「自分にとって不利なことを言われたときの、うまい対処法がわからない。率直に反論してしまって怒られた経験も……」
「雑談が苦手で、誰かと急にふたりきりになると困る。つい目をそらしてしまうけど、これじゃあ相手に嫌われそう……」
今回の記事では、上記のように悩んだことがある人にぜひ使ってほしい、3つのフレーズをご紹介します。急に「不利」な状況に陥っても、ある言葉を使えば「有利」な状況に変えることが可能です。さっそくご説明しましょう。
1.「そのうえで」
商談中、自社に不利な条件を相手から突きつけられた――そんな場面で、「しかし、弊社は●●と考えます」「反対に、△△ではいかがでしょうか」などとストレートに反論すると、相手を怒らせてしまうかも。
反対意見を伝えて納得してもらいたいときは、「そのうえで、××については別の考えがあります」と前置きするのが正解です。
というのも、反対意見を真正面からぶつけると、自分のすべてを否定されたような不快な気持ちを相手に抱かせてしまうから。こう説くのは、企業向け説明スキル研修などを行ない、書籍『あてはめるだけで “すぐ” 伝わる 説明組み立て図鑑』に説明や交渉の型をまとめた犬塚壮志氏です。
自身もそのせいで顧客を失った経験があると語る犬塚氏は、「周囲とぶつかることなく反対意見をスムーズに受け入れてもらえる人」の話し方を徹底的に分析したそう。そうして導いたと言うのが、以下に説明する4ステップです。
例として、「新店舗の出店先について、自社と取引先とで意見が食い違った場合に、どう自社の提案を述べるか」というケースでご説明しましょう。
- 相手の意見を簡潔に復唱する
例「たしかに、都心に新規出店したいという御社の考えは非常によくわかります」 - 「そのうえで」に続けて、相手の意見の「一部」に対して別の考えがあることを伝える
例「新規出店については弊社も同意見なのですが、そのうえで、出店先については、別の考えがございます」 - 反対意見を述べる
例「弊社といたしましては、新店舗は郊外に構えるのがよいと考えています」 - 反対意見の理由を述べる
例「理由は、顧客の多くが郊外に住むファミリー層だからです」
相手の意見を復唱して「あなたの考えを受け止めた」ことをアピール。対立しているのは「あくまでも部分的にすぎない」ことを強調。そして、本題の反対意見を述べる前には「そのうえで」という順接表現を使用。
これらの工夫により、相手は話を聞く気になってくれるのだそうです。気をつけるべきは、「しかし」や「反対に」などの逆接表現を使わないこと。相手に心の壁をつくらせてしまうおそれがあります。
相手と意見が食い違って、自分が不利な状況に置かれそう……そんなときでも、「そのうえで」を使って冷静に話を組み立てましょう。自分の意見をきちんと通すことができるかもしれませんよ。
2.「お疲れさまです」「おはようございます」などの挨拶
思いがけずエレベーターで上司とふたりきりになった――そんなとき、何を話せばよいかわからず、黙ってその場をやり過ごしてしまったことはありませんか?
気まずさを解消できるだけでなく、相手から好印象を抱いてもらえる対応法があります。それは、自分から思いきって挨拶をすること。
コミュニケーション心理に詳しいカウンセラーの五百田達成氏によると、気まずいからと黙ったまま相手から目をそらすと、相手が自分に抱く印象は悪くなるのだそう。
目をそらせば、「話しかけられずにどうにかやり過ごしたい……!」という雰囲気が、どうしても相手に伝わってしまうと五百田氏。もしも相手も黙っているのだとしたら、それは「話しかけられたくなさそうだから、話しかけないようにしよう」と思ってくれているだけなのだそうです。
ともすると、あなたが「目をそらした」という事実のせいで、相手に腹立たしさを感じさせてしまう可能性もあるのだとか。こうして相手に嫌われでもすれば、その後の仕事に悪影響が及びかねません。
そこで五百田氏がすすめるのが、自分から声をかけることです。肝心なのは「目をそらさなかった、無視しなかった」という事実をつくること。ですから、会話の中身はさておき、自分から積極的に話しかけることを意識するだけでいいのだと言います。
「お疲れさまです」はその一例ですが、時間帯によっては「おはようございます」でもよいですね。「声をかける」ことが重要だとのことですので、会釈で済ませず、やはり相手に聞こえるように挨拶したいもの。
もしも、会話の中身に気を配る余裕があれば、「ほめる」「教わる」「お礼を言う」に挑戦するとよいそうです。
(例)エレベーターで上司とふたりきりになったら……
「お疲れさまです。今日のシャツの色、すごくすてきですね! どのあたりで買い物されることが多いんですか?(買い物している場所を教わったら)ありがとうございます!」
このような具合で、変に身構えることなく仕事と関係のない話を短くするだけで、好印象をもってもらえる可能性が高まるそうです。
上司を前に沈黙したせいで、関係がぎくしゃくしてしまった……そんなことになる前に、ぜひ試してみてくださいね。
3.「やります!」
ただでさえ忙しいのに、さらに別の仕事を振られた――こんなとき、「忙しいから」「自分の力量ではちょっと……」などと後ろ向きな発言をしがちな人は、成長できるチャンスを逃しているかも。
できない理由を考えるより先に「やります!」と言う癖をつければ、スキルアップの道が開けてきますよ。
かつてトヨタグループに勤め、トヨタ流の仕事術に関する著書を多くもつ原マサヒコ氏は、何かをやる前から「できない」や「難しい」と言うようでは、何もできなくなると指摘します。
原氏によると、トヨタグループには「言い訳をする頭で実行することを考えろ」という言葉があるそう。「できない理由」ではなく「どうしたらできるか」を考えて実行に移す――そんな風土があると言います。実際、原氏自身も、上司が立てた目標に対して「難しい」と発言してしまい、叱責された経験があるのだとか。
経済・経営ジャーナリストの桑原晃弥氏も、こうしたトヨタグループの教えを評価しています。「この仕事は自分にはちょっと荷が重いかな……」と思っても「私がやります!」とまずは言う。「どうしたらできるか」を考えて試行錯誤するうち、効率のよい進め方が見えてくる――このように、「やります!」と宣言することは、経験値を高めることにもつながると桑原氏は言います。
たとえば、毎日残業してなんとか仕事をこなしている状態のあなたに、上司が「新人の育成係を任せたい」と言った場合。「引き受けたら余計に忙しくなる……」という考えが頭をよぎるかもしれませんが、自己成長のためには「やります!」と返しましょう。
すぐにはうまくいかなくても、桑原氏の言うように、しだいに「このくらいの時間でできそうだ」「あの人が協力してくれるかも」などと考える余裕が生まれ、効率的に仕事ができるようになるはずです。
言い訳をしないで「どうしたらできるか」を考えて行動すれば、最終的に自分のスキルアップにつながります。「大変すぎて自分には無理」と思ったときこそ、「まずやってみる」ことを意識しましょう。
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言葉選びひとつで、「不利」な状況も「有利」な方向へと転換させることができます。ぜひ、ご紹介したフレーズを使ってみてくださいね。
(参考)
プレジデントオンライン|「しかし」を使ってはいけない…仕事のできる人が反対意見を通すときに使っている"ある接続詞"
五百田達成(2019),『超雑談力』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
ダイヤモンド・オンライン|どんな仕事でも必ず成果が出せるトヨタの現場で使われている5つの口ぐせ
原マサヒコ Official|「できない理由」を考えるのではなく「どうすれば出来るか」を考えるべし
STUDY HACKER|トヨタ社員が最後の最後で「あと5分だけ考え抜く」深すぎる理由
【ライタープロフィール】
こばやしまほ
大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。