
1on1で、部下が「最近、ちょっと迷っているんですよね」と切り出した。あなたは話を聞き、「ああ、そういうことか」と理解して、自分なりに言葉をかけた。部下も「ありがとうございます」と頷いた。
けれど数日後、ふとした拍子に思う——「あのとき、私はほんとうに、彼の言いたかったことを受け取れていたんだろうか」。
同じ会社で、同じチームで、同じ言葉を使っている。それなのに、なぜか話がかみ合っていなかった気がする——そんな感覚を、1on1の場で覚えたことはありませんか?
対話型ワークショップを通じて組織開発を支援している私たち KURUMAZA に、現場のマネージャーから打ち明けられるもうひとつの悩み。それが、この「話がかみ合っていない気がする」という違和感です。
じつは、この違和感には、はっきりとした出どころがあります。あなたが、相手の話から「絵」を結ぶのが速すぎるのです。仕事ができる人ほど、3割ほど聞いた段階で「ああ、こういうことね」と像が立ち上がってしまう。そしてその像で、もう理解が完成してしまう——これが、対話を静かにずらしていきます。
前回までの記事では、上司と部下のあいだに生じる「ズレ」、それを話題にできる「聞ける環境」、そして1on1の「時間」の設計についてお伝えしてきました。今回はその先の話。頭のなかで描いている「理解の像」を、どうやって部下とすり合わせるか。タイワマンと一緒に、見ていきましょう。
取材・文/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
KURUMAZA(くるまざ)
KURUMAZAは、車座になって対話する機会を提供し、関係性に変化を起こし課題を解決しながら組織力強化を図る会社です。人間関係によって生じているチーム内の問題を完全オーダーメイド型のワークショップによって解決します。
仕事ができる人ほど、頭のなかで像を結ぶのが速すぎる
マネージャーとして結果を出してきた人には、ある特徴があります。それは、相手の話を聞きながら、頭のなかに状況の絵を描くのが、とても速いということ。
部下が話し始めて3割ほど聞いたところで、もう絵が結べてしまう。「ああ、たぶんこういう案件で、こういう人が絡んでて、こういう状況だな」——具体的な構図がパッと立ち上がる。マネージャーとして数えきれない案件を捌いてきた経験が、瞬時の像をつくりあげているのです。
これは大きな能力です。会議で短い説明を聞いただけで全体構造を把握できるのも、複数の案件を並列で動かせるのも、この能力のおかげ。あなたがマネージャーという役割を任されているのは、この「像を結ぶ速さ」を評価されてきたからでもあるはずです。
ところが、対話の場では、この能力が思わぬ落とし穴になります。
絵が結べた瞬間、脳はそこで「理解した」と判断して、処理を止めてしまう。「ああ、そういうことね」と頭のなかでうなずいた瞬間、相手の話の続きを、ほんとうの意味では受け取らなくなるのです。
厄介なのは——その絵は、あなたの経験と参照枠で組み立てた絵だ、ということ。部下の頭のなかにある絵とは、じつは違う。同じ言葉を使っていても、ふたりが見ている景色は違うのです。
話がかみ合わないのは、あなたの理解力が足りないからではありません。
あなたが自分の絵で、理解を完成させてしまうのが速すぎるからです。
そして、いったん絵が結ばれてしまうと、その後で部下が補足する情報は「もう知っていること」「些末な詳細」として処理され、頭の奥には届かなくなる。ズレに気づくチャンスは、その瞬間に閉じてしまうのです。
「君が描く絵は、たぶんすごく鮮やかなんだよ。だからこそ、部下の絵を見せてもらう前に、自分の絵で完成させちゃう。悪いのは描写力じゃなくて、描くタイミングなんだよね」

頭のなかで処理するのを、やめる
では、どうすればいいのか。
シンプルな事実から考えはじめます。頭のなかで処理しようとするから、苦しくなるし、ズレも生まれる。あなたの頭のなかで起きていることも、部下の話から立ち上がっていることも、頭のなかに抱え込んだままにしていることで、対話はぎこちなくなっていきます。
答えはひとつ。頭のなかにあるものを、紙の上に出す。自分のなかにあるものも、相手の話から受け取ったものも、いったん外に出してから扱う。今回お伝えする2つの技は、どちらもこの「外に出す」を実行するためのものです。
頭のなかで処理しない。紙の上に出してから、扱う。
自分のなかにあるものも、相手の話から立ち上がったものも——いったん、外に出す。
その視点でいま一度、対話の場を組み立て直してみる——というのが、今回お伝えする2つの技です。
「頭のなかでぐるぐる処理しようとするから、しんどくなるんだよね。自分のなかにあるものも、相手から受け取ったものも、ひとまず紙に出してしまう——それだけで、頭のなかが静かになるんだよ」
頭のなかを外に出す、2つの技
1|割り込みたくなった衝動を、メモに逃がす
ひとつ目は、あなた自身の頭のなかを外に出す技です。
部下の話を聞いていると、途中で「言いたいこと」が次々に浮かんできます。「いや、それは違う」「ここを補足しないと」「あの件と関係あるな」——どれも、あなたの優秀な脳が瞬時に処理した、まっとうな反応です。
でも、これをその場で口に出してしまうと、部下の話は折れます。話の流れは断ち切られ、部下の頭のなかにあった絵は、出てくる前に消えてしまう。
かといって、頭のなかにためたままでは、忘れてしまうのが怖くて、つい割り込みたくなる。これは脳の自然な反応で、意志でこらえるのには限界があります。
解決はシンプルです。口に出さず、手元に書く。
1on1の机にA4の紙を1枚置いておき、聞きながら「言いたい」と思ったことを、その紙の端に一行ずつメモしていく。「コスト感のズレ」「他案件との優先順位」「進め方の前提を確認」——キーワードだけで構いません。
これが効くのは、構造としてとてもシンプル。「あとで言える」とわかっている人は、いま黙れるからです。書いた瞬間、頭のなかから出て、紙の上で待っている状態になる。だから自分のなかから「いま言わなきゃ」という焦りが消えて、相手の話に戻ってこられる。
そして部下の話が終わったら、メモを見ながら順番に渡せばいい。「いまの話で、私のほうから3つ確認したいことがあるんだけど」と。あなたが伝えたいことは、ちゃんとその日のうちに、しかも整理された形で渡せます。
「言いたいことを消そうとすると、逆に膨らむんだよね。消さずに、紙に逃がす。それだけで、頭のなかが静かになって、部下の話がちゃんと入ってくるんだよ」
2|部下の話を、紙の上に書き出していく
ふたつ目は、部下の頭のなかを外に出す技です。
部下の話を聞きながら、聞いた内容を紙に書き出していく。話の論点、出てきた人名、状況の整理、課題の構造——あなたが頭のなかで自然にやっている「絵を描く」作業を、紙の上でやるのです。
そして、ある程度たまったところで、紙を部下のほうに向けて、こう言います。
「ここまで私はこう理解したんだけど、合ってる?」
たったこれだけで、対話の質はがらりと変わります。
まず、あなたの頭のなかの絵が、紙の上に出ている。部下から見ても、あなたが何をどう理解したのかが具体的に見える。「ああ、ここは私の言いたかったことと違います」「この部分は、もうひとつ重要な背景があって……」——部下のほうから、ズレを埋める言葉が自然と出てきます。
もうひとつの効用は、部下の側にとっての効用です。話していたときは漠然としていた自分の頭のなかが、紙の上に並んだとたん、構造として見えるようになる。「自分は、こう考えていたのか」と、部下自身が気づくのです。
マネージャーであるあなたの仕事は、部下に答えを渡すことではなく、部下が自分の頭で正しく状況を捉え直せるよう支援すること。紙に書き出すという行為そのものが、その支援になっているのです。
「紙の上に出した瞬間、それは"君の理解"でも"部下の理解"でもなくて、"ふたりで見ている共通の絵"になるんだよね。同じ絵を見ているふたりにしか、ほんとうの対話はできないんだよ」

「可視化の力」を、対話そのものに向ける
今回ご紹介した2つの技は、どちらも、あなたがこれまで培ってきた「頭のなかを構造化して紙の上に出す力」を、そのまま転用するだけです。
自分の言いたいことを、紙の上にためる。部下の話を、紙の上に書き出していく。性格を変える話でも、特別なテクニックを覚える話でもありません。頭のなかで処理していたものを、外に出す。それだけのことです。
連載もこれで4回目です。ここまで読み進めてきたあなたは、もう対話を「性格の問題」としてではなく、「設計の問題」として捉える視点を手にしているはずです。気合や根性で乗り切る話ではなく、自分が培ってきた力をどこに向け直すかの話だ、ということ。これは、いまの時代のマネージャーにとって、決して小さな獲得ではありません。
「言葉だけで通じ合おうとしないで、紙に出してみて。それだけで、部下の絵と、君の絵が、はじめてぴったり重なる瞬間が来るよ。その瞬間を、君はもう手にできる場所にいるんだよ」
明日の1on1から、机に紙を1枚置いてみてください。割り込みたくなったことを書き留め、部下の話を書き出して、見せてみる。
それだけで、対話は「言葉のキャッチボール」から「ふたりで紙を覗き込む共同作業」に変わります。むしろそこにこそ、部下を育てるマネージャーの本領が宿るのかもしれません。
タイワマンと一緒に、不器用でも誠実に。あなたの職場の対話が、すれ違いから理解へと、確かに進んでいきますように。

よくある質問(FAQ)
Q1. 1on1中にメモを取っていると、部下に「ちゃんと聞いていない」と思われませんか?
逆です。多くの場合、部下は「自分の話が大事なものとして扱われている」と受け取ります。コツは、書き始めるときに「いまの話、大事だから書き留めるね」と一言添えること。それだけで、メモを取る行為は「聞いていないサイン」ではなく「真剣に向き合っているサイン」に変わります。
Q2. 「ここまでこう理解したんだけど、合ってる?」と聞いたら、部下が黙ってしまったらどうすればいいですか?
黙ったということは、何かしらの違和感があるサインです。焦って自分で埋めず、「気になるところがあれば、どこからでも教えて」と、もう一度待つ。それでも難しそうなら、紙のなかの特定の部分を指して「ここは私の解釈で書いたけど、ほんとうにそうかな?」と具体的に問い直すと、答えやすくなります。
Q3. メモや紙を使うと、対話がぎこちなくなりませんか?
最初の数回は、たしかに少しぎこちなくなります。ただ、3回目あたりから、部下のほうも「紙に書きながら話す場」だと理解して、整理された話し方をするようになります。雑談ベースで「なんとなく話している」状態から、「ふたりで考えを整理している」状態へと、対話そのものの質が変わっていきます。
Q4. 書く時間がないほど忙しい1on1のときは、どうすればいいですか?
すべての論点を書き出す必要はありません。一番大事なのは「私はこう理解したんだけど、合ってる?」の一言を、対話の途中で一度入れることです。書き出すのは、その確認のときだけでも構いません。短い時間の1on1ほど、最後にこの一言を入れる価値が高くなります。
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役。
1977年生まれ、福岡県出身。2010年に株式会社恵学社(現・株式会社イングリッシュカンパニー)を創業。2014年に学習メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ、編集長を通算10年以上務める。
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