オンラインが主流になったいま、その恩恵を多くのビジネスパーソンが享受しています。通勤しなくていい、効率的に時間を使える、ストレスが減るなど、たしかにZoomなどのツールによって働き方は格段にスマートになりました。しかし、著書『会う力 シンプルにして最強の「アポ」の教科書』(新潮社)を上梓したプロインタビュアーの早川洋平さんは、こうした便利さの裏で失われているものがあると警鐘を鳴らします。早川さんが考える、「人と会う」ことの効能を聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
早川洋平(はやかわ・ようへい)
1980年7月24日生まれ、神奈川県出身。中国新聞記者等を経て2008年に起業。羽生結弦、吉本ばなな、高田賢三、ケヴィン・ケリーら各界のトップランナーから市井の人々まで、国内外・分野を超えてインタビューを続ける。2013年からは戦争体験者の肉声を発信するプロジェクト『戦争の記憶』にも取り組む。『We are Netflix Podcast@Tokyo』『横浜美術館「ラジオ美術館」』『石田衣良「大人の放課後ラジオ」』等メディアプロデュースも多数。インタビューメディア『LIFE UPDATE』配信中。
早川洋平WEBサイト
本当に必要な情報は、「人と会う」ことで効率的に得られる
コロナ禍を経てZoomなどオンライン会議ツールが浸透したことで、以前と比べると人と直接会う機会が大きく減りました。しかし、人と会うことは、「コスパ・タイパ最高のライフチェンジハック」だと思うのです。
仕事、プライベートを問わず、意図的に誰かに会う場合、そこにはなんらかの目的が存在します。そして、その目的の多くは、自分に必要な知恵や能力を相手から吸収したいといったものでしょう。もちろん、本などのメディアを通じてもそうしたことは可能です。でも、それは「ある程度」というところにとどまるはずです。なぜなら、自分が知りたいことに100%リーチしたコンテンツに出会う可能性はそう高くないからです。
一方、自分の趣味の世界、あるいは仕事の分野の第一人者に会って直接話を聞けるとしたらどうですか? 本には書いていなかったこと、ずっと疑問に思っていたことなど、自分が求めることについてピンポイントで話を聞くことができ、その回答だってインストールし放題です。あれやこれやと多くのメディアにあたったりリサーチを繰り返したりすることに比べ、まさしくコスパ・タイパ最高の方法と言えるはずです。
また、仕事に限ったことで言うと、「企画作成や提案の突破口を得られる」のも人と会うことのメリットであると考えます。人と会うことで、「要件という箱」から脱せるからです。
メールや電話はたしかに効率がいいものですが、一般的には必要な要件を簡潔にまとめて伝えることが求められます。そうなると、「要件という箱」のなかに閉じ込められてしまうため、「要件以外のこと」についてのコミュニケーションがほとんど発生しないというデメリットが生まれます。
ところが、直接会う場合、僕たちは自然と雑談をします。そのような「要件以外のこと」についてのちょっとした雑談から仕事につながるヒントを得られたという経験は、多くのみなさんにあるのではないでしょうか。
人と会えば、行動力と感性が育まれる
加えて言えば、「行動力と感性が育つ」ことも、人と会うことによってもたらされるメリットです。現代では、正解主義や完璧主義に縛られて失敗を過度に恐れるために、「行動を起こせない人」が増えているという話も見聞きします。そういう人はチャレンジを回避する傾向が強いのですから、仕事で大きな成果を挙げることも難しくなるでしょう。
そのような状況を打破するために必要なものはただひとつ、「場数」です。僕の仕事は、プロインタビュアーです。いわゆる有名人や著名人にも会うわけですから、いまでもまったく緊張しないということはありません。それでも、これまでのキャリアを通じて多くの人と会う場数を踏んできたことで、緊張しすぎて思うように取材できないことはありません。
思いきってアポを入れたらあんなすごい人にも会えた、話を聞けた、そしていい仕事ができた――。そういった場数、成功体験を積み重ねていくことで、人に会うことに限らず、「こんなチャレンジもしてみよう」という行動力が高まっていくのだと思っています。
また、そうして場数を踏んでたくさんの人に会うことは、自身の感性にも好影響を与えます。たとえば趣味でカメラを始めたばかりの人が、プロのフォトグラファーに会って話を聞くとします。もしかしたら、ひとりのフォトグラファーに会っただけでは、「やっぱり自分には難しそうだ……」と思うこともあるかもしれません。フォトグラファーの感性や技術、あるいはそれらの伝え方もそれぞれであり、現時点の自分に合わない相手だという可能性もあるからです。
でも、そこでめげずに5人、10人と別のフォトグラファーに会って話を聞き続けるうち、自分の感性に近い感性をもっている人と会うこともできます。すると、今度は「あ、この人が言うことなら自分にもできそうだ」と思えてきます。そうして、プロの感性や技術を吸収することにつながるのです。もちろん、これは趣味に限らず仕事だって同様です。
すべてのスタートは「会いたい人リスト」の作成
ですから、みなさんも積極性をもって自分が会いたい人に会いに行きましょう。そのために必要なことはいくつかありますが、大前提となるのが、「会いたい人リスト」をつくることです。当たり前ですが、会いたい人が定まっていなければ会いに行くことはできませんよね。
みなさんの趣味や仕事の分野に憧れの人はいませんか? そういう人がいれば、会いたい人リストに書き込んでください。特定の人が思い浮かばない場合、なんらかのテーマから考えてみましょう。先のカメラが趣味の例なら「カメラの技術を磨きたい」というテーマですから、プロのフォトグラファーやカメラに詳しい知人などが候補になります。
ほかにも、関係を「始めたい」「深めたい」「持続させたい」「改善したい」といった人間関係に関わるテーマから考えてもいいですし、「問題を解決したい」「スキルを深めたい」といった仕事に関わるテーマから考えるのもありです。
おすすめは、アポをとるハードルを下げるために、なるべく身近な人から始めること。しばらく会っていない旧友や親戚でもいいですし、ビジネスパーソンであればもう少しだけ勇気を出して、憧れの部署やポジションで活躍している社内の先輩などが最適です。
もちろん、「会いたい人リスト」のなかに、著名人を挙げてもかまいません。いまは現実的ではないと思えるかもしれませんが、独立したばかりの僕自身もそうだったのですから、安心してください。「会いたい」と思って会うための行動を起こさなければ、その人に会うことは絶対にできません。ですから、あなたの未来に対する期待が膨らむような相手をどんどんリストアップしてほしいと思います。それが、「ライフチェンジ」のための第一歩なのです。
【早川洋平さん ほかのインタビュー記事はこちら】
一通のメッセージであなたの未来が変わる! 「人に会う」プロが教えるアポ取りの極意
「ただの面談」で終わらせない。会いたい人に会ったとき、「なにを聞くか」より大切なこと
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。