AIに聞く前に、自分ならどう答えるか。東大卒8人が見せた「正解のない問い」への向き合い方

東大卒8人が示した正解のない問いへの向き合い方|川人友理が語る考える力を鍛えるヒント

わからないことがあれば検索し、迷ったらAIに聞く。便利になった一方で、自分の頭だけで考える時間は、意識しないとどんどん減っていきます。

ケンブリッジ大学の入試問題「あなたは自分を利口だと思いますか?」をきっかけに生まれた『東大はクイズを教えない』(西葛西出版)は、著者を含む東大卒9人が"正解のない入試問題"に挑んだ一冊です。著者の川人友理さんは、8人への取材を通して、正解のない問いへの向き合い方に共通するものを見つけたと言います。

後編では、その共通点と、考える力を日常で鍛えるヒントを伺いました。(全2回の第2回)

取材・構成/STUDY HACKER編集部

【プロフィール】
川人友理(かわひと・ゆうり)
1992年生まれ。
2011年4月東京大学文科三類入学。
2015年3月東京大学文学部行動文化学科社会学専修課程卒業。
卒業後は不動産系のベンチャー企業に勤務し、主に人事(労務)の仕事に従事。
現在は年子の育児に奮闘中。
著書に『数学嫌いの東大生が実践していた「読むだけ数学勉強法」』(マイナビ出版)などがある。

東大卒たちは、いきなり答えなかった

前編でお話ししたとおり、8人に共通していたのは、問いに真剣に向き合う姿勢でした。

それがいちばん表れていたのが、問いの前提から考えることです。

「この言葉はどういう意味なんだろう」と、まず問いに使われている言葉をきちんと紐解く。いきなり答えを出そうとせず、「この問いを自分はどう受け取るか」から考え始めるのです。

検索すれば「結論」は手に入るけれど

翻って、私たちはどうでしょう。すぐに検索し、AIに聞き、模範解答を探す。それでも、自分で考えて答えを出すことには価値があると私は考えています。

正解のある問いでもそうです。結論だけなら、検索すればすぐに出てきます。でも、それでは「過程」が抜け落ちてしまう。単純な計算でも、答えを見るだけではなく「どう解くのか」を自分でたどってみる。自分で考えた過程があるからこそ、深く理解できるし、しっかり定着していくのです。

他人の価値観を、自分の軸にしないために

正解のない問いなら、なおさらです。人生において何が大事か、自分はどう生きるか。そうした問いまで検索や模範解答に頼ってしまうと、他人の価値観を軸に生きることになってしまいます

もちろん、他人の価値観を参考にするのは悪いことではありません。自分になかった視点に出合えることこそ、読書の価値でもあります。

今回のインタビューでも、まさにそんな体験をしました。「何が強い女性を作りますか?」というオックスフォードの入試問題に、私は「そんなものはない」と答えを出していました。

ところが、同じ問いに、法学者の山口真由さんは「自分自身の意志と、社会からの正当な評価が女性を強くする」と答えたのです。そういう切り口もあるのかと、視界が広がる感覚がありました。

ただ、心を動かされた考えでも、そのまま鵜呑みにしないことが大事です。一度咀嚼して再度考え、「自分も本当にそう思うか」を確かめる。納得できたなら取り入れればいいし、違うと感じたら手放せばいい。

そうやって選び取った価値観も、一生ものとは限りません。段階や状況によって変わりうるからこそ、一度出した答えに固執せず、折に触れて考え直す。そんなふうに自分で考えて決め続けることが、自分の人生を生きるためには欠かせないと思うのです。

東大生は勉強ができるだけという言説を問い直す|知識の土台が正解のない問いへの思考力を支える

「東大生は勉強ができるだけ」という言説について

「東大生は勉強が得意なだけ」「社会に出れば勉強ができるかどうかは関係ない」。よく見かける言説です。厳密には、その通りだと思います。

東大卒という肩書が保証しているのは「東大に合格して卒業した」ということだけで、その先の実力までは証明していません。社会に出れば、勉強ができるかどうかよりも、仕事ができるかどうかのほうが重視されます。

ただ、今回のインタビューで実感したこともあります。勉強という「正解のある問い」とは対極の、正解のない問いをぶつけたのに、皆さんから本当に面白い回答が返ってきた。土台に勉強で得た知識があるからこそ、しっかり考えることができる。それが8人の活躍を支えているのだと感じました。

「教育は、人類の知の贈り物」という捉え方

勉強への向き合い方で印象的だったのは、起業家の鳥居萌さんの話です。「大学では学べないことは何か」という話題のなかで、鳥居さんはむしろ「教育はすごく大事だ」と語っていました。

教育は「人類の知のまとめ」であり、「贈り物」なのだと言うのです。高校生までは、入試に合格することが目的になって、勉強を嫌々やらされがちです。でも本当は、先人が積み上げてきた知を受け取れる、すてきな贈り物。受験から解放された社会人こそ、そう思える気がします。

学びは「使いながら」続けていく

社会人の学び直しという点では、声優の鈴木柚里絵さんが参考になります。多言語を操る鈴木さんは、現在進行形で学び続けている人です。

特徴は、机に向かってインプットして終わりにしないこと。ライブ配信でスペイン語やフランス語を実際に使いながら、定着させていくそうです。学んだことは、続けないと抜けていきます。「いかに継続させるか」という悩みへの答えは、日々の生活のなかで使ってしまうことなのだと思います。

考える力を鍛えるには書くことが最短|川人友理が勧める言語化習慣と正解のない問いのかけ方

考える力を鍛えるなら、まず「書くこと」

では、明日からできることは何か。私のおすすめは「書くこと」です。

インタビュイーのなかにも実践している人がいて、鈴木さんは小学生の頃から毎日欠かさず日記を書いているそうですし、起業家の中村慎太郎さんはSNSなどでの発信というかたちで書き続けているとおっしゃっていました。

私自身も、考えがまとまらないときは紙に書き出します。今回のインタビューの準備でも、答えにくい質問については、思いついたことを問いからずれていてもいいから全部書き出して、あとから整理しました。

頭のなかで思考がぐるぐる巡って進まなくても、一度言葉にすると「そうか、こう思っていたんだ」と整理されて、止まっていた思考が動き出すのです。

立派な文章を書こうとしなくてかまいません。考えていることをしっかり言語化する。その訓練として、一言でもいいから書いてみる。それだけで十分です。

「どうするべきか?」ではなく「どう感じた?」

一方、職場や家庭で誰かに「正解のない問い」を投げかけるときは、問いかける側が上の立場になりがちだという前提に立つのがポイントです。

上司が部下に「正解はないから自由に答えてね」と言っても、部下は上司のなかにある正解を探しにいきます。親子も同じで、子どもは基本的に親に逆らえません。力関係があるかぎり、その言葉は建前になってしまうのです。

だから、問いかけ方を変えます。たとえば「お友達が泣いているけど、どうしてあげるべきだと思う?」と聞けば、子どもは親のなかに「べきだ」という正解があると感じ取ります。「どうするべきだと思う?」ではなく、「あなたはどう感じたの?」と聞いてみる。そう変えるだけで、相手は自分の答えを出しやすくなります。

まず、自分の答えを出してから読んでほしい

本書のインタビューは、子育てや教育のヒントを得るという方針で臨みましたが、結果的に、誰が読んでも面白い本になったと思っています。東大に興味がある人も、ビジネスパーソンも、子育て中の人も、ぜひ手に取ってみてください。

そして読みはじめる前に、一度ご自身で「あなたは自分を利口だと思いますか?」などの入試問題に答えてみてほしいのです。自分の答えがあるからこそ、8人の答えと比べられる。「こういう切り口があったのか」という驚きも、そこから生まれます。

実は私自身、基になった入試問題集を読むとき、解答例を先に読んだらもったいないと思い、1問ずつ自分の答えを出してから読み進めました。時間はかかりましたが、その分、解答例との違いをじっくり味わえました。

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振り返ると、川人さんの話には「すぐに試せること」がいくつもありました。一言でもいいから書いてみる。「どうするべきか?」を「どう感じた?」に言い換えてみる。編集部も、この記事をまとめながら書き出す効果を実感しました。

正解のない問いは、仕事にも家庭にも毎日のように現れます。そのたびに検索窓を開く前に、少しだけ自分の頭で考えてみる。本書は、その小さな習慣の背中を押してくれる一冊です。

※前編では、本書誕生のきっかけと、8人の答えから見えてきたことを伺っています。

東大はクイズを教えない|自分で考え続けることが自分の人生を生きることにつながるという川人友理のメッセージ

東大はクイズを教えない オックスフォード&ケンブリッジの答えのない難問に東大卒9人が挑むshop.nishikasaibooks.jp

【ライタープロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010 / 著書(amazon)