整理を捨てたノートで、思考が整理される

筆者がアイデアを出すために書いたノート

会議中、「きれいにメモを取らなきゃ」と意識する。箇条書きにして、色ペンで分類して、図解も入れて――気づけば、上司が話している内容が全く頭に入っていない。ノートは整っているのに、何が重要だったのか思い出せない。

「後で見返すために」と丁寧に書いたノート。実際には見返すことはほとんどなく、引き出しの肥やしに。アイデアを書き留めようとしても、「どう整理しよう」と考えているうちに、肝心のアイデアが消えてしまう……。

これは決して特別なケースではありません。多くのビジネスパーソンが「整理されたノート」への強迫観念に縛られ、本来の目的――思考を整理すること――を見失っています。

実は、思考を整理するのに「整理されたノート」は必要ありません。むしろ、殴り書きこそが最強の思考整理ツールなのです。

この記事では、ノートとペンさえあればできる「殴り書きノート術」で、頭をスッキリさせる方法をお伝えします。

「整理されたノート」が思考を止める3つの理由

なぜ「きれいなノート」が思考を妨げるのでしょうか。3つの理由があります。

理由1. 書式に気を取られて、内容が疎かになる

色分け、レイアウト、図解――ノートを美しく仕上げることに意識が向くと、「どう書くか」が「何を考えるか」を邪魔します。書くことが目的化してしまい、思考そのものが停止してしまうのです。

理由2. 完璧主義が思考の流れを止める

「もっときれいに書き直そう」「ここは消して書き直そう」――こうした完璧主義は、思考のスピードにブレーキをかけます。頭の中でアイデアが次々と湧いているのに、手が追いつかない。書き直しや消しゴムで時間をロスしているうちに、大切な思考の流れが途切れてしまいます。

理由3.「後で見返す用」は結局見返さない

きれいに書いたノートは「保存版」になりすぎて、かえって見返しにくくなります。そして実際、ほとんどの人は見返しません。ノートは思考の「過程」を記録するものであって、美しい「結果」を残すものではないはずです。

びっしりと書かれて積まれたノート

思考を加速させる「殴り書きノート」3つのルール

では、どうすれば思考を整理できるのか。答えは「殴り書きノート」にあります。

殴り書きノートとは、「整理されていないノート」こそが、脳の外部メモリとして機能し、思考を自由にするという考え方に基づくノート術です。

やり方はシンプルで、次の3つのルールだけです。

 

ルール1:思いついた順に書く(整理しない)
頭に浮かんだ順番がそのまま思考の流れ。後から並び替えない、カテゴリ分けしない。

ルール2:書き直さない、消さない
間違いも、重複も、矛盾も全部残す。それらも含めて「思考の痕跡」。

ルール3:装飾しない
色分け不要、枠線不要、図解不要。黒ペン1本で十分。

「整理を捨てる」ことで、思考は自由に流れ始めます。書くことへのハードルが下がり、頭の中にあるものをそのまま紙に移せるようになるのです。

脳内がモヤモヤしているビジネスパーソン

なぜ殴り書きが脳に効くのか

「ただ書きなぐるだけで本当に効果があるの?」と感じる人もいるかもしれません。しかし研究によって、殴り書きの効果は実証されています。

効果1:ワーキングメモリの解放

脳のワーキングメモリ(作業記憶)には限界があります。「あれも覚えておかなきゃ」「これも忘れないようにしなきゃ」と脳のメモリを占有していると、肝心の思考に使えるリソースが減ってしまいます。

殴り書きで情報を紙に移すことで、脳のメモリが解放され、より深い思考や創造的なアイデアに集中できるようになるのです。

効果2:フリーライティング効果

テキサス大学オースティン校教授のジェームズ・ペネベーカー氏の研究では、感情や思考を自由に書き出すことで、ストレスが軽減し、認知機能が向上することが示されています。*1

手を止めずに書き続けることで、自己検閲がなくなり、無意識に眠っていた本音や本質的な考えが表面化します。これが問題解決やアイデア創出につながるのです。

効果3:完璧主義からの解放

「汚くてもいい」「間違ってもいい」という許可が、創造性を高めます。心理学の研究では、完璧主義が創造的思考を阻害することが示されています。

殴り書きノートは、失敗を恐れない思考パターンを育て、新しいアイデアを生み出しやすくするのです。

 
 
 

日本でジャーナリング(書く瞑想)の普及を進める吉田典生氏は、「時間を決めて手を止めずに書く」ことの重要性を強調しています。書くことで思考が整理され、脳がリラックス状態になることが、脳波測定でも確認されているといいます。*2

腰かけて手にもったノートに書き込むビジネスパーソン

実際に1週間試してみた

筆者も実際に殴り書きノートを1週間実践してみました。使ったのはA5サイズのノートと黒のボールペン1本だけです。

実践1回目:企画アイデア出し

「新しい記事企画を考える」というテーマで、5分間タイマーをセットし、思いつくままキーワードやフレーズを書き殴りました。

筆者がアイデアを出すために書いたノート

筆者がアイデアを出すために書いたノート
※画像は筆者が作成した

矢印や二重線――見た目はぐちゃぐちゃです。でも驚いたことに、書いているうちに「これだ!」というアイデアが自然と浮かんできました。きれいに整理しようとしていたときには出てこなかったアイデアです。

実践2回目:仕事の問題整理

プロジェクトがうまく進まない理由を整理するために、「なぜうまくいかない?」という問いから書き始めました。

筆者が問題を書き出したノート

筆者がうまく進まない理由を書き出したノート
※画像は筆者が作成した

思いつくまま原因や状況を書き出していくうちに、書く前には気づかなかった問題の本質が見えてきました。「ああ、ここがボトルネックだったのか」という発見がありました。

実践3回目:モヤモヤの言語化

なんとなく気持ちがモヤモヤする日に、「今、何を感じている?」と書き始め、感情をそのまま吐き出しました。

筆者の感情を吐き出したノート

筆者の感情を吐き出したノート
※画像は筆者が作成した

書き終えた時には、不思議と頭がスッキリしていました。クリアリングノートの左ページと似た使い方ですが、「整理しない」ことで、より素直に感情を出せた気がします。

筆者の感想

最初は「こんな汚いノートでいいのか?」と不安でした。でも3日目くらいから、書くスピードが上がり、考えながら書くのではなく、書きながら考える感覚を掴めました。

特に印象的だったのは、きれいに書こうとしていた時には出てこなかったアイデアや本音が、殴り書きでは自然に出てきたこと。頭の中がクリアになり、次のアクションも明確になりました。

こんなときに使ってみて――殴り書きノートが効く3つのシーン

殴り書きノートは、特定のシーンで特に効果を発揮します。

1. アイデアを出したいとき

ブレインストーミング、企画の初期段階、「何か新しいことを考えたい」とき――こんな場面で殴り書きノートは最強です。

  • 具体的なやり方
    テーマを1行書いたら、5分間手を止めずに関連する単語、フレーズ、疑問を書き続ける。質より量を重視し、思いつく限り書き出します。

2. 問題を整理したいとき

「なぜうまくいかないんだろう?」という疑問、トラブルの原因分析、複雑な状況の整理――問題の本質を見つけたいときにも有効です。

  • 具体的なやり方
    「問題は何か?」と書いて、思いつくまま原因、関係者、状況を書き出す。書いているうちにパターンや共通点が見えてきます。

3. モヤモヤを吐き出したいとき

言葉にならない不安、漠然としたストレス、頭の中のノイズ――感情を整理したいときにも殴り書きは効果的です。

  • 具体的なやり方
    「今、何を感じている?」から始めて、感情をそのまま書く。クリアリングノートの左ページと同じ使い方です。

よくある質問

Q1:本当に後で見返さなくていいの?

A:殴り書きノートの目的は「書く瞬間に思考を整理すること」。多くの場合、書き終えた時点で頭は整理されています。必要なら見返してもいいですが、それが目的ではありません。

Q2:仕事の記録はどうすればいい?

A:殴り書きノートは「思考整理用」、記録や共有が必要な情報は別のノートやツールで管理しましょう。用途によって使い分けることが大切です。

Q3:デジタルでもできる?

A:可能ですが、手書きの方が効果的。手を動かすことが脳を活性化させ、タイピングよりも思考が深まる研究があります。*2

ノートに書き込もうとする人の手元

「整理しない勇気」が思考を解放する

殴り書きノートは、特別な技術も費用も不要。必要なのはノートとペン、そして「きれいに書かなくていい」という許可だけです。

  • 書くスピードで思考が加速する
  • 完璧主義から解放され、創造性が高まる
  • 頭の中が整理され、次のアクションが明確になる

***

「後で見返すため」ではなく、「今、考えるため」のノート。整理を捨てたノートで、あなたの思考は驚くほど整理されます。

今日から、殴り書きを始めてみませんか?

※引用の太字は編集部が施した

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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