
「信頼を失う口グセ」「評価が下がる言い回し」のような記事や書籍をときどき目にすることがあります。しかし、あれはいくぶん大げさで、実態とは少しずれていそうです。口癖だけで信頼を失ったり、言い回しだけで期待されなくなったりすることなど、ほとんどないはずです。(よほどの暴言でもないかぎりは……ですよ)
とはいえ、いわゆる「信頼されない口グセ」に自覚的になることには意味があります。口グセには、自分の思考のクセが表れるからです。
口グセそのものを直すのが目的ではありません。口グセを入口に、その裏にある自分の思考のクセに気づく——そういう話です。
口癖が行動を作り、行動が言葉になる。本記事では、信頼を損ねやすいとされる4つの口グセを入口に、その裏にある自分の思考のクセに気づいていきます。
- 口グセは、自分の思考のクセが映る鏡
- 口グセ1:引き受けるとき「できます!」「やります!」
- 口グセ2:頼まれたとき「難しいです」「ちょっと厳しいですね」
- 口グセ3:何か言われたとき「でも」「だって」
- 口グセ4:意見を聞かれたとき「○○さんが言ってたんですけど」「上が言ってるんで」
- 口癖が行動を作り、行動が言葉になる
- よくある質問(FAQ)
口グセは、自分の思考のクセが映る鏡
口グセは、自分でも気づかない思考のクセを映します。本人は丁寧に話しているつもり、控えめに話しているつもり、慎重に話しているつもり。けれど、無意識に出る言葉には、本人さえ気づいていないものの見方の偏りが宿っているのです。
その偏りが、日々の行動の精度を左右します。期待を上回ったり、下回ったり。そして信頼の蓄積を分けていく。
では、自分の思考のクセに気づくには、どうすればいいのでしょうか。鍵になるのが、自分を観察する力です。認知心理学を専門とする大阪大学名誉教授・三宮真智子氏に取材したとき、この力はメタ認知と呼ばれることを教わりました。*1
メタ認知とは、自らの認知を俯瞰して客観的に捉えること。「自分の頭のなかにいるもうひとりの賢い自分」をイメージするとわかりやすいかもしれません。(中略)自分の特性を認識していれば、それに応じた適切な対応策を用意することができます。
——三宮真智子氏(大阪大学名誉教授・認知心理学)
口グセは、その「自分の特性」を観察するための、もっとも身近な手がかりです。「あ、自分これ言っている」と気づいた瞬間から、その裏にある自分の思考のクセが見えはじめます。
では、4つの口グセを入口に、自分の思考のクセを覗いてみましょう。
口グセ1:引き受けるとき「できます!」「やります!」

上司から仕事を頼まれた瞬間、「できます!」「やります!」と前のめりに即答する。場の空気は良くなる。本人も貢献している気分になる。
ところが、引き受けたあとで自分の業務全体を見渡すと、「あれ、これいつやればいいんだろう」と詰まる。気がつけば期日が迫り、間に合わなくなって、結局上司に迷惑をかける。心当たりがあるなら、口グセの裏には見積もりを甘く見るクセが潜んでいる可能性があります。自分のキャパや必要な工数、他の業務との兼ね合いを把握しないまま、勢いで答えてしまう傾向です。
講師派遣型の社員研修を行う株式会社ヴィタミンM代表の鈴木真理子氏は、こう指摘しています。*2
いい顔をしようと「すぐやります!」なんて言ってしまうとどうなるでしょうか? (中略)結果、期日までに終えられず、上司や先輩に迷惑をかけることにもなってしまいます。(中略)自分が抱えている仕事の内容や必要な時間、労力を把握することこそ、段取りがいい人になるために最も重要な要素のひとつです。
——鈴木真理子氏(株式会社ヴィタミンM代表取締役)
「できます!」が口グセになっているなら、その裏に「自分の手元を見ていない」というクセがある——そう自覚するだけで、引き受け方は自然と変わっていきます。
こんな口グセ、ありませんか
「できます!」「やります!」と前のめりに即答する
その裏にある思考のクセ
良かれと思って引き受けているが、自分のキャパや工数を把握していない。見積もりを甘く見る傾向
口グセ2:頼まれたとき「難しいです」「ちょっと厳しいですね」

反対に、頼まれたら「難しいですね」「ちょっと厳しいですね」が口グセになっている人もいます。本人は、即答する人よりは慎重なつもりです。
けれど、「難しい」と返した仕事を、別の同僚があっさり引き受けて成果を出してしまう場面が続くと、上司のなかでは「あの仕事はいつもこの人が引き受けないな」という印象が積み上がります。心当たりがあるなら、口グセの裏には自分のキャパを過小評価するクセ、あるいは相手の期待に応えようという貢献意識が薄いクセが潜んでいる可能性があります。本当はやれる範囲があるのに、最初に「難しい」と防御してしまう傾向です。
三宮氏が語ったメタ認知が役に立つのは、まさにこういう場面。「難しい」と言いたくなった瞬間、もうひとりの自分が「いま自分は何を守ろうとしている?」と問い直してくれる。そこに気づくだけで、自分の防御グセが見えてきます。
こんな口グセ、ありませんか
頼まれたら反射的に「難しいです」「ちょっと厳しいですね」
その裏にある思考のクセ
慎重なつもりだが、自分のキャパを過小評価している、あるいは相手の期待に応えようという貢献意識がやや薄い傾向
口グセ3:何か言われたとき「でも」「だって」

何か言われたとき、ほとんど反射的に「でも」「だって」と返す。あるいは「どうせ」「だから(言ったのに)」が口グセになっている人もいます。ビジネスシーンで「4D言葉」とも呼ばれる、Dから始まる否定・防御の言葉たちです。
本人は自分の事情を補足しているつもり、あるいは諦めや正当化を口にしているだけのつもりです。けれど、聞いた側は「この人、まず反論から入るな」「指摘を受け止めないな」と感じます。それが続くと、相手は次第に話しかけることをためらうようになります。心当たりがあるなら、口グセの裏には指摘や提案を素直に受け取れず、自分を守ろうとする防御反射が潜んでいる可能性があります。
なぜ素直に受け取れないのか。認知心理学を専門とする東京科学大学リベラルアーツ研究教育院/環境・社会理工学院講師の栗山直子氏に取材したとき、その仕組みを教わりました。*3
仕事の場面で問題になりやすいのが、「感情と事実を結びつけてしまう」ことではないでしょうか。たとえば上司に叱られたとき、本来は「仕事上のミスを指摘された」という事実であるはずなのに、「自分の人格を否定された」と受け取ってしまうようなことです。こうした解釈の飛躍が、必要以上の落ち込みを生みます。(中略)だからこそ、「これは事実なのか、それとも自分の解釈なのか」と分けて考える姿勢が大切になります。
——栗山直子氏(東京科学大学講師・認知心理学)
「でも」「だって」が反射的に出るのは、相手の言葉を事実のまま受け取れず、自分への否定として解釈してしまうから。だから防御の言葉で押し返す。栗山氏が言うように、ここでも効くのがメタ認知です。「いま自分は、事実だけを聞いている? それとも勝手に解釈を足している?」——そう自問できれば、自分の防御グセが見えてきます。
こんな口グセ、ありませんか
何か言われたら反射的に「でも」「だって」「どうせ」「だから」と返す(4D言葉)
その裏にある思考のクセ
補足しているつもりだが、相手の言葉を事実のまま受け取れず、自分への否定として解釈してしまう。指摘を受け止めず防御で押し返す傾向
口グセ4:意見を聞かれたとき「○○さんが言ってたんですけど」「上が言ってるんで」

会議や1on1で意見を求められたとき、「○○さんが言ってたんですけど」「××って聞いたんで」と伝聞のまま返す人がいます。あるいは、部下や後輩に指示するときに「上が言ってるんで」「部長の方針なんで」と、上の指示を盾にする人もいます。どちらも本人は、情報を伝えているつもりです。
けれど、こうした受け答えが続くと、相手の中に「この人自身は、どう思っているんだろう」という疑問が積もります。気づくと、判断を要する場面で声がかからなくなる。心当たりがあるなら、口グセの裏には自分の判断を出すのを避けるクセが潜んでいる可能性があります。横の伝聞では「自分はあくまで取り次いだだけ」、上下の伝聞では「自分はあくまで上の指示を伝えているだけ」——どちらも、間違えたくない、責任を引き受けたくない、という気持ちが言葉の裏にある傾向です。
伝聞のまま返したり、上の指示を盾にしたとき、自分はその内容をどう判断しているのか。あるいは、判断すること自体を避けていないか。そう自分に問うたとき、自分のクセが見えてきます。
こんな口グセ、ありませんか
「○○さんが言ってたんですけど」「上が言ってるんで」と伝聞や上の指示を盾にする
その裏にある思考のクセ
情報を伝えているつもりだが、自分の判断を出すのを避けている。間違えたくない、責任を引き受けたくない気持ちが言葉の裏にある傾向
口癖が行動を作り、行動が言葉になる

4つの口グセを見てきました。「あ、自分これ言っている」と思ったものがひとつでもあれば、それが自分の思考のクセを知る入口です。
大切なのは、口グセを言い換えることではありません。口グセに気づくこと自体が、出発点です。自分の思考のクセに気づけば、そのクセが日々の行動にどう表れているかが見えてきます。見えてくれば、自然と整えたくなる。整えれば、行動が変わる。行動が変われば、相手の期待を少しずつ上回るようになります。
経営学者の中川功一氏に取材したとき、信頼の作り方の核心を教わりました。*4
信頼を上げるためには、101%の成果をあげ続けることです。これだけです。やや余分にがんばる。やや余分に努力する。そうやって、相手の期待をやや超え続けていく行動の連続が、信頼形成の唯一の道です。
——中川功一氏(やさしいビジネススクール学長・経営学者)
口グセに気づき、思考のクセを発見し、行動が変わり、期待を上回るようになる。そしてやがて、行動が新しい言葉を作っていきます。
口癖が行動を作り、行動が言葉になる。この循環の起点に、自分の口グセへの気づきがあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 口グセを変えただけで、本当に信頼されるようになりますか?
口グセを変えるだけでは信頼は変わりません。重要なのは、口グセを自分の思考のクセに気づく入口として使うことです。「できます!」と即答する自分に気づいた瞬間、「自分は見積もりを甘く見る傾向があるかもしれない」と発見できます。その発見が、行動を変えていく出発点になります。
Q. 自分の口グセを自覚するには、どうすればいいですか?
三宮氏は、自分の頭の状態に注意を向けて観察する「メタ認知的モニタリング」を推奨しています。日常のなかで「いま、自分はどう答えただろう」と一日に何度か振り返るだけでも、自分の頻出フレーズが見えてきます。同僚や上司に「自分、こういうこと言いがち?」と直接聞くのも有効です。
Q. 思考のクセに気づいても、すぐには変えられない気がします。
すぐに変える必要はありません。むしろ、いきなり変えようとせず、まずは自分にそのクセがあると認識するだけで十分です。気づきが積み重なれば、似た場面で同じ口グセが出そうになった瞬間、自分でブレーキがかかるようになります。そこから少しずつ、行動が整っていきます。
*1 STUDY HACKER|認知心理学の専門家が教える「頭がいい人」になる方法。メタ認知を活用すれば賢くなれる
*2 STUDY HACKER|仕事の成果を下げる「段取りが悪い人の口癖」4選。言いがちなものがあったら要注意
*3 STUDY HACKER|「吊り橋効果」にも潜む認知の罠。感情に振りまわされない人の思考習慣
*4 STUDY HACKER|いい人間関係を築ける人が実践している3つのこと。信頼を得る秘訣は「101%の成果」の積み重ね
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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