「プレゼンといえばジョブズ」「ジョブズに学べ」――もう何百回と聞いた話ですよね。
正直「またか」と思った人も多いはず。
しかし、なぜ2025年のいまでも、プレゼンの話になると必ずジョブズの名前が出るのでしょうか?
じつは最近の研究で、ジョブズが独自に編み出していた手法は科学的に最適解だったことが次々と判明しています。
つまり彼は、科学的根拠がまだ解明されていない時代に、徹底的な研究と実践で「本番に強くなる方法」を先取りしていたのです。
そこで本記事では、18年経ったいまだからこそわかる、ジョブズが本当にすごかった3つの理由をお伝えします。
「本番に強くなりたい」と悩んでいる人は、ぜひご覧ください。
理由1:「失敗前提」で準備していた
ジョブズによるiPhone発表のプレゼンテーションは伝説的です。
しかしその舞台裏には、大きな問題がありました。
当時アップルのシニアマネージャーだったアンディ・グリニョン氏によると、リハーサルに使われたiPhoneはうまく動作しなかったそうです。*1
ソフトウェアが何度もバグを起こしていたら、多くの人はプレゼンを諦めるでしょう。
ところがジョブズは、iPhoneが正常に動作しているように見える「ゴールデンパス」というシステムをつくったうえ、12個ものデモ機をステージ上に準備して本番に臨みました。*1
つまり、失敗することを前提にして、対処法と代替案まで準備をしていたのです。
心配性は最強である
「もしも本番で失敗したら」という心配は、悪いことではありません。
メディア事業を手掛ける株式会社サイバーエージェントで専務執行役員を務める石田裕子氏は、「『心配だから行動する』ことの積み重ねが、ミスを防ぐための対策につながり」やすいと述べています。
本番に強い人は、ベストシナリオだけをイメージして本番に臨まずに、最悪の事態も想定し、それをどう乗り切るかのイメージを膨らませているので、感情が揺すぶられることなく実力を発揮することができるのです。
逆に本番に弱い人は、想定外なことやミスをすることがシナリオに入っておらず、その分焦ってパニック状態に陥り、修正がきかずにさらに失敗しやすくなるという悪循環に陥りがちです。*2
私たちも、ジョブズと同じように様々なシナリオを準備しておきましょう。
たとえば「もし資料に不備があったら」「もし緊張で原稿が飛んだら」など、「もしも」 の心配事をリストにする方法があります。
これらの対処法を考えておけば、本番になって慌ててしまうことも減らせるはずです。
- 3つのシナリオ思考:最高・普通・最悪を想定
- 「もしも」リスト作成:「もし○○したら?」を20個書き出す
- 代替案の代替案:Plan Cまで用意しておく
理由2:「本番環境」へのこだわり
ジョブズはリハーサルを入念に行なったと述べましたが、特に注目すべきは「本番に近い環境」へのこだわりです。
初代iPhoneの開発に携わったケン・コシエンダ氏は、ジョブズが本番のプレゼンのようにリハーサルをしていたのを見ていました。
たとえ少数の幹部の前で練習するとしても、何千人もの人に話すように大きな声で、身振り手振りを使っていたそうです。*3
さらに土日には、実際の会場となったモスコーニ・センターへ足を運び、舞台上で1日2回のリハーサルを行なったといいます。
このとき、話す内容や流れはもちろん、服装までも本番と同じにしたほどの「本番環境」へのこだわりでした。
他人の目が与える影響
ジョブズのリハーサルは、常に数千人の目にさらされる前提で行なわれていました。
これは「動因理論」という科学的根拠に基づいた方法なのです。
公認心理士の大美賀直子氏によると、動因理論とは次のような心理的作用です。
【簡単な作業(ポジティブ)】
- 他者の目:適度な緊張感
- 作業性能:スムーズにできる
【複雑な作業(ネガティブ)】
- 他者の目:プレッシャー
- 作業性能:失敗しやすい
*4より筆者がまとめた
つまり他者に見られるという状況は、簡単で得意な作業ではポジティブに、複雑で苦手な作業ではネガティブに働く傾向にあるということです。
大美賀氏は「難易度の高いものは何度も何度も繰り返し練習をして、自分にとっての『単純課題』にしておくことが成功への鍵」だと述べています。*4
ジョブズのリハーサル方法は、大勢の前で話すことを単純課題にする作業だったということです。
たとえ一人や少人数での練習でも、本番同様の声量で話すことは真似ができるでしょう。
「見られている」状況をつくるには、自分が話すところをビデオで撮ったりオンライン会議で聞いてもらったりするのがおすすめです。
- 録画練習:スマホで撮影して客観視
- Zoom練習:オンライン会議で同僚に聞いてもらう
- 実地練習:可能なら実際の会場で最終確認
- 時間制限練習:本番の80%の時間で完璧に話せるまで練習する
理由3:「不安を書く」という習慣
ジョブズのプレゼンテーションはユーモアが利いており、会場が笑いに包まれた瞬間もあることは有名です。
多くの人は「本番はただでさえ緊張するのに、気の利いたことを言えるほどメンタルが強くない」と感じるでしょう。
しかし、「メンタルを強くする」「緊張しない」といった精神論はもう昔の話。
不安を抱えていてもいいのです。
しかし、その不安は書き出しておくことで、本番に余裕をもたせることができます。
行動に注力するために
アメリカの認知科学者で、ダートマス大学学長のシアン・ベイロック氏が行なった研究では、不安を書き出すだけでテストの成績が向上するという結果が出ています。
テストに関する不安を10分間書き出すと、成績が約1点上がったと言うのです。*5
ベイロック氏によると、「プレッシャーのかかる状況は、脳の処理能力の一部であるワーキングメモリを消耗させる可能性」があり、「優れた成果を上げるために必要な脳の力が奪われてしまう」と言います。*5
つまり、脳のワーキングメモリの負荷を減らし、成果への行動に注力するために、不安を書いて発散する必要があるのです。
- 本番1時間前の10分間に書く
- 「心配なこと」をひたすら書く
- 「○○が起きたらどうしよう」と具体的に書く
- 書き終わったら、紙を破って捨てる
これで、頭がすっきりとして冷静に本番を迎えられるはずです。
***
なぜジョブズは「語り継がれる」のか――答えは簡単。
彼が独自に編み出した手法が、現代の科学で「正解」だと証明されたからです。
ジョブズは理論が確立される前に、徹底的な研究と実践で「本番に強くなる方法」を発見していました。
だから18年経っても色褪せない。むしろ、科学の進歩で「先見の明があった」と再評価されているのです。
- 失敗前提の準備:心配性を武器にして代替案を作成
- 本番環境練習:複雑な作業を単純作業に変える反復練習
- 不安の書き出し:脳のメモリを本番に集中させる科学的手法
「またジョブズかよ」と思ったあなたも、きっと納得したはず。
彼が本当にすごいのは、プレゼンテーションの技術ではなく、科学的根拠がない時代に独自研究で「本番で実力を発揮する仕組み」を完成させていたことなんです。
明日からあなたも、この「科学的に正しいジョブズ式」を実践してみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 The New York Times|And Then Steve Said, ‘Let There Be an iPhone’
*2 日経COMEMO|本番に強い人と弱い人の大きな違いとは。ここぞという場面で力を発揮するために必要なこと
*3 Inc.|A Long-Time Apple Designer Reveals Steve Jobs’s 6-Step Rehearsal Process He Used for Every Presentation
*4 All About|「本番に強い人」と「プレッシャーに弱い人」の大きな違い
*5 UChicago News|Writing about worries eases anxiety and improves test performance
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。