理念を浸透させても組織が変わらない本当の理由。「人の意識はデザインできない」

安斎勇樹さんインタビュー第1回・人の意識はデザインできないがルールはデザインできるという組織変革論の記事アイキャッチ

理念を浸透させようとしても、意識改革を呼びかけても、組織は一向に変わらない……。この停滞の原因は、社員のやる気でも能力でもなく、「変えられないもの」を変えようとするアプローチそのものにあるのかもしれません。「人の意識はデザインできない。しかし、環境としてのルールならデザインできる」と語るのは、『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を法律家の水野祐氏とともに上梓した安斎勇樹さん。全3回のインタビュー第1回は、組織が変われない構造的な理由をひもときます。

取材・構成/STUDY HACKER編集部

【プロフィール】
安斎勇樹(あんざい・ゆうき)
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO。東京大学大学院情報学環 客員研究員。博士(学際情報学)。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究し、企業の人材育成・組織変革を支援している。著書に『問いのデザイン』(学芸出版社)、『冒険する組織のつくりかた』(テオリア)、『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『静かな時間の使い方』(朝日新聞出版)など多数。最新刊は法律家・水野祐氏との共著『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

ルール嫌いの少年が「ルールの力」に気づくまで

じつは私自身、もともとルールが大嫌いな人間でした。縛られたくない一心で、校則も制服もほとんどない中高一貫校を選んで進学したほどです。

その学校生活はすごく良いものでしたが、一方で私はそこで「自由の恐ろしさ」も経験します。誰も勉強しろと言わないので、みんな全然勉強しなくなり、私の学年では160人のうち100人以上が浪人しました。自由にはかなりの責任が伴う。ルールそのものが悪いわけではないし、なければないで弊害もあるのだと、中高時代に学んだのです。

その後、大学院でファシリテーションの研究を始めてから、今度は逆の側面に気づかされました。ワークショップの場をつくるとき、なにを明確にルールとして持ち込み、逆になにをルールから解放するのか。その設計次第で、人間の創造性はものすごく発揮されるのです。

ルールの設計が人間の創造性を発揮させる・安斎勇樹さんがワークショップ研究で気づいたルールの力を示すイメージ

「一番いらないものを決めよ」と言われると、人は遊び出す

わかりやすい事例を紹介しましょう。2018年頃、資生堂さんでワークショップをさせていただいたことがあります。当時の資生堂さんは「TRUST 8」という行動指針を掲げ、「Think Big」「Take Risk」といった8つの行動理念を4万6,000人の従業員に浸透させようとしていました。*1

とはいえ、指針を唱和させたり、カードを配って覚えさせたりしたところで、みんなが自発的に「Think Big」するようにはなりません。「リスク」のあり方ひとつとっても、売り場の販売員と開発部門と人事部門とではまったく違いますから、なかなか腹落ちしないのです。そこで私が設計したのが、「8つの指針のなかで、一番いらないものを決める」というワークショップでした。

これがものすごく盛り上がったんです。「いや、これはいらなくない?」「これをなくしたらまずいでしょう」とああだこうだ議論しているうちに、それぞれの指針が自分たちの現場にとってどんな意味をもつのかが読み解かれ、結果として理念が浸透していった。しまいには「こういうルールもあってもいいんじゃないか」という提案まで出てきました。制約、つまりある種のルールを設定すると、人は遊び出すのです。

エンターテインメントの世界も同じです。ダウンタウンの「笑ってはいけない」シリーズは、お笑い番組なのに笑ってはいけないというルールがあるからこそ、かえって笑いたくなってしまう。ルールと遊びと問いは深く結びついていて、いいルールは面白い遊びになる。人間の創造性とルールはけっして相反しないのだと、設計する側に回って初めて強く感じるようになりました。

いらないものを決めるワークショップで理念が浸透する・制約が人の創造性を引き出すルールと遊びの関係のイメージ

「意識改革」は軍事的世界観の名残である

では、組織を変えようとするとき、多くの会社はなぜ「理念浸透」や「意識改革」から入りたがり、なぜうまくいかないのでしょうか。

私は2025年に書いた『冒険する組織のつくりかた』で、これまでの経営論や組織論は、1940年代頃から戦争のメタファーを参照した「軍事的な世界観」に強く依拠してきた、と指摘しました。その世界観で経済成長を遂げたのも事実ですが、戦争のメタファーで経営することは、もう限界に来ています。

「みんなの意識を変えていく」という発想は、まさに軍隊的、規律訓練的なものです。やらせたいことが「とにかく弓を引いてあの城を落とす」ということなら、それでいけるでしょう。しかし、いまビジネスパーソンに求められているのは、柔軟に発想し、問題を見つけ、新しいアイデアを生むこと。人間に求められていることと、規律訓練のスタイルが、根本的に噛み合っていないのです。

「心理的安全性を徹底するからな」という矛盾

最近、とても皮肉だと感じていることがあります。ここ5年ほどで「心理的安全性」という言葉が大流行しました。ところが実際には、「本音で話せて、ミスを隠さずに報告できる職場を徹底してつくるからな」という号令のもと、360度評価で監視し、サーベイの数値を突きつけて「心理的安全性、高いよな、お前ら」と迫るようなことが起きている。

軍事的なOSのまま、心理的安全性を上げようとする。トップダウンで部下の主体性を発揮させようとする。明らかに矛盾した振る舞いでしょう。OSと、やろうとしていることが噛み合っていないのです。

人は変えられない。ルーティンなら変えられる

意識改革がうまくいかない理由は、もうひとつあります。私はもともと人間の「学習」を専門とする研究者で、大学院時代に口を酸っぱくして教えられた、学習論の大前提とも言える考え方があります。「人間の学習はデザインできない。しかし、学習環境ならばデザインできる」というものです。

人の考え方や価値観を、外から直接変えることは不可能です。けれども、外部環境として設定されている課題や活動、つまり「ルール」ならデザインできます。本人が主体的になれる環境をどうつくるかという問いに切り替えるべきところを、直接、人の頭のなかを変えようとしてしまう。ここに、意識改革が失敗する本質的な理由があります。

人の意識は変えられないがルーティンなら変えられる・学習環境をデザインするという組織変革の本質を示すイメージ

組織は「ルーティンの集合体」である

私たちの新刊『ルールのデザイン』では、組織を「ルーティン(繰り返される行動や思考の習慣)の集合体」として捉えています。耳慣れない定義かもしれませんが、経営学にきちんと存在する立場です。

旧来の経営モデルは、ベルトコンベヤーでパーツを交換するように「人材をどう変えるか」というメタファーでつくられてきました。しかし「組織変革とは人をパーツとして交換したり変えたりすることだ」と考えた瞬間、基本的に人が悪者になる。うまくいかないことを、人のせいにしていく世界観になってしまうのです。

考えてみてください。子育てでは、たった一人の子どもすら思いどおりにならないのに、千人の組織で千人の人間を変えるなど、到底できるものではありません。だからこそ、変えるのが難しい「人」のせいにする世界観から、「どうすればルーティンを変えられるか」という視点に移る。「早起きできないのは自分の性格のせいだ」と考えると絶望的ですが、「習慣のせいだよね」と捉え直せば道筋が見えてくる。組織も、それとまったく同じなのです。

ルールという迂回路から、組織文化を変える

本書では、組織文化を「人工物」「標榜された価値観」「暗黙の前提」の3層からなる氷山にたとえ、3つの層が互いを強化し合って硬直していく構造を解説しています。組織文化そのものは目に見えず、直接手を入れられません。しかし、ルールなら目に見えるし、言語化できるし、「ここをこう変える」と指し示すことができます。

ルールを変えればルーティンが変わり、ルーティンが変われば、やがて組織文化が動き始める。この迂回路こそが、「ルールのデザイン」という本書の提案なのです。

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意識ではなく、ルールから変える。では具体的に、どこから手をつければいいのでしょうか。第2回では、権限もコストもいらない「創造のルール」のつくりかたと、明日から一人でも始められる実践法を語っていただきます。

ルールという迂回路から組織文化を変える・ルーティンの集合体としての組織変革アプローチを示す安斎勇樹さんインタビューのイメージ

組織の成果を最大化する ルールのデザイン

組織の成果を最大化する ルールのデザイン

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【ライタープロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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