「質問はありません」と即答する人ほど、話を理解できていない。仕事ができる人はどう答える?

コミュ力が高い人が話しながら意識していること——前提のズレとバイアスを乗り越える会話の技術

「ロジカルに説明したはずなのに、話が伝わっていない」「会話がうまくかみ合わない」——。こうした意思疎通の不全は、ビジネスシーンで日常茶飯事です。それらは、個人の相性の問題ではなく「前提や理解のズレ」に起因するものだと、経営コンサルタントの安達裕哉さんは分析します。会話の齟齬を防ぐために、仕事ができる、コミュ力が高い人が意識していることを解説してもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
安達裕哉(あだち・ゆうや)
1975年生まれ、東京都出身。筑波大学環境科学研究科修了。Deloitteで12年間経営コンサルティングに従事し、社内ベンチャーの立ち上げにも参画。東京支社長、大阪支社長を歴任。1000社以上にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供し、8000人以上のビジネスパーソンに会う。その後独立し、オウンドメディア支援の「ティネクト株式会社」を設立。コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行なう。自身が運営するメディア「Books&Apps」は月間200万PVを超え、ソーシャルシェア数千以上のヒット記事を毎月のように公開。「ビジネスパーソンを励ますwebメディア」として面白く役立つコンテンツを届け続けている。2023年に生成AIコンサルティング、およびAIメディア運営を行なう「ワークワンダース株式会社」を設立。著書に『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること』(日本実業出版社)などベストセラー多数。なかでも『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は、2023年、2024年に日本でいちばん売れたビジネス書(トーハン・日販調べ)となった。

コミュニケーションの齟齬を生むふたつの原因

仕事の場、プライベートを問わず、コミュニケーションにおいては「相手と話がかみ合わない」と感じる場面はよくあります。多くの人は、「相手と相性が悪いから」「考え方が違うから」と片づけがちですが、実際には構造的な問題であるケースが少なくありません。

大きな原因はふたつあります。ひとつは、言葉の定義など「前提がズレている」こと。もうひとつは、相手の「質問や要求に答えていない」ことです。

たとえば、「コミュニケーション」という言葉ひとつ取っても、人によって認識している意味は微妙に異なるものです。対面での会話だけを指している人もいれば、メールやチャット、電話、SNSまで含めてコミュニケーションだと考える人もいます。そうした前提のずれを放置したまま会話を進めれば、話がかみ合わなくて当然です。

ただ、ビジネスの現場でより深刻なのは、後者の「質問や要求に答えていない」ケースでしょう。これは企業の採用面接などでもよく見られるのですが、質問に対して自分が話したいことを延々と話してしまう人が非常に多いのです。

「あなたの強みはなんですか?」と聞かれているのに、「では、まず私の生い立ちから説明します」などと話し始めてしまうような人もいます。本人としては一生懸命説明しているつもりでも、相手からすると、「結局、質問への答えはなんだったのか?」となってしまいます。

こうしたズレが生じるのは、結局、「相手がなにを知りたがっているか」より、「自分がなにを話したいか」を優先しているからに他なりません。

仕事ができるコミュニケーション能力が高い人は、「自分が話したいこと」ではなく、「相手が求めている答え」を強く意識しています。その視点を持てるかどうかで、コミュニケーションの精度は大きく変わるはずです。

確証バイアスと感情バイアスがコミュニケーションを阻む——相手に言葉を届けるために自分が変わる必要性

バイアスの影響を無視したコミュニケーションはうまくいかない

人は往々にして、「自分はちゃんと説明した」「きちんと話した」と考えがちです。しかし、より重要なのは、その説明が相手に理解されているかどうかであって、話した事実そのものではありません。

ここで意識したいのが、人間にはさまざまな「バイアス」が存在しているということ。人は基本的に、「見たいものだけを見る」「聞きたいことだけを聞く」という傾向を持っています。これは「確証バイアス」と呼ばれるものです。ですから、相手の要望をしっかりと認識し、相手が聞きたいことを提示しなければなりません。

しかし、確証バイアスの影響により、「なにを言っても伝わらない人」がいるのも事実です。そのようなときは時間をかけなければなりません。状況が変わり、こちらが伝えたいことを「聞きたい」と相手が思うまで待つわけです。その意味では、先送りが正しい判断といえるときもあるでしょう。

加えて、「誰が言ったか」に強く影響されるというバイアスも存在します。これは「感情バイアス」と呼ばれ、話の内容そのものより、「この人が好きか」「信用できそうか」といった感情で判断してしまうというものです。

ですから、どれだけ正論でも、相手が「この人は嫌いだ」と感じていれば、内容は聞いてもらえないということです。逆に、多少論理が粗くても、「この人の話は聞きたい」と思われれば、相手は耳をしっかりと傾けます。

もちろん、「感情に訴えることだけを重視すべきだ」と言いたいわけではありません。ただ、人が感情バイアスの影響を強く受ける生物である以上、それらを加味しないままで良好なコミュニケーションを成立させることはできないのです。

つまり、あなたの言葉が相手に届かないのであれば、あなたが変わらなければなりません。自分自身が、相手の信頼に足る人間にならなければならないのです。もしそれが難しいようなら、自分の代わりに他の人に伝えてもらうのもひとつの手です。

「だろう運転」から「かもしれない運転」へ——自分の理解を過信しない人ほどコミュニケーションの精度が高い

「だろう運転」ではなく「かもしれない運転」を意識する

また、自分がなにかを相手に伝えるのではなく、相手の話を聞く立場としては、「自分はちゃんと理解できている」という思い込みを疑うことも重要なポイントです。

多くの人は、「聞いているつもり」になっています。しかし実際には、曖昧な理解のまま、「たぶんこういうことだろう」と解釈してしまっているケースも少なくありません。日常会話であれば、それでも大した問題にはならないでしょう。しかし仕事の場では、その「こういうことだろう」が大きな事故を招く可能性があります。

だからこそ、コミュニケーション能力が高い人ほど、「本当に自分は理解できているのか」を十分に確認します。わからない部分を曖昧にしたまま進めず、「ここはこういう理解で合っていますか?」と確認するのです。

私は、「質問がない状態」というのは、かなり危険だと認識しています。たとえば新たなプロジェクトのためのミーティングといった仕事でのコミュニケーションにおいて、その場ですべてを完全に理解できるということはほとんどないはずです。それなのに、「なにか質問はないですか?」という問いに対して「ありません」と即答してしまう人は、自分がわかっていない部分にすら気づけていない可能性があります。

車の運転にたとえるなら、「だろう運転」ではなく、「かもしれない運転」を意識することがポイントです。「たぶん大丈夫だろう」ではなく、「認識がズレているかもしれない」「前提を誤解しているかもしれない」と自分の認識を疑うことです。

コミュニケーション能力が高い人ほど、自分の理解を過信しません。だからこそ、確認を怠らず、結果として「相手と話がかみ合わない」という状態に陥ることを未然に防げるのだと思います。

安達裕哉氏が語るコミュニケーション能力の本質——相手が求める答えを意識することで会話の精度は大きく変わる

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。