
1日のうち多くの時間を割く「仕事」が、幸福度と大きくかかわることは想像に難くありません。実際、ハーバード大学などの研究では、仕事満足度(ワークエンゲージメント)は他の要素と比べて幸福度とかなり高い関連性を持つことが示されています。そこで、『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でサイエンスライターの鈴木祐さんに、幸福度を上げる仕事選びのコツを聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
鈴木祐(すずき・ゆう)
1976年生まれ。サイエンスライター。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、ヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。近年では、自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、3年で月間100万PVを達成。また、ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見わけ方などを伝える講演も行っている。累計部数20万部超のベストセラー『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)の他、『社会は、静かにあなたを「呪う」』(小学館)、『最強のコミュ力のつくりかた』(扶桑社)、『天才性が見つかる 才能の地図』(きずな出版)、『運の方程式』(アスコム)、『YOUR TIME』(河出書房新社)など著書多数。
「なんとなく苦しい」を放置してはいけない
『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』(クロスメディア・パブリッシング)の執筆にあたってリサーチを重ねるなかでわかったのは、「いますぐ辞めたいわけではないのに、なぜかずっと苦しい」という状態にある人が本当に多いことでした。
強烈な不満があるわけでもなく、決定的なトラブルが起きているわけでもありません。それでも、仕事に向かうたびに気持ちが重くなり、漠然としたモヤモヤが消えない……。こうした状態は、ある意味で非常に厄介です。
なぜなら、「辞めるほどではない」「まだ我慢できる」という言葉で、問題解決を先延ばしにしてしまいやすいからです。しかし、キャリアの観点から見ると、この「なんとなく苦しい状態」は大きなマイナスとなります。なんとなく苦しい状態のままではパフォーマンスを発揮しづらく、自分の人材価値を高めることが難しくなるからです。
多くの場合、モヤモヤの正体は「期待と現実のずれ」です。入社前や異動前に思い描いていた仕事像、人間関係、裁量、成長実感などが、「こんなはずじゃなかった……」と、少しずつ現実とかみ合わなくなっていきます。その違和感が、はっきりした不満や怒りになる前の段階として、モヤモヤというかたちで表れるのです。
そして、なかでもモヤモヤの大きな要素となるのが「人間関係」です。仕事がつらい理由というと仕事内容そのものを思い浮かべる人も多いと思いますが、幸福度研究においては、最大の要素が人間関係だということが繰り返し結論づけられています。

「改善できるかどうか」を見極める
とくに影響が大きいのは上司、その次が同僚だといわれています。これは直感的にも理解しやすいでしょう。どれほど好きな仕事をしていたとしても、上司との関係が悪いだけで幸福度は一気に下がります。「上司が嫌な人だった」という理由だけで仕事を辞めたくなるのは、決して珍しいことではありません。
さらに、職場に安心して話せる同僚がいない、愚痴をこぼせる相手がいないという状況になると、苦しさは加速します。この点を理解せずに「仕事が合わないのかもしれない」と考えてしまうと、モヤモヤの本質を見誤ることになるのです。
ですから、「なんとなく苦しい」と感じたときには、まずはモヤモヤの中身を分析してみましょう。一度、どこに引っかかりがあるのかを言語化してみることが重要です。
たとえば、それは人間関係の問題なのか、それとも仕事の進め方に裁量がなく自分で決められる余地がほとんどないからなのか、あるいは、自分がなんの役に立っているのかわからず貢献実感をもてていないからなのか。モヤモヤの原因は、複数重なっていることも少なくありません。
ここで大切なのは、「改善できる可能性があるかどうか」を見極めることです。上司との関係性の改善や、仕事の進め方の調整、役割の再定義など、転職することなく修正できる場合も多くあります。転職はひとつの選択肢ですが、逆に転職先の環境がさらに悪劣だというケースだって考えられます。「リセットすれば一気に楽になるはずだ」という発想は、心身が疲れているときほど強くなりがちですが、冷静な分析を経たうえで、「いまの職場でできること」を考えることも大切です。

仕事の幸福度を左右する3つの要素
それでも転職を決断するのなら、新たな仕事選びにあたっては、先にも少し触れた以下の3つの要素を重視することをおすすめします。仕事の幸福度を左右する要素にはほかにもいくつかありますが、この3つがとくに影響が大きいものだとされています。
【仕事の幸福度を左右する3大要素】
① 仲間
② 自律性
③ 貢献実感
ひとつ目の「①仲間」は、「心理的安全性」と言い換えてもいいでしょう。これが最重要です。会議で不用意に否定されない、失敗を笑われない、意見をいえばきちんと聞いてもらえる。こうした環境があるかどうかで、仕事の幸福度は大きく変わります。社風やマネジメントの影響も大きいですが、たったひとりでも信頼できる仲間がいるだけで、モチベーションは劇的に変わります。これほど強力なモチベーションブースターは、ほかにほとんど存在しません。
続いては「②自律性」で、端的にいえば「自由度」です。自分で仕事の進め方を決められるかどうかは、モチベーション理論のなかでも非常に重要な要素とされ、マイクロマネジメントが強い環境ではやる気は急速に削がれます。
一方、一定の裁量が与えられ、結果に対して責任を持てる環境では、人は自分でも驚くほどの力を発揮できることもあります。リモートワークの生産性に関する研究データでも、細かく報告を求められるのではなく、「任せたよ」と自律性が高い組織ほど成果を上げている傾向が見られます。
最後は、「③貢献実感」、つまり自分の仕事が誰かの役に立っていると実感できるかどうかです。これも人間のモチベーションを大きく左右し、エンドユーザーの声を直接聞く機会を設ける企業があるのは、そのためです。自分の仕事の意味が見えなくなると、人は簡単に疲弊します。
ただし、これらの要素は、外部からはなかなか見えにくいものでもあります。だからこそ、転職を考える際には、「遠慮せずに聞く姿勢」が欠かせません。面談の場では、仕事内容や条件だけでなく、「チームの雰囲気や、上司と部下の関係性はどのようなものか」「仕事の進め方はどの程度個人に任されているか」「成果はどのように評価、フィードバックされるか」といった点を積極的に確認しておくべきでしょう。これらは失礼な質問ではなく、入社後のミスマッチを防ぐという意味で転職先企業にとってもプラスに働く確認事項です。
併せて、転職サイトの口コミや評判にも目を通しておくこともおすすめします。すべてを鵜呑みにする必要はありませんが、同じ指摘が繰り返されている場合には、一定の傾向があると考えられます。公式の情報だけでなく、現場に近い声を複数の角度から集めることで、「入ってから後悔する確率」は確実に下げられるはずです。

【鈴木祐さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
