会議での発言、プレゼンの資料作り、商談での説明……。
いつも「無難」で「予想通り」の対応を選んでいませんか?
確かに、無難な対応ならミスは防げます。でも同時に、上司や取引先の記憶に残るチャンスも逃しているかもしれません。
「もっと印象に残る仕事がしたい」「いつもと違うアプローチを試してみたい」。そう考えている方は多いのではないでしょうか。
そこで注目したいのが「意図的な裏切り」、つまり相手の予想を超える意外性のある行動です。本記事では、プレゼンテーションや商談など、ビジネスでのコミュニケーションに活かせるその具体的な方法をご紹介します。
平凡な仕事から抜け出し、成功したいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
意図的な裏切りとは
「意図的な裏切り」とは「意外性の提供」のことです。これにより相手に強い印象を残すことができます。
新潟医療福祉大学の山本裕二教授らは、テニスの上級者が対戦相手とのラリー中に規則性を埋め込むことで、相手の予測を裏切る駆け引きの戦略を用いていることを明らかにしました。「熟練者は自ら規則性を生み出して相手にその規則性を予測させ、相手が規則性を予測した時点でその予測を裏切るような、相手との駆け引きによる戦略をとっている」というのです。*1
このような戦略はビジネスにも応用できます。これまで「平凡」「無難」と思われていたのであれば、テニスの例で言えば「規則性」を作った状態になっています。商談のなかで予想外の提案をしたり、プレゼンテーション中に思い切ったアプローチをつかうことで、相手の予想を裏切り、強く印象づけることができるでしょう。
なぜ「意図的な裏切り」が必要なのか
通常のコミュニケーションにおいて、会話は予測可能な軌道をたどります。たとえば、「最近どうですか?」という一般的な質問をすれば、多くの人は「順調です」「特に変わりありません」と答えるでしょう。
そのため、まったく異なる視点の質問を投げかけたほうが、意図的に相手の期待を外すことができます。「最近どう?」の代わりに以下のような質問をしてみましょう。
- 「最近、面白い本や映画に出会いました?」
- 「新しく始めたことって何かありますか?」
- 「この前話していた○○(以前の会話の話題)は、その後どうなりました?」
このような質問は、通常の表面的な会話を一気に深みのあるものに変えます。より相手の印象に残る会話を展開できるわけです。
意外性のある情報は、相手の関心を引きつけ、記憶に深く刻まれます。ビジネスシーンでも同じことが言えます。無難なプレゼンテーションは次々と忘れられていく一方で、意外性のある内容は聞き手の印象に残り続けるのです。
このように人の記憶に残りやすくなるために、「意図的な裏切り」の技術は有効なのです。
ビジネスに活かす「意図的な裏切り」の技術
では、「意図的な裏切り」を武器にする具体的なコミュニケーション戦略をご紹介しましょう。
意外性のあるコミュニケーションは、あなたを平凡な存在から際立った人材へと変える鍵となります。
1. 意外性のあるプレゼンテーション
プレゼンテーションは、完璧な自己紹介と華々しい実績を披露することから始める方が多いでしょう。しかし、本当に聴衆の心をつかむのは、自分の弱みを率直に語ることです。最近の失敗談から始めることで、聴衆は意外な正直さに引き込まれます。たとえば、「昨年、最も重要なプロジェクトで大きな失敗をしました」という一言が、途端に会場の空気を変えるのです。失敗を通じた学びを語ることで、完璧な人間よりもリアルで信頼できる存在として映ります。
ほかに以下のような具体例を挙げましょう。
- このプロジェクトで大きな失敗をしました。しかし、その経験が今日ご提案する新しいアプローチの原点となっています。
- 一般的な解決策をご提案するつもりでした。でも、準備を進めるうちに、もっと本質的な課題が見えてきました。
- 今日のプレゼンは、従来の成功事例のご紹介ではありません。あえて、私たちが直面している課題から始めさせてください。
- この業界では、誰もが○○という常識に従ってきました。しかし、それは本当に正しいのでしょうか。
このように予想外の切り出し方で場の空気を変えることで、あなたの印象は確実に残るでしょう。ただし、注意点があります。
意外な切り出しのあとには、必ず価値のある内容や誠実な経験談を語る必要があります。そこが抜けてしまうと、単なる目立ちたがり屋という印象で終わってしまいます。
2. 意外性が会議の空気を変える
会議の議論が行き詰まりを見せることもあります。そんなとき、意図的に場の空気を変える戦略が威力を発揮します。たとえば、議論の最中に「いま、私たちが本当に議論すべきことはこれでしょうか?」と問いかけてみてください。議論の前提を根本から見直すような質問が、新しい展開を生むのです。
- 私たちはいま、木を見て森を見ていないのではないでしょうか? この議論の本質的な問題は、じつは別のところにあるような気がします。
- この議論を続けることで、本当に価値を生み出せていますか? 少し視点を変えて考えてみてはどうでしょうか。
- もし、半年後の理想的な状態から逆算して考えるとしたら、今日決めるべきことは何でしょうか?
- 今の議論の前提を、一度整理してみませんか? もしかしたら、見落としている視点があるかもしれません。
こうした意外性があり、かつ建設的な問いかけにより、議論に新しい視点をもたらすことができます。
3. 意外性のあるエレベーターピッチ
エレベーターピッチとは、エレベーターに乗っているくらいの短い時間で自分自身や自社のビジネスなどについてプレゼンする手法のことです。*2
通常のエレベーターピッチは、淡々とした自己紹介と事業説明が主でしょう。しかし、本当に印象に残るエレベーターピッチは、聴き手の予想を裏切るアプローチを取ります。
たとえば、「私の会社は〇〇を提供しています」と始めるところを、「この業界では、○○という課題に多くの企業が直面していると聞いています」と切り出すイメージです。
- 業界の常識とされている○○。でも、それは本当に正しいのでしょうか
- この業界で誰もが避けて通っている課題があります。しかし、それこそが最大のチャンスかもしれません
- 10年前には考えられなかったアプローチで、この課題に取り組んでいます
- 多くの企業が見落としている市場の変化があります。私たちはそこに注目しました
- 常識を疑うところから、私たちのビジネスは始まりました
エレベーターピッチでも、単なる奇抜さではなく、本質的な洞察を提供することが大切です。
特に重要なのは、意図的な裏切りは単なるテクニックではないということ。それは、より深い理解と創造的な対話を生み出す技術なのです。
真摯な姿勢は保ちながら、時には予想を超える行動をとること。そんな意外性こそが、ビジネスであなたを際立たせる要素となるでしょう。
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「意図的な裏切り」は、相手の予測を理解し、それを計画的に外すことで意外性のある印象を与える戦略です。この技術をビジネスに取り入れれば、無難で平凡なイメージを覆すことができるでしょう。日常的な会話の場面から特別なプレゼンテーションなど、さまざまな場面で使える「意図的な裏切り」の技術をぜひ実践してみてください。
※引用部分の太字は筆者が施した
*1 大学ジャーナルonline|テニス上級者はラリーに規則性を生み出し相手の予測を裏切って勝利する 新潟医療福祉大学ら
*2 kaonavi|エレベーターピッチとは?【作り方・まとめ方5ステップ】
髙橋瞳
大学では機械工学を専攻。現在は特許関係の難関資格取得のために勉強中。タスク管理術を追求して勉強にあてられる時間を生み出し、毎日3時間以上勉強に取り組む。資格取得に必要な長い学習時間を確保するべく、積極的に仕事・勉強の効率化に努めている。