、目の前のことを過大評価・優先してしまう「現在バイアス」について説明しています。

みなさんなら、「いま受け取れる100万円」と「3年後に利息分が大幅に上乗せされた130万円」のどちらを選ぶでしょうか。得をするのは3年後の130万円だと知りつつ、目の前に100万円を出されたら3年後を待ちきれず、多くの人はその場で受け取るかもしれません。

私たちには、長期的に見れば得だと理解していても、目先の楽さや利益を優先してしまう「現在バイアス」があります。

これは、勉強にも同様のことが言えます。語学のスキルを磨けば昇進に役立つとわかりつつ、つい「あの俳優の最新作を一気に観たいから、勉強は週末でいいか」と私たちは楽なほうを選んでしまいます。

では、どうすればその悪習慣から抜け出せるのでしょうか。太宰氏は「先延ばしをしたくてもできなくなる工夫をすることが大切」だとして、以下を提案しています。*3

  • 「漠然とした目標ではなく、具体的で細かい目標をセットする」
  • 「期日を区切る」
  • 「“できなかったら1万円”のようなペナルティを設定する」

つまり、「未来の自分」に頼らず、目標・期限・ペナルティという仕組みで「いまの自分」をコントロールするのです。

たとえば「TOEICで800点を取る」だけでは漠然としてしまいますが――

漠然とした目標:「TOEICで800点を取る」
↓↓↓↓↓
🟡 目標・期限・ペナルティという「仕組み」をつくる
  • 目標:Part6〜7を30分以内に解けるようにする
  • 期限:今月まで
  • ペナルティ:以下のいずれかを必ず
    →SNSで公言しておく(未達成なら報告しなければならない)
    →達成できなければ、友人に1000円(またはそれ以上)を支払う
    →達成できなければ、動画配信サービスのサブスクをひとつ解約

このように具体的な目標、そして達成できない場合の損失を設計すれば、「いまやる必要性」を感じてバイアスを抑えやすくなります。

“やらなければ損をする” という意識を高めるために、いまの自分に約束してみてください。周囲に宣言して「逃げ場」をなくすのも方法のひとつです。

ただし、これは行動を修正するための「仕組み」です。自罰的になりすぎず、事務的に実行しましょう。

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「勉強がうまくいかない」理由は能力ではなく、バイアスが潜んでいるせいかもしれません。バイアスを避ける設計は、回り道をしているあなたに最速ルートを教えてくれるはず。ぜひ一度、確かめてみてくださいね。

よくある質問(FAQ)

Q. 計画錯誤を防ぐにはどうすればいいですか?

過去の実績をもとに「当初の見積もりのN倍かかる」と想定しておくことが有効です。予備日をあらかじめ設けるなど、計画にバッファ(余白)を組み込むことで、予定が崩れても柔軟に対応でき、目標達成率が高まります。

Q. システム正当化バイアスとは何ですか?

これまで続けてきた特定のやり方やシステムを正当化しようとする認知バイアスです。成果が出ていないにもかかわらず「慣れ親しんだ方法」というだけで継続してしまう原因になります。いまのやり方が正しいといえる根拠を書き出してみることで、バイアスに気づきやすくなります。

Q. 現在バイアスによる先延ばしを防ぐ方法は?

具体的で細かい目標を設定し、期日を区切り、達成できなかった場合のペナルティを設けることが効果的です。「未来の自分」に頼らず、目標・期限・ペナルティという仕組みで「いまの自分」をコントロールすることがポイントです。

Q. 認知バイアスは能力の問題ですか?

いいえ、認知バイアスは能力とは無関係で、誰にでも備わっている思考の傾向です。ノーベル賞受賞者のカーネマン博士のチームでさえ計画錯誤に陥ったように、優れた知性の持ち主でもバイアスの影響を受けます。大切なのは、バイアスの存在を認識し、それを前提にした設計をすることです。

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。