
「また同じミスをしてしまった」
「忙しく働いているのに、何も身についていない気がする」
経験を積んでいるはずなのに、成長実感がない。そんなふうに感じたことはありませんか?
成長するには振り返りが大切。それはわかっています。経験を振り返り、そこから学びを引き出し、次に活かす――。そのサイクルが成長につながることは、誰もが知っている。
でも、振り返りをやっていない。
なぜか? 「何を書けばいいかわからない」「考えるのが面倒」だからです。
そこで今回ご紹介したいのが「YWT」という振り返り手法です。
YWTとは「やったこと(Y)・わかったこと(W)・次にやること(T)」の頭文字をとったもので、日本能率協会コンサルティング(JMAC)が開発した振り返りフレームワーク。*1
たった3つの質問に答えるだけ。これで「何を書けばいいかわからない」という悩みは解消されます。
さらに、この記事では、YWTを使って振り返りの「中身」を充実させる3つの工夫もご紹介します。実際に試して効果を実感した方法です。
やり方で悩む必要はありません。振り返りの質に集中できる。だから継続できて、成長につながる。
実践例を交えて詳しく説明しましょう。
YWTの基本:たった3つの質問に答えるだけ
まず、YWTの基本フレームを確認しておきましょう。
難しいことは何もありません。3つの質問に答えるだけです。
Y(やったこと)
今日やったことを事実ベースで書き出します。良い悪いの評価は後回しにして、まずは何をしたのかを淡々と記録。計画と実際の行動のズレを把握するだけでも、改善点が見えてきます。

W(わかったこと)
やったことを通して気づいたこと、思ったこと、学んだことを言語化します。ここが最も重要なパート。経験を「ただの出来事」から「学び」に変換する場所です。

T(次にやること)
気づきを次の行動に変えます。「もっと頑張る」ではなく、「いつ・何を・どうする」まで具体的に決めることが大切です。

これがYWTの基本。たった3つの問いに答えるだけで、経験を振り返る準備は整います。
「何を書けばいいかわからない」という悩みは、これで解消されるはずです。
まずは、ここまででも十分です。この3つを書くだけで、振り返りの効果は実感できます。
ただ、さらに効果を高めたい方のために、ここから【応用編】をご紹介します。
YWTをやってみて気づいたこと
実際にYWTで振り返りを始めてみると、確かに効果がありました。
「今日は何をしたか」を書き出すことで、意外と自分が何をやっていたのか曖昧だったことに気づきます。「わかったこと」を言語化すると、漠然としていた学びが明確になる。「次にやること」を決めることで、経験が次の行動につながっていく。
YWTは、間違いなく有効な振り返りフレームワークです。
ただ――。
続けていくうちに、「もっと良くできるのでは?」と思うようになりました。
たとえば、書いたYWTを後で見返しても、当時の感覚が蘇ってこない。せっかく学んだことも、時間が経つと忘れてしまう。「次にやること」を書いても、結局一度きりで終わってしまう。
そこで、YWTをさらに自分の成長につなげるために、いくつかの工夫を加えてみることにしました。
その結果――。
振り返りの質が明らかに変わったのです。
【応用編】さらに効果を高めるために加えた3つの工夫
ここからは、私が実際に試して効果を実感した3つの工夫をご紹介します。
YWTで「何を書くか」の問題は解決しました。ここからは、「どう書くか」「どう活かすか」、つまり振り返りの「中身」を充実させる工夫です。いずれも個人でできるものなので、気軽に試してみてください。
工夫1:YWT+Emotion(感情を記録する)
行動や学びの背景には、必ず感情の動きがあります。
だからこそ、YWTに感情を記録することで、振り返りがより自分らしく、記憶にも残りやすくなります。後で読み返したときに当時の状況がリアルに蘇り、それが次の行動へのエネルギーになるのです。
具体的な実践方法
- Y(やったこと)を書く際に「そのときの感情」も書いておく
例)ミーティングのとき〇〇の話で微妙な空気が……。ちょっと不安。 - W(わかったこと)を書く際に「どんな気持ちの変化があったか?」も詳細に書いておく
例)商談件数が伸びていない。まずい、広げすぎたのかも。
フォローすべきリードを絞って追いかけないと。
感情を添えることで、「どんな状況で何を感じたか」という文脈が明確になり、単なる記録が「生きた経験」として定着します。
実際に試してみると: 1週間後に読み返したとき、事実だけを書いた記録よりも、感情を添えた記録のほうが圧倒的に当時の状況が蘇ってきました。「あのとき、こう感じていたから、こう行動したんだ」という因果関係が明確になり、同じ状況に直面したときの判断材料になりました。
工夫2:時間をおいて「再振り返り」する
YWTは書いて終わりではありません。
書いてすぐ見直し、さらに1週間後、1か月後にもう一度見返すことで、当時の自分では見えなかった発見があります。
時間差で見えてくるもの
- 「本当の学び」
→当時は気づかなかった行動パターンや成功要因 - 「思い込み」
→当時は重要だと思っていたが、じつは大したことではなかった課題
これは、リフレクションを「点」ではなく「線」にするということ。一度きりの振り返りで終わらせず、時間の経過とともに自分の成長や変化を連続的にとらえていきます。
1か月分のYWTを並べて読み返すと、自分でも気づかなかった成長の軌跡が見えてくるはずです。
実際に試してみると: 1か月後に見返したとき、「当時は重要だと思っていた課題」がじつはそれほど大きな問題ではなかったことに気づきました。逆に、当時は気づかなかった行動パターン(例: 午前中の集中力が高い、締め切り前日によいアイデアが出る)が見えてきて、自分の働き方を最適化するヒントになりました。
工夫3:T+habit(行動を習慣に変える)
T(次にやること)を1回のアクションで終わらせず、行動のリズム化まで設計してしまいます。
つまり、「次にやること」を書く際に、より習慣化を意識するということです。
習慣化を意識した書き方
- 悪い例)「提案書作成前に顧客のニーズを整理する」
→いつやるのか不明確 - 良い例)「毎週月曜9時、提案書作成前の15分でニーズ整理をする」
→「いつ・何を・どのくらい」が明確で習慣化しやすい
こうすることで、自分を成長させる習慣がどんどん累積されていきます。いつの間にか自己成長のサイクルが自動回転し始め、「意識しなくても成長している状態」が生まれるのです。
実際に試してみると: 「毎週月曜9時に提案書作成前の15分でニーズ整理」と決めてカレンダーに入れたところ、3週間目からは意識しなくても自然に体が動くようになりました。単発の行動では忘れてしまいがちだった学びが、習慣として定着することで、確実にスキルとして身についていくのを実感しました。
やり方で悩まず、振り返りの質に集中する
同じ経験をしても、そこから学べる人と学べない人がいます。その違いは才能ではなく、経験を振り返り、学びに変える習慣があるかどうかです。
YWTは、「何を書けばいいかわからない」という振り返りの最大のハードルを取り除いてくれます。
やり方で悩む必要はありません。3つの質問に答えるだけ。
あとは、今回紹介した3つの工夫で「振り返りの中身」を充実させていけば、あなたの経験は確実に成長の糧に変わっていきます。
まずは1日5分、今日の仕事をYWTで振り返ってみてください。
*1: 日本能率協会コンサルティング(JMAC)|YWT(やったこと・わかったこと・次にやること)
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。