
ルールのデザインは、チームを率いる立場の人にとっても強力な道具になります。そしてAIがルールの設計や運用を担うようになる時代、人間に残される仕事とはなんなのでしょうか。『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓した安斎勇樹さんへのインタビュー最終回は、マネジャーの実践から、AI時代の働き方、そして「閉塞した会社」への処方箋までを語っていただきます。
取材・構成/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
安斎勇樹(あんざい・ゆうき)
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO。東京大学大学院情報学環 客員研究員。博士(学際情報学)。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。人の創造性を活かした新しい組織・キャリア論について探究し、企業の人材育成・組織変革を支援している。著書に『問いのデザイン』(学芸出版社)、『冒険する組織のつくりかた』(テオリア)、『新 問いかけの作法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『静かな時間の使い方』(朝日新聞出版)など多数。最新刊は法律家・水野祐氏との共著『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
丁寧すぎる上司が、部下の創造性を奪っている
まずは、部下をもつマネジャーに向けた話をしましょう。本書では「ホスピタリティの引き去り」という考え方を紹介しています。手取り足取りの丁寧な説明を、あえて少しずつフェードアウトさせ、部下が自分で意味を見いだす余白をつくる、というものです。
マネジャーが手取り足取り教えるのは、意地悪どころか、善意と手間のかけすぎによるものでしょう。しかしその丁寧さが、部下が自分の頭で考える可能性や創造性を、潰してしまっていることがあるのです。
説明を3割減らしたら、問いかけを3割増やす
難しいのは、引き去るタイミングです。相手によって段階もペースも変わりますが、ポイントは、こちらからの「丁寧な説明」と「質問・問いかけ」の配分を少しずつ変えていくことです。
最初のうちは、コミュニケーションのかなりの部分を丁寧な説明が占めていていい。ただ、そこから説明をただ引き算していくだけでは、部下は「説明されていない」と感じるだけです。だから、説明を3割カットしたら、その分だけ問いかけを増やす。説明を「抜く」のではなく、「質問に置き換える」のです。自分で意味を考える機会を差し挟んでいく、この段階的な移行が肝になります。

カルチャーは「ハレの場」でつくられる
私が経営するMIMIGURIでは、全社総会に並々ならぬ力を入れています。直接的なコスパで言えば良い投資には見えないかもしれませんが、私はカルチャーづくりに一番効果的なのは「ハレの場」だと考えているのです。
そもそも文化とは、お正月やクリスマスのような非日常の場で、なにに時間とお金と労力をかけるかによって形づくられてきたものです。組織文化も同じで、氷山の根っこにある暗黙の規範は、非日常の場でどんな儀礼が行われ、どんな投資がなされているかによって形成されます。日常は業界や外部環境に左右され、どの会社も基準が似通ってきますから、差がつくのはハレの場なのです。
だからMIMIGURIの全社総会では、使える時間の大半を対話に投資し、経営者がなるべく喋らない時間配分にして、凝らなくてもいい装飾に毎回こだわります。「会社としてこれを大事にしているんだ」という基準を全体に示すうえで、じつはめちゃくちゃコスパのいい手段だと思っています。
オフィスの巨大なロゴは「鳥居」である
リモートワークの世界的な普及によって会社から何が失われたのかを調べた研究があります。オフィスは3つの資源で整理できるそうです。デスクやWi-Fiといった「物理的資源」、相談できる相手がいる「社会的資源」、そして、その会社らしさを感じさせる儀礼やシンボルという「象徴的資源」です。
エントランスの巨大なロゴは一見無駄ですが、毎朝それを目にして出社することには、鳥居をくぐるように「この会社で働く意味」を感じさせる効果があったはずです。それが希薄になったいまだからこそ、自分たちらしい儀礼をあえて極端にやる。「俺たちのお参りのスタイルはこれだ」と示すことが、大事になっているのです。

AI時代、マイルールが「作家性」になる
共著者で法律家の水野さんから学んだことがあります。法律はそう簡単に変えられません。それでも法律家の仕事が重要なのは、厳格に書かれた条文をどう「解釈」するかに、多様性と専門性があるからです。ルールにただ従うのではなく、ルールをどう解釈するかに能動性を取り戻すこと。それ自体が重要なルールデザインの範疇なのだと、私の見方は大きく広がりました。
この視点は、AI時代にこそ効いてきます。今後AIが当たり前になれば、問題を防ぎ、効率的に進めるための合理的なルール設計は、AIに任せたほうがいい領域になっていくでしょう。では、人間に残るものはなにか。
あらゆるビジネスパーソンが「クリエイター」になる
私は、あらゆる知的生産がクリエーションとして価値をもたないと、意味を失っていくと考えています。乱暴に言えば、あらゆるビジネスパーソンがクリエイター的になっていく。自分の作品だと思える仕事をつくることが、決定的に大事になるのです。
そのとき鍵になるのが「マイルール」です。作家性はどこに立ち上がるかというと、「こういう仕事は受けない」「自分は原稿用紙に書くんだ」といった、謎のこだわりに発露します。AIが最適化した環境のなかで、自分のクリエーションを支えるマイルールをデザインし、AIに飲み込まれずに自分らしい仕事をしていく。それが人間にとって大事な抵抗になるし、結果として、最適化された集団では出せない色が組織にも生まれます。自分のルールくらいは、自分でデザインする。一人ひとりが自分の仕事を作品のようにデザインできるようになることが、最終的には大事になってくる気がします。

閉塞した会社にも「例外的な職場」はつくれる
最後に、この記事を読んで「うちの会社はもう手遅れかもしれない」と感じている人へ。私はいろいろな大企業を見てきましたが、多くの人が「この会社を変えるのは無理だ」と諦めてしまいます。それでも何度も見かけてきたのは、会社全体は閉塞感に覆われているのに、この職場だけはすごく楽しそうで生き生きしている、という「例外的な職場」をつくることは、意外に可能だという事実です。
それを可能にするのが、ローカルルールの力です。部門全体でなくても、数名のチームだけでもいい。「こういう朝会を始めてみよう」「会議にこういうルールを設定してみよう」とやってみると、ルーティンが変わり、半径3メートルの職場の空気が変わっていきます。クラスに40人いようが、3人の友達で遊ぶときの空気は自分たちで変えられるのと同じで、じつはそんなに難しいことではありません。
ローカルルールが、会社全体を変えていく
そういう例外的な職場が生まれると、「あそこ、最近空気いいよね」「あの部門、ミーティングが活発だよね」と、同じ閉塞感を抱えた人たちが注目し始めます。それがきっかけで部門単位の変化に広がったり、大きなメーカーで「あの工場だけ盛り上がっているらしい」という事例が生まれたりする。ローカルルールがグランドルールに影響を与えていくケースを、私は何度も見てきました。まずは例外的な職場を目指すこと。それが、閉塞した組織を変える現実的な一歩なのです。
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意識ではなくルールから変える、権限がなくても「してもいい」から始める、そして自分の仕事を作品のようにデザインする。3回にわたってお届けした安斎さんの提案は、どれも明日の職場で試せるものばかりです。より深く学びたい方は、豊富な企業事例とともに方法論を体系化した『組織の成果を最大化する ルールのデザイン』をぜひ手に取ってみてください。

【安斎勇樹さん ほかのインタビュー記事はこちら】
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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