裁量労働制とは

・ 裁量労働制とは、与えられた業務をいつ、どのように進めるかが労働者の裁量に任せられており、実際に働いた時間にかかわらず一定の賃金が支払われる制度。労働基準法第38条によって定められており、一部の専門職にのみ適用されうる。2018年1月から3月現在まで続いている通常国会において、裁量労働制の対象を拡大することなどを含む「働き方改革関連法案」が提出される見込みだった。しかし、多くの反対を受け、3月1日に安倍晋三首相は同法案から裁量労働制の対象拡大について削除する方針を表明した。

・ 労働基準法第38条の3によれば、使用者が労働者の過半数と合意することにより、「業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務」に就かせた労働者が一定の時間働いたとみなすことができる。東京労働局によると、裁量労働制が適用される職種は、大学教授、記者・編集者、デザイナー、不動産鑑定士、税理士など19種類。

・ 裁量労働制が導入される場合、使用者には「当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置」を講じるなどの義務が生じる。また、「みなし労働時間」が法定労働時間を超える場合は残業代が払われなければならず、裁量労働制の適用された労働者が休日や深夜に働いた場合、使用者はその分の割増賃金を支払わなければならない。

なぜ裁量労働制が拡大されるのか

・ 2018年の通常国会に提出される見込みの働き方改革関連法案から裁量労働制の対象拡大が削除されたことについて、財界からは失望の声が多く上がっている。日本経済新聞は3月2日付の社説で「裁量労働制の対象業務の拡大は、できるだけ早く実現すべきだ」と述べた。社説によると、働いた時間に応じて賃金が支払われる一般的な制度には「働き手自身の生産性向上への意識が高まりにくいという問題」がある。「日本の成長力の底上げ」のためには、裁量労働制を適用できる業務を拡大すべきなのだという。

・ 裁量労働制の対象拡大について、日本商工会議所の会頭・三村明夫氏による「労働者が自分の生活パターンに合った働き方を求め、企業がいろんな働き方の選択肢を提供するものだ」という発言を毎日新聞が報じた。また、日本経済団体連合会の榊原定征会長も「柔軟で多様な働き方の選択肢を広げる改正として期待していただけに残念」と述べた。

・ 社会保険労務士の榊裕葵氏によると、裁量労働制のメリットは、働く時間と仕事の進め方を自分で決められるため、「自分で主体的に仕事をコントロールできる」ことである。また、仕事の合間に家事や育児もこなせるので、「仕事と私生活の両立が図りやすくなる」という。上で取り上げた三村氏や榊原氏の発言は、このようなメリットを念頭に置いていると思われる。

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裁量労働制の問題点

・ 一方、裁量労働制の対象業務を拡大することに反対する人は多い。毎日新聞が2018年2月24、25日に電話による全国調査を行ったところ、拡大に反対する人は57%、賛成する人は18%だった。2018年3月、野村不動産の社員が裁量労働制を違法に適用され、長時間労働による過労から自殺していたことが報道されたのも、裁量労働制拡大への反発をさらに強くした。一般的な営業職は、労働基準法第38条が定めている裁量労働制の対象業務外だが、野村不動産では多くの社員が営業を行いつつ裁量労働制を適用されていたという。

・ 労働問題に取り組む上西充子教授(法政大学)によると、労働者にとって裁量労働制のデメリットは大きい。裁量労働制を適用された労働者は、与えられた業務をどのようにこなすかを自分で決められるものの、与えられる業務量を自分で決定できないためだ。使用者にとっては、裁量労働制を適用された労働者がどれだけ長時間働こうとも、あらかじめ定められた賃金以上に残業代を支払う必要がないので、1人の労働者に多くの仕事を割り振るほど人件費が節約でき、「定額働かせ放題」という状態になる。上述した社会保険労務士の榊氏も、「どんなに創意工夫をしてもその時間内では明らかに終わらないような仕事を与えられた場合、法的には一応合法ではあるものの、実質的には『不払い残業』となってしまいます」と注意を促している。

(参考)
コトバンク|裁量労働制
労働政策研究・研修機構|Q6.裁量労働制とは何ですか。
e-Gov|労働基準法
産経ニュース|首相、裁量労働制削除を改めて表明 民進は高プロ除外も求める 参院で実質審議入り
東京労働局|専門業務型裁量労働制の適正な導入のために
毎日新聞|裁量労働制:削除に「残念」 財界から失望の声
毎日新聞|本社世論調査:裁量労働制の対象拡大「反対」57%
キャリアコンパス|裁量労働制拡大であなたも残業時間増? 知っておくべき制度の常識
TOKYO web|裁量制の社員が過労自殺 野村不動産、違法適用
立憲民主党|【衆院予算委】「裁量労働制の拡大と高度プロフェッショナル制度の創設は一括法案から外す決断を」上西公述人