
「紙に書く」、ただそれだけで夢が現実に近づくと言ったら、あなたはどうしますか?
映画『マスク(1994)』で知られる俳優ジム・キャリー氏は、無名時代に「1,000万ドル」と記した手づくりの小切手を携帯し、その後、本当にその額に到達しました。
このエピソード、単なる美談ではありません。なぜなら、誰もが実践できる方法だからです。たとえば、ビジネスでも活用できます。新規事業、課題解決、スキル習得など、モヤモヤと頭のなかにある「やりたいこと」を書き出すだけで現実味が増し、「未定」が「予定」に変わるのです。
これは、書くことで意思決定と行動を加速させるという、人間の認知メカニズムを示す実例なのです。では、「紙に書いた人」の未来はどう変わったのか、実際にあった物語を見てみましょう。
「書くこと」で夢を叶えた人々
Writing Resources(セミナーおよびコンサルティング組織)社長のクロウザー博士は、著書『夢は、紙に書くと現実になる!(Dream becomes real when writing on paper!)』(PHP研究所)のなかで、マリアンという女性を紹介しています。
マリアンはたくさんの子どもを抱えながら、アルツハイマーの母親の世話をするという大変な生活を送っていました。そんな彼女が書いていた日記には、のちに彼女が事業者として関わることになる、家庭的な雰囲気の「グループホーム(※1)」を示す内容が記されていたそうです。驚くべきことに、それを書いたのは、まだ本人が介護事業に関わる意識などなかったときでした。
このように、アイデアを先に書き出すことで目標が定まり、必要な情報や人材、チャンスに敏感になるのです。冒頭のジム・キャリー氏のエピソードも、この働きの延長線上で理解できます。
(※1. グループホーム:認知症の⾼齢者が、専門スタッフの援助を受けながら共同生活を送る小規模の介護施設)
なぜ「書くこと」が役立つのか
前出のマリアンは、夢を叶える過程で「"書くこと" が重要なプロセスになっていたことに驚かなかった」と振り返ります。
なぜ書くことが重要なのか。理由は大きく3つあります。
1つ目は、目標が明確になること。 夢を書き出すと、自分が把握していることや本当に望んでいることがはっきりします。
2つ目は、行動のきっかけになること。 書くことで、「まず1歩を自分で踏み出す必要がある」と気づかせ、次の行動へと導きます。
3つ目は、継続する勇気が育つこと。 進捗や小さな成功のサインを書き留めていくことで、前に進む力が湧いてきます。
見た目はシンプルでも、「書くこと」は思考を整理し、決断を促し、行動を継続させる強い効力があるのです。
では実践です。次章では、この効力を確かめるために、実際に紙に書き出してみます。

曖昧なことを書き出してみた
これまでの内容をふまえ、筆者も以下の項目で書いてみることにしました。
・ モヤモヤと頭のなかにある「やりたいこと」
・ やりたいことの「背景にあるもの」「躊躇する原因」「実行のアイデア」
線を簡単に引きやすく、文字もきれいに見える「方眼ノート」(8mm方眼罫6号・セミB5)をヨコ使いにして書きます。毎回書くのは面倒なので、上の項目は1と2の数字のみで示すことにしました。書くスペースはあえて狭くして、「たくさん書かなければ!」というプレッシャーを軽減します。

そして、いざ書いてみると、意外な発見がたくさんありました。
モヤモヤした思いには深さがある
頭のなかでボンヤリと望んでいたことや、そのテーマについて書き出してみると、想像以上にすぐスペースがいっぱいになってしまいます。頭のなかでモヤモヤしていただけで、実際にはいろんな思いが詰まっていたのです。

書き方がバレットジャーナルのように箇条書きになっていますが、これは書きやすさから、自然とそうなりました。ちなみに筆者が1の項目で書き出した「やりたいこと」は、以下のような取り留めのないものでした。
・ 音楽をつくってみたい
・ 昔の体型に戻りたい
・ バラバラに置かれている本をなんとかしたい
・ 映画に関わるサイトをつくりたい
続いて、2の項目では内容を限定しすぎず、「やりたいことの背景にあるもの・躊躇する原因・実行のアイデア」などを、自由に書き足すようにしています。
たとえば「音楽をつくってみたい」という思いには、子どもの頃に楽しかったオルガンでの自由な創作活動が、いまだからこそ意味あるものだと感じ、あの感覚をまた味わいたくなった背景がありました。そして、手段がないから行動するのを躊躇しているが、「方法は探せる」と自覚することもできました。
簡単なフォーマットでも、書くだけで思考が整理され、考えていることが立体的になって、具体化し、取り組みを始めるヒントが生まれやすくなったのです。
「書くこと」で刺激される脳のメカニズム
じつは、「書くこと」は脳のRAS(Reticular Activating System)を刺激します。RASとは、覚醒状態を維持する脳内メカニズムのことで、関心事の情報を集める際に鋭敏になる脳の機能です。
たとえば、英語学習中の人が「リスニング」「シャドーイング」といったキーワードに敏感になることも、その働きによるものだとか。
書くことでRASが刺激されると、大脳皮質に「目覚めよ、注意して細部まで見逃すな」という信号が送られます。つまり、夢や目標を紙に書き出すことで、脳が注意を呼び起こしてくれるのです。

「未定」を書けば「予定」になる
最後に強調したいのは、壮大な “夢” でなくとも、なんとなく「こうしたい」と思っていることを紙に書くだけでも効果がある、という点です。 今回の目的は、「頭のなかの曖昧なもの」をノートに書き出し、脳の負荷を下げて集中しやすくすることでした。
また、クロウザー博士は、行動をためらうときには必ず理由があると指摘します。何を不安に感じているのか、どんな思い込みがブレーキになっているのか、それらを言葉にして書き出すことを勧めています。可視化することで、不要な恐れや誤解がほどけ、次の一手が見えてくるのです。
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今回は、方眼ノートに書くだけで「未定」を「予定」に変えるノート術をご紹介しました。日々の生活や仕事でも、ぜひ取り入れてみてください。
ヘンリエッタ・アンクロウザー著, 野津智子訳(2008),『夢は、紙に書くと現実になる!』, PHP研究所。
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